Q 男性社員の配偶者が妊娠し、社員本人が育児休業を取得したいと申し出たところ、「男が育児休業を取るなんてあり得ない」との声が上がり、職場の雰囲気が悪化しました。企業として、男性社員の育児参加を支援し、公平な職場環境を整えるため、どのような行為がパタニティーハラスメント(パタハラ)に該当するのか教えてください。
A パタニティーハラスメント(パタハラ)とは、父親が育児休業を取得したり、育児に関与したりしようとする際に職場で受ける嫌がらせや不当な扱いを指します。企業は、セクシュアルハラスメント(セクハラ)、パワーハラスメント(パワハラ)、マタニティーハラスメント(マタハラ)と同様に防止措置を行う必要があります。
パタニティーハラスメントとは
パタニティーハラスメント(パタハラ)とは、男性が育児休業や時短勤務など子育て支援制度を使用することに関して、職場で受ける不利益な取り扱いや精神的な圧力のことをいいます。
具体的には、育児休業を取得することに対する嫌がらせや反対、育児休業後のキャリアに悪影響を与えるような発言や行動、育児休業を取得する男性に対する偏見や否定的なコメント、育児休業取得を理由にした昇進や昇格の遅延などが該当します。例えば、育児休業の取得を上司に相談したところ、「休みを取るなら辞めてもらう」と言われた事例、育児休業などの申し出・取得をしたことに対する上司や同僚からの言動によって就業環境が害された事例、育児休業の取得について上司に相談したところ、「男のくせに育児休業を取るなんてあり得ない」と言われ、取得を諦めてしまった事例などが挙げられます。
パタハラを防止する措置を講じることは、事業主の義務となっています。
パタハラに関する注目すべき裁判例もいくつかあります。一例として、医療法人稲門会(いわくら病院)事件では、育児休業の取得を理由に、男性看護師に対して職能給を昇給しなかったこと、昇格試験を受験させなかったことを巡って争われました。大阪高裁は、育児休業の取得を理由とするこれらの行為は違法であるとし、昇格していれば得られたであろう給与と実際に得た給与の差額および慰謝料を認めました(2014年7月18日大阪高判・労判1104号71頁)。この判決は男性労働者が育児休業を取得する権利を保護し、職場でのパタハラ防止の重要性を強調しました。
パタハラ防止と法的根拠
育児・介護休業法では、男女労働者に対する育児休業などを理由とする解雇その他の不利益な取り扱いが禁止されています(同法第10条)。同法の改正によって、17年1月からは、上司・同僚からの育児・介護休業などに関する言動により育児・介護休業者などの就業環境を害することがないよう防止措置を講じることが、事業主の義務となりました(同法第25条)。
さらに、同法の改正により、22年10月からは、「出生時育児休業」(産後パパ育休)制度が新設されています。育児休業とは別に、子の出生後8週間以内に4週間(28日)まで、分割して2回まで取得することができる出生時育児休業ですが、取得できるのは、原則として出生後8週間以内の子を養育する産後休業をしていない男女労働者となるため、対象者は主に男性となります。従業員が出生時育児休業の申し出・取得をしたことを理由に、解雇その他不利益な取り扱いをすることも禁止されています。7
企業におけるパタハラ防止策
労働者が育児休業を取得しやすい環境を整備するためには、育児休業に関する制度や権利を全社員に対して周知し、理解を深めてもらうことが重要です。また、管理職をはじめとする社員に向けて、育児休業取得に対するパタハラを含むハラスメントの防止に関する研修を行う、相談窓口を設置し、迅速に対応するなどの措置が推奨されます。
(社会保険労務士・吉川 直子)