香川県にある紙袋用プラスチック取っ手の国内トップメーカー・松浦産業。同社は取っ手付きのうどん容器を独自に開発した。2023年7月、応援・購入サイト「Makuake(マクアケ)」で先行販売したところ、目標の10万円をはるかに超える応援購入総額約415万円を達成。その後の本販売も好調な売れ行きが続いている。
“うどん県人”ならではの消費者向け商品を開発
「プラスチック製のうどん容器なら100円ショップにもありますが、当社のうどん容器は材質や形状の細部までこだわり、うどんをおいしく食べやすくすることに特化してつくられています」
松浦産業副社長の松浦英樹さんがそう説明するのは、『「とって」屋さんが作った「とって」おきのうどん鉢』のことだ。同商品は、うどん容器に取っ手が付いているのが特徴だ。親指を立てて「いいね」の手の形のまましっかり容器を持てる。また、重心を取っ手の近くに持ってくることでより安定感を高め、縁にはだし専用の飲み口を2カ所、取り分けしやすいように注ぎ口を1カ所設けている。 「“うどん県人”の私たちは、だしも残さず飲みます。ただ、鉢を触ると熱いので、少し冷めてからでないと持ち上げにくい。その点、取っ手があれば熱さを感じることもなく、飲み口からスムーズにだしが飲めるんです」と松浦さんは補足する。
「とって」おきのうどん鉢は同社にとって初のBtoC商品だ。同社は1932年に縄ロープの生産でスタートし、66年からPP(ポリプロピレン)やPE(ポリエチレン)延伸ロープの生産でプラスチック業界に進出した。以降、紙袋の取っ手の生産に乗り出し、国内トップシェアメーカーへと成長。プラスチックの成型技術を生かして、大型テーマパークの菓子用容器や企業の販促商品なども扱ってきた。そんな同社が消費者向け商品として着目したのが“うどん鉢”だった。
持ちやすさ、食べやすさをとことん追求したデザイン
開発のきっかけはコロナ禍だ。ウイルスの感染拡大を受けて、同県のうどん店では3密を防ぐため、テイクアウトを始めるところが出てきた。しかし、熱々のうどんが入った鉢を持ち運ぶのは重いし危険を伴う。実際、松浦さんはうどんをお盆に載せて駐車場まで運ぶ人を見かけたことがあった。聞けば足の悪い祖母のためにテイクアウトしてきたというが、テーブルのない車内でお年寄りが膝の上にお盆を載せてうどんを食べるのは、いかにも不安定だし、やけどの恐れもある。
この出来事から松浦さんは、軽く、運びやすく、持ちやすく、そして食べやすいという条件を満たすうどん容器をつくることを思い立ち、2021年春頃から製作に取りかかった。 「当社は取っ手屋なので、真っ先に容器に取っ手を付けようと思いました。最初は容器の縁から真っすぐ水平に伸びる形を考えましたが、持つ際に脇が開いてしまい不安定です。そこで取っ手を曲げることにしたんですが、今度は取っ手が邪魔になって容器が重ねられない。妥協したくなかったのでプロに頼むことにしました」
松浦さんが頼ったのは、トヨタの名車を手掛けたプロダクトデザイナーだ。既存商品の製作でご縁があったことで依頼が実現した。デザイナーは人間工学に基づいた機能性を追求し、形状を決めていった。例えば、取っ手は手にフィットするように緩やかなカーブを描き、中央部をくぼませて容器を重ねられるようにした。飲み口が取っ手寄りなのは、容器を持ち上げた際にちょうど口が当たる位置だからで、2カ所あるのは左右どちらの手で持っても使えるように配慮されたものだ。注ぎ口を平らにしたことで液だれも防ぐ。こうした無駄のない美しいフォルムと持ちやすさにこだわったユニバーサルデザインが完成するまでには、予想以上に時間がかかった。 「同時に難儀したのは材質です。軽量で耐久性に優れ、耐熱温度が高く、電子レンジや食洗器にも使用できるなどの条件を満たす素材を見つけるまで、思ったより時間がかかりました。4カ月ほど試作を繰り返して、ようやく飛行機部品にも使われているエンジニアプラスチックにたどり着きました」
先行販売のキャッチコピーは「とって」屋さんで大成功
開発開始から約2年のときを経て商品は完成したが、発売までにもう一つハードルがあった。コロナ禍で経営に苦しんだうどん店を応援するために、地元の四つのうどん店とコラボして、「うどん鉢と讃岐うどんセット」を「Makuake」で先行販売することにしたが、トップページに掲載する商品名や、キャッチコピーがなかなか決まらなかったのだ。 「トップページは売れ行きを大きく左右するだけに、プロの意見を参考にしながら考えました。『取っ手が特徴だから“とって屋さんが作った”と入れた方がいい』とアドバイスされて、最初はピンと来なかったんですが採用し、最終的に長い商品名になりました」
プラスチック製品だからと安売りせず、容器4個とうどんのセット価格を1万800円に設定して、23年7月2日「うどんの日」に販売を開始した。すると目標金額の10万円をあっという間に超え、最終的に応援購入総額約415万円、サポーター568人という成果を上げた。メディアにもたびたび取り上げられ、同年10月からのECサイトでの本販売でも順調に売れている。 「持ちやすさや食べやすさに徹底的にこだわったことは間違いではありませんでした。今後は介護の現場での活用も視野に入れながら、新たな商品開発をしていきたい」と松浦さんは晴れやかに語った。
会社データ
社 名 : 松浦産業株式会社(まつうらさんぎょう)
所在地 : 香川県善通寺市上吉田町270-1
電 話 : 0877-62-2555
HP :https://www.matsuura-sangyo.co.jp
代表者 : 松浦公之 代表取締役社長
設 立 : 1950年
従業員 : 47人
【善通寺商工会議所】
※月刊石垣2024年1月号に掲載された記事です。
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