2950対17。これはある飲食店チェーンのトップ企業と、ある地域の企業の店舗数の比較である。
1955年に米国で創業した前者は世界100カ国以上に広がり、日本では1971年に東京・銀座に開業。以来、業界トップを走り続けている「マクドナルド」は、店舗数で国内2位に3倍以上の差をつけるチェーンストアだ。特徴は徹底した標準化にあり、どの店を訪れても、同じ店構えが迎え、同じ商品を味わえる点にある。
一方の後者は、前者と同じくピエロをキャラクターとする北海道の地域密着企業「ラッキーピエロ」である。創業者の王一郎さんが中華料理店やパブの経営を経て、1987年に創業。函館市を中心とする道南地域に17店舗を集中展開している。
巨象とアリくらい企業規模が異なるが、こと道南地域に限ればマクドナルドの店舗数はわずか5店止まり。年間250万人が来店するラッキーピエロが他チェーンを寄せ付けない強さを誇っている。
店舗もメニューも店ごとに異なる
「うまさいろいろ。雰囲気いろいろ。楽しさいろいろ。」と店内に掲げられているように、同店は店舗ごとに実に多彩。マクドナルドの標準化とは真逆の道を行く。
店づくりは一つとして同じものがない個性的なデザイン。各店がアールデコ、ボッティチェリ、プレスリー、オードリー・ヘプバーンなど多彩なテーマを持ち、外装・内装も全て異なる。例えば、旗艦店の峠下総本店のコンセプトはバードウオッチングで、200席以上を備える店内の至るところに野鳥の絵画やオブジェが飾られている。
メニューにおいても強烈な個性を放つ。メインのハンバーガーは中華風鶏の唐揚げやホタテフライ、イカフライなど地元の産物を使ったオリジナル商品が並び、ほかにもカレーライス、オムライス、ハンバーグステーキ、とんかつ、ピザ、焼きそば、スパゲティ、ケーキ、ソフトクリームなど百数十種類ものメニューがそろう。
チェーンストアのもう一つの特徴が単純化。業務を誰でも実行できるように作業をシンプルにすることで、従業員の負担を軽減し、効率的な店舗運営を目指す。
一方のラッキーピエロは手づくりを徹底。ハンバーガーはつくり置きせず、注文を受けてからつくる。メニューによっては数分かかるものもあるが、王さんは「おいしさや心に触れる部分は決して効率化しない」と断言する。
地産地消ならぬ「地産地食」を掲げているのも特徴だ。約8割の食材で北海道産を使っており、肉は鶏・牛・豚いずれも100%道産。例えば年間175万食を売り上げる看板商品、チャイニーズチキンバーガーに使う鶏肉は伊達市産、レタスは北斗市産だ。
冷凍物は一切使用せず、ハンバーグのミートパテも毎日手づくり。産地から近く、食材の調達に便利な函館周辺にこだわるからこそ、巨象にはない強みを発揮できる。
地域密着は一日にしてならず
世に地域密着をうたう企業は少なくないが、王さんはこう語る。 「地域に根差し、地域を愛し、地域に育てられて恩返しする気持ちが根底になければ、地域で繁盛する店をつくることはできません。小さな商圏では私の顔も、スタッフの顔も近所に知られています。私たちの言動や態度、生き方そのものが地域の人々に見られている。生半可なことをしたらたちまち信頼を失います。逆に、地味なことをコツコツやり続けてきた姿を常に見守り、評価してくれるのも地域の人々なのです」
地域密着経営は一時のブームとして取り組んではならない。時間をかけて少しずつ築き上げていくものであり、「地域一体」といえるまで徹底しなければ本物ではない。あなたの行う地域密着は、じつは大手のまねや追随になってはいないだろうか。
(商い未来研究所・笹井清範)
最新号を紙面で読める!