Femtech(フェムテック)=Female+Technologyを掛け合わせた造語で、女性が抱える健康問題やライフステージの課題を技術で解決するためのさまざまな製品・サービスを指す。日本では、女性の社会進出や出生率の低下が大きな課題となっており、政府のフェムテック支援も始まっている。この市場の可能性などについて日本総合研究所の田川絢子さんに話を聞くとともに、すでに参入している中小・地域企業の取り組みを紹介する。
京都発のフェムテックを世界へAIで働きやすい環境づくりを支援
京都市にある京都大学発のベンチャー企業Flora(フローラ)は、AIを使い、妊娠や月経などに伴う不調をサポートする個人向けのアプリや、女性特有の健康課題を可視化することで、誰もが働きやすい環境づくりを支援する法人向けサービスなどを展開している。こうした活動が認められ、同社は京都商工会議所の「京都・知恵アントレ大賞2022」など多数の賞を受賞している。
100人から聞き取り調査 妊婦サポートアプリ開発へ
Floraは、個人向けの「floraアプリ」や、法人向けサービス「flora biz(フローラ・ビズ)」などを展開している。代表取締役のアンナ・クレシェンコさんはウクライナ出身で、2017年に来日し、京都大学で学びながら、在学中の20年に同社を創業した。きっかけは、親戚が妊娠うつ病を発症したことで、当初は妊婦をサポートするアプリを開発しようとした。同社はSNSで呼び掛けるなどして、日本全国の妊婦や出産直後の女性、合計100人にオンラインでインタビューし、悩みや症状の種類、不快の程度を聞き、数値化した。 「妊娠などのセンシティブなことを、外国人から聞かれるのは嫌なのではないかと、私の方が緊張していました」と振り返るクレシェンコさん。このときのインタビューと数値化したデータが同社の軸となり、アプリを開発した。
その後、提携している産婦人科医などから助言を受け、妊娠に伴う病気を予防するためには、月経など女性の全てのライフステージを扱わなければならないことが分かった。そこで同社は、思春期から更年期まで幅広い女性が使えるアプリに改良。22年に公開されたこのアプリは、生理開始日や体調などを記録することで、一人一人に合わせたケアや情報をAIが提案するもので、現在のダウンロード数は約10万件となっている。
女性の社会進出を支援する 法人向けアプリを開発
個人向けアプリを運用しながら、同社は「女性特有の健康課題は個人レベルではなく、法人レベルでも大きな課題」ということに気付いた。同社では、国や企業が公表しているデータなどを情報収集し、どのようなサービスが必要か検討した。 「日本では女性の社会進出が進んでいますが、例えば月経中に労働生産性が下がる、更年期症状や更年期障害のせいで昇進に影響がある人もいます。また、人事担当が男性の場合は、女性特有の課題にどう答えていいのか分からない。業界や業種によって顕在化する課題が違うので、それを可視化しなければいけないことが分かりました」
そこで同社は、協力企業を募って実証実験を開始した。同社のアプリを使ってもらうと、重い生理痛に悩む女性が毎月、何もケアせずに我慢して仕事をしていることが分かった一方、なぜアプリによるサポートが必要なのかを理解してもらえないこともあった。同社では「みんなが働きやすい環境をつくるため」と説明し、理解を求めた。こうした実証実験を重ね、同社は法人向けサービスをつくり上げていった。
このような活動が認められ、同社は「月経や更年期障害など女性特有の課題解消を促すことで、従業員のパフォーマンスを向上させ、企業の業績向上につなげる」として、京都商工会議所の「京都・知恵アントレ大賞2022」を受賞した。
「京都発、世界へ広げる」中小企業へサービス展開も
23年に正式に開始された同社の法人向けサービスは、次の三つを柱としている。①研修などにより、管理職や周りの人のリテラシーを向上させる。②スマホアプリを使い、パーソナライズ窓口で悩みを解決する。③同社独自のサーベイ(従業員の認識や抱えている課題などを把握する調査)により、女性特有の課題による損失額などを可視化し、誰もが働きやすい環境づくりを支援する。
このうち②のサービスアプリは、AIチャット相談、オンライン診療、セルフチェック、健康商品のクーポンという四つの機能を備えている。同社のAIには、産婦人科に関するデータや論文がインプットされており、それを基に、おのおののユーザーにパーソナライズされた課題解決方法を提案している。個人差がある課題だからこそ、AIが活躍するそうだ。
このサービスは現在、大手企業を中心に50社以上が導入しており、女性からは「生理休暇が取りやすくなった」、男性からは「不妊治療などの相談をされても答えられるようになった」という声が寄せられているという。同社のこうした活動が認められ、23年には、男女共同参画による豊かな地域社会の創造に向けて、女性の一層の能力発揮を図るため、各分野での功績の著しい女性に対し、京都府知事が授与する「京都府あけぼの賞」に輝くなど、これまでに多くの賞を受賞している。
同社の法人向けサービスについてクレシェンコさんは「女性が活躍しやすい環境をつくることは、倫理的な問題だけではなく、経済的なメリットもあるし、若者が関心を持っているので、リクルート戦略にもなる。特別なことではなく、企業が当たり前に取り組んでほしい」という。今年の春には、中小企業向けのパッケージサービスも発表予定で、導入企業300社を目指す。また、東南アジアへの展開も開始しており、「京都発のフェムテックベンチャーとして、このサービスを全世界に広めたい」と意気込みを語った。
会社データ
社 名 : Flora株式会社(フローラ)
所在地 : 京都府京都市左京区吉田橘町32番地
HP : https://www.flora-tech.jp
代表者 : アンナ・クレシェンコ 代表取締役
従業員 : 20人
【京都商工会議所】
※月刊石垣2024年4月号に掲載された記事です。
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