人々の趣味や価値観が多様化する時代に、観光はどうなるのか。本連載では、さまざまな事例からこの問題を考える。
志摩スペイン村パルケエスパーニャは、三重県志摩市に1994年4月、開園したテーマパークだ。滑り出しこそ快調で年間来場者数は426万人を超えたが、2000年には190万人にまで落ち込む。交通アクセスの悪さが要因の一つだろう。そんなスペイン村が、23年2月から4月にVTuber周央(すおう)サンゴ(以下、ンゴ)とのコラボイベントを実施。結果は大成功で、来場者数は前年比約1・9倍の23万6000人(2~3月)を記録した。
VTuberはバーチャルユーチューバーの略で「アバター」を用いて動画の投稿やライブ配信をする人のこと。ンゴは配信でパルケエスパーニャを「人と交通の便だけが無い最高のテーマパーク」と紹介し、チュロスが「世界一うまい!」と絶賛。コラボ期間中のチュロスの売り上げは一日平均1000本ほどで、例年の約33倍に上った。
ンゴは24年1月現在、チャンネル登録者数が50万人を超える人気VTuberだが、本取り組みは、単にインフルエンサーの影響力を借りた「宣伝」ではない。ンゴはスペイン村を自ら訪れ、愛のあるいじりを交えて素晴らしさをアツく語った。それがSNSで話題になった時、素早く察知したスペイン村のアカウントがンゴに適切にアプローチし、コラボにつながった。取り組みもお互いのコンテンツを尊重した内容だった。
実感と愛を伴ったプレゼン。相互に敬意を払うコラボ。それが成立するプロセスそのものもコンテンツとなり、多くの人を熱狂に巻き込んだ。24年2月からはンゴに加え、チャンネル登録者数180万人を超える壱百満天原(ひゃくまんてんばら)サロメもバーチャルアンバサダーに就任し、コラボが行われる。アツい愛と尊敬の連鎖がどうなるのか、注目だ。
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