創業家の孫で三女として生まれた石川格子(のりこ)さんは、異業種から家業入りした。進んで現場に立ち、資格取得で評価を得ると、2013年、30歳で三代目代表取締役社長に就任。電気工事業界の女性社長は極めてまれだ。先代からの高い技術を守り育て、地域に愛される企業を目指し、次世代にバトンをつなぐ。
英語の塾講師から電気工事士へ転身
福島県の白河地区を拠点とする東陽電気工事の創業は1933年で、首都圏の電気工事会社の白河出張所としてスタートした。所長を務めた石川盛蔵さんが同社の創業者であり、息子、そして孫の石川格子さんへと世代交代して今に至る。 「祖父の時代の福島には、電気が通っていない地域が多く、電気を通すと地域を挙げて喜ばれ、地域貢献につながる事業に祖父は誇りを感じていたようです。そうした祖父の背中を見て父が継ぎましたが、私は三姉妹の末っ子として生まれたので家業を気にすることもなく、高校を卒業すると地元を離れました」
大学卒業後は英語の塾講師の職に就き、週末だけ実家に戻る生活。ちょうどバブルがはじけた頃で、帰るたびに耳にしたのが、家業の業績不振だった。 「二人の姉のうち、長女は家業の総務で経営者タイプではなく、次女は結婚して夫婦で起業していました。第三者承継も考えたようですが、借金もあって難しく、父は体調不良。継ぐなら私しかいないかもしれないと思い、家業入りを決めました」
先代は口にはしなかったものの、三女への事業承継を喜んでいたという。石川さんは4年の塾講師歴に終止符を打って、知識ゼロの状態で電気工事業界に飛び込んだ。 「不安よりも新しいことへの挑戦、両親や社員、地域に恩返しがしたい気持ちが先に立ちました」
資格を次々と取得し家業と真剣に向き合う
2010年に入社すると、経理や営業、現場を一通り経験する。 「周囲はその道のプロばかり。知識も経験も到底追い付けるわけがないので資格取得に励みました。周囲の目が変わったのは、12年に電気工事士の資格を第二種、第一種と連続で取得してから。電気工事士として現場に立ちながら17年にMBA(経営学修士)を取得し、19年には実務経験5年が必要な1級電気工事施工管理技士も取りました。これが本気度の証しになり、社内外に初めて口を利いてもらえる人もいて、仕事の幅が広がりました」
だが、高度な技術力を持ち、トップダウンでリーダーシップを発揮してきた先代と、社員の意見を聞き入れてボトムアップで進めたい石川さんとでは、社員や会社を思う気持ちは同じという点を除いて手法が違った。 「父の思いは分かりましたが、今後も会社を盛り立て続けるには、時代に合ったやり方が必要だと説得し、入社して約3年半の13年11月に社長を引き継ぎました」
石川さんは社内改革を進め、年功序列制から人事評価制度に基づいた給与体系とし、就業規則も改定。作業服も機能性とデザイン性を考慮して一新。新たに女性用の作業服も制定した。 「父とは、意見の違いからよく対立しましたが、信頼を寄せる人も多く、学ぶべき点は多々ありました。18年に父が他界すると、社員の半数近くが去ってしまいました。でも、勤続年数の長い2人が『付いて行くから』と背中を押し、支えてくれたため、技術者不足の解消に努めることができたのです」
クレド(経営理念や従業員の行動指針)をまとめ、外部コンサルタントや求人情報専門の検索エンジンの活用、ホームページの刷新など、ネット社会に対応しつつ新体制を整えていく。
安心して失敗できる場をつくって未来につなぐ
「33年の創業100周年に向け、会社の土台を盤石なものとするため、私がビジョンとして掲げたのは、『地域に愛される100年企業』。若者から選ばれる企業になるよう、SDGsや健康経営にも積極的に取り組みました」
21年から23年には連続して「健康経営優良法人」(経済産業省)のブライト500(中小規模法人部門上位500社)の認定を受ける。また、敷地内に〝安心して失敗できる場〟として2階建ての研修棟を建て、模擬訓練やOJT研修、資格取得補助講習などを充実させた。 「地元の工業高校の課外授業支援や企業説明会、小中学生対象の仕事体験イベント『アウトオブキッザニアインしらかわ』など、地域に自社を知ってもらう活動にも力を入れています」
毎年11月に開催する経営方針発表会には、地域の関連企業や団体、白河商工会議所を含めて約50人を招待。翌春の新入社員のお披露目も兼ねて、社員一人一人のやる気を高め、地元企業としての存在価値を認めてもらう機会としている。
さらに50年、100年先を見据えて構想しているのは、次世代を担う子ども関連の事業だという。 「企業も業界も地域も〝人〟あってこそ。そして未来へつなぐには質の高い教育が欠かせません。本業に加えてNPOまたは財団などで、企業や業界の枠を超えた児童クラブのような、地域に必要とされる活動を展開できたらと考えています。どんな業態でも地域貢献できる集団としてバトンをつなげていきたいですね」
そのためにも、娘へのスムーズな世代交代を目指して「誘導中」と笑った。
会社データ
社名 : 東陽電気工事株式会社
所在地 : 福島県西白河郡西郷村字道南西85番地
電話 : 0248-22-6262
HP : https://www.toyodenkikouji.jp
代表者 : 石川格子 代表取締役
従業員 : 10人
【白河商工会議所】
※月刊石垣2024年3月号に掲載された記事です。
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