地域の誇り・アイデンティティー=経済的豊かさという時代が長く続いた。それは今でも大切だが、ポストバブルやコロナ禍を経て地域の意識は大きく変化した▼
文化庁が「文化財保存活用地域計画」の制度をつくったのは2020年。わずか4年間で全国169地域の計画が策定・認定された。短期間で多くの地域が計画策定に取り組むのは一種のブームともいえる現象だ▼
では、なぜ今この計画が注目されているのか。それは地域における有形・無形の文化財(未指定の文化資源を含む)が急速に失われ破損されているからであろう。そのことに地域が強い危機感を抱くようになってきたからだ▼
高齢化やコミュニティー崩壊に伴い、地域文化資源の保存・活用は危機にひんしている。新たな担い手を育て、これらの活動を支援することで文化財保存・活用の新たな仕組みづくりを行うことが狙いだ▼
もう一つ、大型合併により旧町村の歴史文化が核都市の中にうずもれるという事情もある。筆者が関わった広島県呉市の計画ではこれまで鎮守府が置かれた呉中心部だけが脚光を浴びてきたが、周辺には平清盛の時代から栄えた音戸や倉橋、朝鮮通信使が頻繁に通った蒲刈、北前船で栄えた重要伝統的建造物群保存地区の御手洗などの地域がある。これらの地域では中世から近世にかけての自らの地域に強い誇りを持っている▼
計画では地域の歴史や固有の地勢を踏まえた「文化財群」というストーリーを描く。呉市では七つの文化財群が描かれた。これが地元の優れた歴史文化の再認識とアイデンティティー形成につながっている▼
固有の歴史の記憶を取り戻し、各地が誇りを取り戻してほしい
(観光未来プランナー・日本観光振興協会総合研究所顧問・丁野朗)
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