3月16日に北陸新幹線の金沢―敦賀間が延伸開業する。沿線の商工会議所ではこのチャンスを生かし、交流人口の拡大を通じて経済発展、地域の活性化を図るため、開業に向けた活動が展開されている。そのような中、1月1日、震度7の大地震が能登半島を襲った。「令和6年能登半島地震」の被災地は、能登半島・石川県をはじめ、富山、新潟、福井の各県に及び、復旧・復興に向けた動きが加速できるよう、官民一体となった取り組みが重要だ。北陸新幹線延伸開業は、被災各地への復旧支援・本格復興で重要な役割を担うことになるだろう。福井県連と敦賀、小松、加賀の各商工会議所の地域一丸となった開業に向けた取り組みと能登半島地震からの復興への思いを報告する。 *本稿は2023年12月、新駅開業に向けた各商工会議所・連合会の活動を取材したものです。
能登半島地震 支援のメッセージ
福井県商工会議所連合会 会頭
八木誠一郎
「全力で支援に当たる」 1月1日に発生した令和6年能登半島地震で犠牲となられた方々に対し、深く哀悼の意を表します。被災された皆さまに心よりお見舞い申し上げます。福井県内企業では、建物や設備の損壊、休業や取引先被災による売り上げ損失など被害が報告されており、福井商工会議所では「特別相談窓口」を設置し事業者からの相談に寄り添って丁寧に対応しています。 また、甚大な被害が出ている石川県輪島・珠洲・七尾商工会議所管内をはじめ富山県など、被災地への義援金や、職員派遣などの必要としている支援に全力で当たってまいります。
新幹線開業で福井の魅力はより高まる 北陸一体となって国内外へPRしていく
福井県内には新たに四つの新幹線駅(芦原温泉、福井、越前たけふ、敦賀)が誕生する。この大きなチャンスに、福井県の7商工会議所を取りまとめる福井県商工会議所連合会では、観光客誘致およびビジネス面において、各商工会議所と連携を図り、地域の特色を生かした取り組みをどのように行っているのか。同連合会の八木誠一郎会頭に話を聞いた。
高度な技術を誇る企業が多数観光地も食も魅力満載
一般財団法人日本総合研究所が2年ごとに行っている「全47都道府県幸福度ランキング」において、5回連続で日本一の福井県は、住民の生活面だけでなく、産業や観光面でも多くの特長を備えていると、福井商工会議所および福井県商工会議所連合会の会頭を務める八木誠一郎さんは言う。 「福井県の産業は製造業の割合が高く、国内外で高いシェアを持つ製品や独自の高度な技術を誇る企業が多数存在しています。特に繊維と眼鏡フレームは地場産業で、繊維は羽二重(絹織物の一種)から始まり、今では合成繊維の生産で国内トップレベルのシェアです。眼鏡フレームは国内シェア95%を占め、近年ではそのチタン加工技術が医療や電子機器などにも生かされています」 観光面では、福井県では国内で発見された恐竜の11の新種のうち6種が見つかっており、「福井県立恐竜博物館」(勝山市)は、世界三大恐竜博物館の一つに数えられている。「大本山永平寺」(永平寺町)は、禅文化を体験できる宿坊施設など門前が整備され、外国人観光客からの注目度も高い。 「現在、各地で観光地のリニューアルや新規整備を進めています。そこで滞在型観光を推進していくために重要になるのが食です。特に『越前がに』は全国で唯一、皇室に献上されているカニです。また、福井県は『そばがおいしいと思う都道府県ランキング』で3年連続1位となっており、越前おろしそばは絶品です。そして日本酒。福井県は古くから酒づくりが盛んで、個性豊かな地酒がそろっている。そこで福井商工会議所では、越前おろしそばと地酒、地モノを使った肴(さかな)を組み合わせて提供するSOBAR(ソバール)プロジェクトを進めており、現在40店舗ほどが認定されています」
「県都グランドデザイン」でまちの将来像を描いて実行
日本政策投資銀行の調査では、北陸新幹線の延伸により観光・ビジネスの両面で首都圏から福井へ訪れる人は約2倍になることが見込まれ、福井県内への経済効果は309億円と試算されている。 「東京駅から福井駅まで最速で2時間51分というのは、大きなインパクトがあります。福井県内が関西・中京圏へのアクセスの良さに加え、首都圏や北信越地方とも直結するので、ヒト・モノ・カネの交流がより活発になります。さまざまな地域や異分野の人たちの知恵が福井で交流することで化学反応が起こり、新たな事業アイデアやイノベーションが生み出されていくものと期待しています」
それに備えて福井県、福井市、福井商工会議所の三者は共同で、訪れて良し、住んで良し、働いて良しのまちづくりを進めるため、北陸新幹線開業後のまちの将来像を描いた「県都グランドデザイン」を2022年10月に策定した。すでに官民連携で取り組んでおり、河原でのキャンプやバーベキュー、カヌーなどができるスポットづくりや、桜並木や橋梁(きょうりょう)などのライトアップ、まちづくりの担い手を育成する「まちなか大学」の実施、まちなか周遊を楽しむ低速電動モビリティ「ふくトゥク」の運行実験などを始めている。 「また、まちに人が集うきっかけとしてスポーツは大きなコンテンツとなります。福井市を本拠地とするプロバスケットボールチームが今季からB3(3部リーグ)に新規参入してB1入りを目指しており、そのために5千人以上収容するアリーナ整備構想が検討されています。県内の各商工会議所の取り組みとしては、敦賀は福井市と同様に県・敦賀市・商工会議所の三者による推進組織がさまざまな活動に取り組まれていますし、勝山は恐竜、大野は星空、小浜は鯖(さば)街道と御食国(みけつくに)(飛鳥・奈良時代に海産物などを朝廷に献上していた地域)、武生と鯖江はメガネや伝統工芸などのものづくりといった、各地域の観光資源や産業の魅力を生かした商品開発やイベント、PR発信を行っています」
