歴史文化香る島根県松江市の中心地で、創業132年目を迎える藤本米穀店。創業当時から良質な米を厳選販売し、「品質と信用」を軸に歴史を重ねてきた。五代目の藤本真由さんは、創業時からの信念を継承しつつ「赤ちゃん出生体重米」「キューブ米」などの新商品を開発し、老舗米店に新風を吹かせている。
大火や戦中戦後をくぐり抜け創業の理念を貫く
「水の都」として知られる松江市。東西に中海と宍道湖を有し、国宝・松江城の城下町として、歴史と文化香る美しいまち並みを形成している。その市街地を南北に分けて流れる大橋川沿いに、藤本米穀店はある。創業は1893年で、前身はウナギやスッポンなどを扱う鮮魚問屋だったという。それを米店に転じたのが初代の藤本虎之助さんだ。 「殺生して商売をしたくなかったのが理由と伝えられています。数字に明るく、いち早く相場情報を収集し、米を出荷していたそうです。県内の米産地を訪ね歩いては優良品種を厳選して販売し、当時の島根産米の評価は全国的に高くはなかったのですが、1915年に全国俵米品評会に出品して3等賞に輝いています」
五代目で代表取締役社長の藤本真由さんは、130年以上にわたる家業の歴史を振り返り語る。その歴史は決して平坦ではなく、31年には市内に広がった大火で店は全焼。何とか再建するが、その後、戦争が始まり、戦時統制で食糧営団に吸収されてしまう。二代目が営団内で米の配給業務に奔走し、藤本米穀店が個店として復活するのは終戦から14年後の59年。そこから三代目が行政や学校、病院、百貨店の販路を開拓し、同時に市内の家庭へ配達拡充を図ったという。 「そして四代目の父が家業を継いだ当時は、食糧管理法があって、農家から直接米を買えず、卸業者から仕入れていました。それでも父は農地に足を運んでは農家との交流を深めました。子どもだった僕もよく同行していました」
米のエキスパートとなり米屋の使命を果たしていく
藤本さんは、店の歴史を知る由もない幼少の頃から従業員や父が働く姿を見て育ち、「米屋になる」と宣言していたと笑う。それは成長しても変わらなかった。商売の基礎を学ぶため関西学院大学商学部に進み、卒業後は「外の世界を見ておきたい」と、3年間と決め、兵庫の総合食品卸商社に就職。全国の物流システムの立ち上げに携わり、各地のセンター長を指導するポストに就き、修業期間を終えた。そして、2008年、25歳で家業に入った。「戻ってすぐ専務になりましたが、店の掃除や接客など先輩従業員に倣って、一からのスタートでした。20代は勉強期間とし、米の専門家になるべく資格を取りました。米の等級や品種を認定できる『農産物検査員』、炊き方や保存方法を助言する『ごはんソムリエ』の資格などです」
さらに時間を見つけては、先代同様に生産者を訪ねた。店頭に並ぶ厳選した米、約30品の産地の特徴からおいしい食べ方まで語れるエキスパートになっていく。 「島根の米の生産量は全国の約1%。米の相場は天候や災害、政治情勢などで毎年変動する不安定なものです。それでも標高の高さ、昼夜の寒暖差を生かし、実直に米づくりを続けている農家がたくさんあります。だからこそ、地元の良質な米を知ってもらい、食卓に届けるのが今もこの先も米屋の使命と考えています」
農地支援や商品開発を駆使し良質な米を未来につなぐ
16年に代表取締役社長に就任した藤本さんは、その前後で商品開発にも注力した。米の売り上げの7〜8割を業務用が占める中、狙いは一般客のニーズの掘り起こしだ。BtoCで成功する同業者の情報を集めていたあるとき、出産を控えた友人から、出生時と同体重の祝い米について相談される。見聞きしていた『赤ちゃん出生体重米』を提案すると大好評で、口コミで話題になっていった。その後、米2合を真空パックにした「キューブ米」を発売すると、食べ比べやギフト商品にと喜ばれ、今では松江の土産品に入るほどの人気を博す。 「今後は産婦人科や妻のママ友ネットワークを活用して、より積極的に認知拡大を図る予定です」
また、島根県産の米の認知、消費拡大に向け、店舗販売以外の活動にも目を向ける。台湾など海外販路も視野に入れ、輸出支援のため現地でフェアを行ったり、農地の存続と発展に寄与するため、地域の米をブランド化して販売したりするなど、生産者のやりがいを生む活動も行う。生産者の人手不足や高齢化の問題については、有志とともに農作業応援イベントで草刈りを企画。SNSで広く発信すると、多数のボランティアが集まり、地域を活気付けることにもつながった。
そうした米屋の枠を超えた活動はさらに広がり、松江商工会議所青年部の副会長を務めるなど、地域全体の未来を考える活動に発展した。 「一度県外に出たことで、地元の歴史や文化への関心が高まり、家業だけではなく地域全体を良くするために何ができるかが行動指針になりました。米をつくる人、食べる人をつなぐのが米屋の役割ですが、100年先、米屋ではなくとも地域に貢献する事業をしていてほしいですね。子どもが3人いて、長男は5歳。継いでくれるかどうか分かりませんけど」
そう言って、会長職の先代と顔を見合わせて笑った。
会社データ
社名 : 有限会社藤本米穀店(ふじもとべいこくてん)
所在地 : 島根県松江市東本町3-18
電話 : 0852-21-2900
HP : https://fujimotobeikoku.com
代表者 : 藤本真由 代表取締役社長
従業員 : 約10人(パート含む)
【松江商工会議所】
※月刊石垣2024年6月号に掲載された記事です。
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