メーデーには世界各地で労働者の権利を訴える集会が開かれる。労働者にとって最大の関心事の一つは雇用の維持だろう。日本の雇用保護は国際的に手厚いとされるが、労働者自身の意識は必ずしもそうではない。ある国際調査によれば、日本の労働者は「雇用が守られている」と感じる人の割合が極めて低く、他国に比べて雇用不安を強く感じているようだ。こうした不安を単なる国民性の問題として片付けるのではなく、その要因を検討する必要がある▼
要因の一つにAIの急速な普及が挙げられる。AIの出現により必要な能力やスキルが不透明になり、今後労働者に何が求められるのか、また労働者をどう育成すべきかについて企業も政府も十分な見通しを持てずにいる。先行きが不透明な日本でベーシックインカムへの関心が高まるのは自然なことかもしれない。働かずとも一定の所得さえ保障されれば人々の雇用不安はある程度緩和されるだろう。しかし、急激な技術革新に対応するためには最低限の生活保障だけでは真の安心は得られない▼
必要なのは、人々が将来のキャリアの展望を持ち、年齢や性別にかかわらず質の高い就業機会を得られる社会の構築である。かつて日本の強みであった企業内訓練には限界があるため、最近では企業を超えた横断的な連携が始まっている。特にデジタル・スキルははん用性が高いため、職種単位の取り組みが合理的だ。日本の労働運動は企業別組合が主軸だが、以上の点を鑑みると、今後は企業の境界を超えた労働組合の積極的な関与が不可欠となるだろう。働き手に必要なスキル習得の機会を提供できるか否か。それこそが、働き手が真の安心を手にするための鍵となる
(NIRA総合研究開発機構理事・神田玲子)