建設業界の中でも中小規模の地域に根差した建設関連企業は、いわゆるゼネコン(大手総合建設会社)から専門業務を請け負うサブコンと呼ばれてきた。その中には専門分野に特化し、独立型としての立場を確立している企業がある。業績が伸びている建設関連企業の“今”に迫った。
照明鉄塔の製作で日本トップクラス 高い技術の「鉄のスペシャリスト」
大型の鋼構造物を製作する北陸建工グループは、鉄板溶断や曲げ加工などの技術を持つ鉄のスペシャリストである。照明鉄塔やトンネル用型枠で日本トップクラスのシェアを誇り、名古屋駅前のタワービルの特殊鉄骨やプロ野球場の照明鉄塔など、全国の著名な建造物の建設に携わっている。
「特殊鉄骨なら北陸建工」というブランディング
富山県滑川市にある北陸建工グループは、1977年に設立された北陸建工を中核としている。前身の会社は57年創業で、当初は工場のプラントなどを製作していた。その後、国内で造船業が盛んになり、マスト(帆柱)など船の部材を製作した。「マストができるなら、照明鉄塔もできるのではないか」という顧客からの声を契機に80年頃から鉄塔製作を始め、現在では照明鉄塔の製作本数で日本一といわれている。大型プレス機を活用し、鉄塔のほか、ビルや競技場などの特殊鉄骨、トンネル用型枠など付加価値の高い製品をつくっている。 「創業から一貫して、時代に求められる鋼構造物をつくってきました。特殊鉄骨といえば北陸建工、というブランディングをしています」というのは、二代目で社長の酒井洋さんである。同業他社との差別化を図るため特殊な鋼構造物に特化し、さらにクオリティー、スピード、コストを追求している。このため同社は、鉄板溶断事業などを分社化し、グループ内で資材調達から出荷までワンストップで行っている。グループ各社の財務と人事部門は、建工ホールディングスに集約し、一元管理により効率化を図っている。2018年度には、中小企業庁の「はばたく中小企業・小規模事業者300社」に選出された。
新たな物流拠点を整備し2024年問題に対応
酒井さんが社長に就任したのは16年。翌年の17年には、人口減少による運送業のドライバー不足に対応するため、グループ内に運送会社を設立した。さらに、本社近くの用地を取得し、物流拠点「北陸BASE」の建設に着手した。 「今までは材料を仕入れる際に、商社に頼めばこまめに配達してくれましたが、物流の2024年問題があるので、これからは時間指定もできなくなります。ジャストインタイムを実現するために、材料の入荷と製品の出荷を一カ所で行える場所が必要と考えました」という酒井さん。物流拠点の工事はコロナ禍で遅れたが、今年10月に完成予定だという。
2024年問題は、同社製品の出荷先である建設現場にも大きく関わっている。現場では、今までより少ない時間と人数で仕上げなくてはならない。酒井さんは「現場で求められることをできるのが、われわれの強み」と語る。「鉄骨は伸び縮みやひずみがあるので、図面通りに製作しても、ほんの数㎜の差で組み上げられないことがあります。それを考慮して、現場で組み上げたときにぴったり合う製品をつくれば、工期短縮につながります。それができるのが、当社の技術です」と胸を張る。単にものをつくるだけではなく、特殊で複雑なものを製作してきた経験から得た技術提案ができるのも、同社が選ばれる理由だという。
若手社員の採用活動チームがメンターになり離職率低下
酒井さんは社長就任後、人材採用を担当し、自ら会社説明会なども行っていた。しかし、参加者の学生が求める情報と、会社側が伝えたい情報にズレがあることを痛感した。そこで2年前から、20代の社員で構成する採用活動チーム「Spreaders(スプレッダーズ)」を結成し、採用の企画、募集、一次選考などを行っている。学生は年齢が近いため、説明会などで話を聞きやすく、内定者は若手社員が入社前から面倒を見る。入社後は、若手社員が自然にメンター(指導や助言をして精神的なサポートをする)になるので、離職率が下がったという。 「今までは、職人気質の先輩社員と若者との間で、世代間ギャップがあったのが最大の離職理由でした。でも、当社の事業がいかに社会に貢献しているか、若い社員が伝えると学生に伝わりやすく、やりがいを感じて入社してくれます。これからの人材採用や育成で必要な方法ですね」と酒井さんは、若手チームに期待を寄せている。
同社の今後について、酒井さんは「時代に求められる鋼構造物をつくる」と話す。現在は、照明鉄塔や無線鉄塔、トンネル用型枠のほかに、洋上風力発電用の鉄塔など新たな分野にもチャレンジしている。また、都市部では再開発事業の中に特殊構造物の需要があり、全国ではアリーナやスタジアムの計画が進んでいる。滑川商工会議所の副会頭でもある酒井さんは、「滑川の地域経済や企業をいかに活性化させるか。そのミッション達成のためにも、北陸建工という会社が、全国の建造物などの製作に携わり、滑川でつくったものが各地で活用され、社会に必要とされる。それをやり続けることで、滑川の発展にもつながると思っている」と次代を見据えている。
会社データ
社 名 : 北陸建工株式会社(ほくりくけんこう)
所在地 : 富山県滑川市安田200-8
電 話 : 076-475-6262
HP : https://kenko-group.jp/kenko
代表者 : 酒井洋 代表取締役社長
従業員 : 119人(2023年2月現在)
【滑川商工会議所】
※月刊石垣2024年7月号に掲載された記事です。
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