われわれは学校で、サケは川で産まれて海に行き、そこで育って、また、産まれた川に戻ってくると教わった。その大回遊の行動が、今、科学によって明快に解き明かされてきた▼
先人たちはサケの行動を解明するために稚魚のヒレに切れ込みを入れるなどして標識を付けて研究してきた▼
現在、ヒレに代わって耳石に標識を付けてサケの生態を明らかにすることが可能になった。魚の耳石は目の上にあり、0.005mmと極めて小さいが、そこに標識を付ける。その方法は孵化(ふか)したサケを育てるときの水温を操作して付ける。水温が4度と低い温度で育てると耳石に黒い縞模様ができる。高めの8度の水温で育てると白い縞模様になる。このように温度を交互に変えて耳石にバーコードのような模様を付ける。こうして標識が付けられた2億匹のサケの稚魚を3月に北海道の石狩川の支流の千歳川や十勝川などから放流した▼
この耳石の年輪の研究によって分かったことは、サケは北海道の各川を離れてからオホーツク海に行き、その後はプランクトンなどの餌が豊富なベーリング海に行く。寒い冬の間は南下して北西太平洋で越冬するようである。そして4年ほどベーリング海と北西太平洋の間を行き来して大きく成長した後、今度は出発の時に覚えていた地球の磁場の力の大きさに従って全磁力線に沿って北海道に戻ってくる。どの川に戻るかは北海道に近づいてきた段階で、川の水の臭いをたどって遡上(そじょう)するようである▼
このように、最後は産まれた川で次世代のサケのための放卵と放精後、力尽き、大地に帰っていく。サケはまさに地球の元素分布において海から陸へと元素を運ぶ架け橋となっている
(政治経済社会研究所代表・中山文麿)
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