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まちの視点 安さ以外の価値で光る店

中山靴店では知識と技術力を高め、顧客一人一人に合わせた靴を提案している

経済産業省の「平成30年度電子商取引に関する市場調査」によると、日本のEC化率は6・22%で、市場規模は17兆9845億円(2018年度)。EC化率とは全商取引に占めるEコマースの割合をいい、10年前の08年度は1・79%で6兆890億円であった。このように日本のEC市場は堅調に伸びている。

Eコマースの強みは「安さ」「利便性」「豊富な品ぞろえ」であり、これらでリアル店舗が優位性を発揮できる余地は少ない。つまり、どこでも買える商品を扱っていたら、勝てるはずがないのだ。

経営危機からの再出発

顧客の悩みや要望を聞いて、オーダー中敷きやオーダー靴を販売する靴店が岡山市にある。自らを「職人集団」と呼ぶ中山靴店へは、足に悩みを持つお客が多く訪れている。一見どこにでもある靴店のようだが、店内にはパソコンにつながれたモニター画面と見たことのない測定器が数種類置かれ、奥にはガラス張りの工房まである。

婦人・紳士・子供靴のフィッティング・販売・修理のほか、オリジナルブランドシューズの企画・製造・販売、オーダーメード中敷きの製作・調整・販売も行う同店では、気に入った靴が見つかれば、店内に設置され計測器で、足の正確な寸法、足裏の形状を計測し、オーダーメード中敷きをつくり、自分の足型にぴったりの靴をつくることができるのだ。

同店は、3代目となる現店主の中山憲太郎さんの祖母が1950年に創業。昔ながらのフルラインの仕入れ靴店として営業を続けていた。

メキシコの靴工房での修業を終えた中山さんが帰国すると、家業は極度の経営不振に陥っていた。「継がなければ店を畳む。継ぐのであれば、借金はあるが残せる経営資源もある」と両親。中山さんは、「3代目が生まれた」と喜んだ祖母の姿を思い出し、家業を継ぐことを決意した。

40坪ほどの店内には多種多様な商品が並び、在庫も多かった。靴の仕入れは7~7・5掛けほどで粗利益率が低く、販管費などを差し引くと利益はほとんど残らない。

そこで、問屋よりセール品を出してもらえるよう交渉し、安く仕入れることで利益を確保した。その中で気付いたことは、デザインが良く手頃な価格でも、履き心地が悪いものは売れないことだった。オーダー靴の製作の経験から、靴の構造はよく理解していた。履き心地を重視した仕入れをすることで、売り上げは確実に伸びていた。

うそ偽りのない商売を目指す

気が付けば家業を継いで4年、借金は完済していた。「商売は競争だ」と走り続けていたが、このころから違和感を覚えるようになっていた。

「靴屋の常識として既製靴は多少足に合わなくても仕方がないと、誰もが諦めて商売をしていました。しかし、足の悩みは正しく計測し、足に合った靴と中敷きをつくって変えるだけで解決できることも多いことを学んでいました。これからは、うそ偽りなく自信を持って胸を張れる商売をしたいと思いました」

中山さんは、足を靴に合わせるような従来の商売ではなく、オーダー中敷きを本格的に製作することで、一人一人お客に合う靴を提供するために知識と技術習得に励んだ。

同店のオーダーメード中敷きは、3D足型計測で、0・1ミリ単位でかかとからつま先まで立体的に計測、足圧計測で立ち方の癖を分析。さらに歩行解析をして、中敷き製作を行う。店内の工房で職人が製作するため計測後は最短30分で完成し、その場でお渡しができる仕組みだ。

製作後は、半年後の無料メンテナンスなどアフターフォローも充実している。お客はフルオーダーにない手軽さと他にないサービスに喜び、店は価格競争に巻き込まれることもなく、両者にとっての利益が一致。同店は順調に成長、これまでの日本の靴選びの常識を変えようとしている。

Eコマースにない専門性と信頼性を身に付ければ、たとえ小さな規模でも、そこには他にない強みが生まれる。そんな店がまちにあるとき、生活者の暮らしはもっと豊かになるだろう。

(商業界・笹井清範)

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