日本人が毎年のようにノーベル賞を授賞するのは誇らしい。何の役に立つかもわからぬ基礎研究に人と資金が回っていた証である。科学系の受賞者を選ぶのがスウェーデン王立科学アカデミー。1739年の創立時に初代会長に就いたのがカール・フォン・リンネである▼
分類学の父リンネは神が創ったこの世界の秩序の美しさを示そうとした。万物を植物界、動物界、鉱物界に分けたアリストテレス(なんでも始まりはこの人)の「自然の階段」に準拠して、リンネは植物界を24綱、動物界を6綱、鉱物界を3綱に分類した。さらにそれぞれ共通の祖先を持つグループを「目」、「属」の順で階層化し、1万種に及ぶ神の設計図を描いた▼
だがその後、同種間の生存競争に勝ち残る「自然淘汰」の原理を発見したダーウィンの進化論で神の介在は否定され、さらに遺伝子の解析が進んで世界はもっと精密になった▼
地上の覇者となったヒトを唯一の例外として、この世の生物には「生きる場所」がある。生物は地上、上空、水中にそれぞれ他の生物との競争を避ける環境に棲む。今西錦司はこれを「すみわけ」と呼んだ。各々の生物が生きる場所をニッチと呼ぶ。生存圏とも言えるニッチはむろん争奪の対象だ▼
あまねく地上に栄えた人類はそれぞれ「国」をつくって生きることにした。では国のすみわけは可能か。たとえば第一次大戦ではドイツ、オーストリア、オスマンの3帝国が消滅した。第二次大戦では大日本、ナチスという帝国が滅びた。どちらもその後は覇権国が支配する世界になった▼
いまも覇権にこだわる大国がある。すみわけられない世界で日本が「強く豊かな国」をめざすのはいい。だがそれには広く、深い知恵が要る。
(コラムニスト・宇津井輝史)