北陸3県の連携を強化し沿線の都市と交流を図る
北陸新幹線延伸に際しては、他県との連携や交流も重要になってくると八木会頭は言う。 「まずは北陸3県の連携強化が重要です。新幹線延伸で福井駅―金沢駅の所要時間は最短で23分となり、金沢駅―富山駅もほぼ同じ。敦賀駅―富山駅が1時間程度でつながることになり、北陸を一体化して、2、3泊して周遊する観光地としてアピールできます。昨年12月26日に富山、金沢、福井の3商工会議所による連携会議を立ち上げたので、オール北陸で盛り上げていきます」
また福井商工会議所は、東京に向かう沿線途中のさいたま、長野、高崎の商工会議所とネットワークをつくり、新たな経済交流および観光や文化交流など地域の魅力を広く発信していく機会を促進している。そのために各商工会議所に出向き、経済交流会や飲食事業者とのマッチング商談会、PR事業などを行っている。 「産業面では、福井の製造業が持つ技術とコラボして新しい価値観をつくる働き掛けをしていきたい。また埼玉、長野、群馬の3県とも海がなく、食材が福井と異なる部分が多いので、まずは食の交流から始めるのもいい。そのようにして沿線地域との交流の幅を徐々に広げていきたいと考えています」
さらに物産販売の面では、大消費地である首都圏において、福井県の逸品を紹介する取り組みも行っている。2月14日、15日には東京商工会議所ビルで「ふくい観光土産物産展」を開催するほか、大宮駅の商業施設では福井県食材を使用した料理提供など「福井県フェア」を開催する予定。 「ただし、首都圏の消費量に供給が追い付かない食材もありますし、輸送することで新鮮さも失われてしまいます。それらは福井に来て味わっていただいた方がいいので、出していくプッシュ型と来てもらうプル型を分けてアピールしていく必要があります。そのような細かいマーケティングと発信方法は非常に重要なので、それを商工会議所としてどのようにサポートして行っていくかが、今後の課題になります」
県外の有名企業が福井に注目その手法を学び今後に生かす
北陸新幹線延伸開業に向けては、各商工会議所だけではなく県内外の企業も新たな動きを始めている。福井駅前では三つのブロックで再開発が行われており、インバウンドに強い「コートヤード・バイ・マリオット福井」ができるほか、物販やフードコートなどの商業店舗もオープンする。また、リノベーション基金を活用して、駅周辺の古い商店街の建物を再利用した新規出店も進んでいる。 「昨年1月には福井市の第三セクター会社『まちづくり福井』を増資して、福井商工会議所が筆頭株主になりました。今後は商店街の既存ストックを活用したリノベーションを面的に広げていく取り組みが進んでいきます。福井を訪れるたびに変わっていく、その変化も楽しんでいただけるようなまちにしていきたいと考えています」
福井市以外でも、北前船の寄港地として栄えた港町の三国や敦賀市では、オーベルジュ(宿泊施設付きレストラン)が整備あるいは計画され、永平寺町では老舗酒造メーカーが北陸の食や文化を伝える複合施設をオープン。大野市ではアウトドア用品メーカーのモンベルが道の駅に出店し、勝山市の福井県立恐竜博物館の近くには星野リゾート系列のホテル建設も計画されるなど、有名企業が福井県に着目している。 「県外の日本を代表する企業が、福井のこれまで注目されていなかったところに可能性を見いだしている。そういった企業のマーケティングを勉強させてもらい、自分たちのまちづくりに生かしていくことが、ウィンウィンの関係につながると思っています」
そして、北陸新幹線延伸開業が福井県にとってゴールではないと八木会頭は強調する。 「福井県は北陸の中で関西にも中京にも近い。それが北陸新幹線により東京ともつながったことで、福井県は関西、中京、北信越、首都圏を結ぶ接点になります。それにより福井県はチャンスにあふれ、その魅力が一層高まっていく。今後はその仕掛けと環境づくりを、福井県、市町自治体、経済界が一体となって、『チーム福井』で取り組んでいきたいと思っています」
連合会データ
連合会名 : 一般社団法人福井県商工会議所連合会
所在地 : 福井県福井市西木田2-8-1 福井商工会議所ビル内
電 話 : 0776-33-8285
HP : https://www.fcci.or.jp/as/
※月刊石垣2024年2月号に掲載された記事です。
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