新年度には新入社員を迎える企業も多いだろう。今や入社して1カ月もたたないうちに辞めていく新入社員も少なくないと聞く。もはや、「石の上にも3年」という言葉は死語かもしれない。それでは、新人を上手に育てている企業は何が違うのかー。
教育、福利厚生を充実させ人材への投資で定着率を向上
山口県防府市にある防府通運は、トラック輸送や倉庫業など幅広い物流サービスを提供している。同社では、業務上必要と認定された資格の取得費用を会社がサポートする制度や、海外物流拠点の視察研修制度、また家庭などの事情に合わせて時間単位で有給休暇を取得できる制度など、従業員本位の制度を導入して新人の定着率を上げている。
創業88年の物流企業 男女問わず幅広く人材採用
山口県のほぼ中央部に位置する防府市は、瀬戸内海に面しており、臨海部には自動車関連を中心に多くの企業が進出している。同市に本社を置く防府通運は、1937年創業の物流企業で、トラック輸送や倉庫業をメインに、国際物流分野における通関や輸出入業務なども行い、地域経済に貢献している。 「従来の物流業界は、トラック運転手やフォークリフトオペレーターなど、男性の職場というイメージが強かったかもしれませんが、当社は自動車部品の輸送だけではなく、検査・検品、加工や梱包にも力を入れているので、男女問わず幅広い人材を採用しているんです」と、同社社長の喜多村誠さんは語る。同社は、新卒採用よりも中途採用の方が多いが、いずれの新入社員も定着率が向上するよう、5年ほど前からさまざまな取り組みを行っている。
資格取得や時間休制度で社員一人一人をサポート
まず、採用時には多段階の面接を行う。「当社で長く働いてくれる人を採用することが一番重要です」と言う喜多村さん。最終面接では、自ら約1時間かけて入社希望者と向き合い、職務能力だけでなく、コミュニケーション能力や会社のカルチャーに合うかなどを重視して、採用するか否かを決める。入社後には、経験豊富な社員が新入社員のメンターとなり、アドバイスや支援を行う。中には、メンタルヘルス・マネジメントの資格を持つ社員もおり、人間関係などの仕事面だけでなく、家庭環境に関する悩みも相談に乗っている。さらに、入社から1カ月後、3カ月後など定期的に、喜多村さん自ら社員と面談を行い、総務部と情報共有して、一人一人の成長をサポートしている。
同社では、魅力的な職場環境づくりにも取り組んでいる。その一つが従業員のスキルアップをサポートする資格取得支援制度である。業務上必要と認定された資格を従業員が取得する際の費用について、会社が一部、または全額サポートする。具体的には、通関士などの国家資格、運行管理や衛生管理に関する資格などさまざまで、取得する資格によっては給与アップにもつながる。また、社員のモチベーション向上と国際感覚の育成を目的とした海外研修を実施しており、これまでに米国、シンガポールやタイなどにある関係企業の海外物流拠点を視察した。
通常働く職場でも、 空調設備を改善したり、従業員の声を聴く意見箱を設置したりと、快適な環境づくりに取り組んでいる。休暇についても、結婚記念日や誕生日などに休暇を取得できるアニバーサリー休暇制度や、子どもの学校行事、介護といった家庭の事情に合わせ、時間単位で有給休暇を取ることができる制度を導入し、柔軟な働き方を支援して、ワークライフバランスの実現を後押ししている。 「当社で長く働いてくれる人は、コミュニケーションが取れて、チームプレーができる人」と言う喜多村さんは、社長と従業員の距離が近く、意見交換がしやすい環境づくりを目指して、オープンなコミュニケーションを心掛けている。
2020年から続いたコロナ禍でも新たに採用した人材はいたが、対面での社内イベントができなかった。最近、ようやく定期的な社内イベントを再開したところ、従業員同士の交流を深めることができ、改めてコミュニケーションの必要性を感じている。
新たな物流センターが完成 DXや自動化の取り組みも
厚生労働省の調査によれば、運輸業における新規高卒者の3年以内の離職率はここ数年、30%以上で推移している。一方、同社では中途採用が多いという違いはあるが、離職率は3%と低い。定着率向上につながった要因として、採用や教育、福利厚生など、人材への投資を惜しみなく行っていることや、従業員一人一人を大切にして、働きやすい環境づくりに力を入れていることが挙げられる。また、喜多村さんは防府商工会議所の前会頭で、現在顧問を務めており、同社が地域社会とのつながりを深めていることで、従業員の帰属意識を高めている。
今後、同社は新卒採用を増やす予定で、地元の高校生たちを職場見学に招いたり、地元の大学の就職担当者と接触する機会を増やしたりしている。同社はこれからも人材育成に力を入れるとともに、DX化や自動化など、新たな取り組みにも積極的に挑戦する。24年12月には、新たな物流センターと倉庫が完成し、今年1月から本格的な運用を開始した。この物流センターは、自律走行搬送ロボットや各種システムにより、物流や業務の効率化のみならず、脱炭素化も図る先進性を有している。「防府市のさらなる自動車産業発展への寄与を目指します」と話す喜多村さん。同社は、人材を育て地域社会に貢献できる企業として、次代を見据えている。
会社データ
社 名 : 防府通運株式会社(ほうふつううん)
所在地 : 山口県防府市浜方114-2
電 話 : 0835-22-0413
HP : https://bo-tsu.co.jp
代表者 : 喜多村 誠 代表取締役社長
従業員 : 約220人(グループ全体)
【防府商工会議所】
※月刊石垣2025年3月号に掲載された記事です。