良いものを買い、それを長く使う。「一生もの」というが、さらに世代を超えて使い続けるとき、その品は一時的には高価であっても、長い目で見ればとてもお値打ちであることを多くの消費者は忘れている。
大量生産・大量流通・大量消費こそ美徳といわれた時代には、頻繁に買い替えることが是とされてきた。それが豊かさと教えられてきた。そのためにメーカーは、頻繁にモデルチェンジを繰り返してきた。
しかし、その一連の流れの最後に来るのは大量廃棄である。私たちは、資源は有限であることを知っている。こうした消費スタイルが続くはずもなく、未来に大きな禍根を残すことを理解している。
私たちは「費」やして「消」す者としての〝消費者〟ではなく、「活」かして「生」きる者としての〝生活者〟である。その当たり前に一人一人が気付いたとき、私たちは次代に未来を残せる。
では、誰が気付かせられるのだろうか。それは〝つくり手〟と〝使い手・食べ手〟の中間に立ち、〝伝え手・つなぎ手〟として両者を最もよく知り得る立場にある者。両者に最善の出会いを生み出す役割を担う商業者である。
徳島市で、そうした取り組みを四半世紀にわたって続けている商人に会った。
一見すると住宅のような店
生活道路沿いの目立たない場所にあるその店には、店の存在を声高に叫ぶような看板は掲げられていない。木枠のドアにはめられたガラス越しに垣間見える店内には、数々の木製玩具が置かれている。
それが、ギフト雑貨と木のおもちゃの店「デポー(DEPOT)」との出会いだった。
置かれているのはヨーロッパの厳しい基準をクリアし、子どもの創造性、コミュミケーション能力を育む、いわゆる知育玩具といわれているものだ。子どもの感性を養う高質の絵本と日用使いの生活道具、安全・安心な食料品、そして子どもたちの母である女性に向けた良質な衣料品や化粧品が置かれている。
加えて、価値観を共有する顧客が集い、学び、触れ合えるイベントや教室が開かれている。「バランスボールで産後ママの集中ケア」「シンプル育児の3カ月レッスン」といった育児・女性の体に関するもの、「人形づくりの会」「革小物の会」といった手仕事系のもの、「酵素たっぷりのローフード講座」「パクパク食べる幼児食の会」といった料理に関するものだ。
店主の高田健司さんはこう語る。
「子どもの成長に合わせた玩具選びがなぜ必要なのでしょうか。子どもにとって遊びの時間は、食事と睡眠と同じくらい大切なものなのです。豊かな遊びの中には、子どもの〝生きる力〟を育む発見がたくさんあります。シンプルで創造力を育む本物の玩具を通じて、私たちはそうしたお手伝いがしたいのです」。
量ではなく質を追求する
実はわが家にも、デポーにある木製玩具と同じものがいくつかある。それらは子どもたちがこよなく愛した品々であり、今もインテリアとして飾られている。どれも使い込まれ、かみ跡がついていたりするが、シンプルさと丁寧なつくり故、今も現役の存在だ。
デポーで同じ商品を見たとき、私は気付いた。わが家の木の玩具が意味するのは、これまでの子どもたちとの思い出であり、子育てで経験してきたお金では得られないかけがえのないものなのだと。木の玩具は、それらを通じて過去へと戻ることができ、まだ見ぬ未来を想像させ連れていってくれる、まるでタイムマシンのようなものなのだと。
その気付きを妻に自慢げに言おうものなら、おそらくこう言われるだろう。
「なんだ、そんな大切なことにあなた今頃気付いたの?」
商いにはより良い未来をつくる力があり、商人にはその役割がある。そのためには、量ではなく質を、QuantityではなくQualityを追求するときを迎えている。
(商業界・笹井清範)
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