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アジアの風〜ビジネスの先を読む〜 進化する アジアの小売業

さまざまな工夫が感じられるアイコンサイアム。地元客、観光客で店内はにぎわっている

昨年11月にタイのバンコクにオープンしたショッピングモール、「アイコンサイアム(ICONSIAM)」が現地だけでなく、アジア各国で話題になっている。売り場面積が日本の大型デパート5店舗分に匹敵する52万5000㎡という巨大さもあるが、コンセプトや店舗の構成、全体の雰囲気づくりが東南アジアだけでなく、日本、中国を含めたアジアのショッピングモールの中で、一歩抜きんでているからだ。アイコンサイアムはかなり冒険的な立地に建設された。チャオプラヤ川沿岸のいわゆる「リバーサイド」で、マンダリン・オリエンタルやペニンシュラなど超高級なホテルやレジデンスが建ち並ぶ地域。最寄りの高架鉄道(BTS)の駅まで1㎞程度離れており、自然に人が集まる繁華街ではない。サイアム・パラゴンやエンポリアムなど、バンコクで人気のスクンビット通りのショッピングモールとはまったく異なる立地だ。

巨大な吹き抜けをエスカレーターが縦横に走り、各フロアを回遊しながらフロア間を移動する空間づくりはいかにもタイ的な設計だが、店舗構成は巧みだ。ヴィトンやシャネル、ブルガリといった高級ブランドの店舗もあるが、むしろ新興ブランドやお手頃な価格のブランドを他のショッピングモールとは異なるイメージの内装、商品構成で出店させている。

地上階にはタイ77州の産品や食事が楽しめる“SookSiam(スークサイアム)”というコーナーがあるが、館内に水路を巡らせ水上マーケット風に仕立ててあり、観光客も楽しめる。またタイでは珍しくない光景だが、ポルシェやBMW、MINIなど自動車のディーラーも出店しており、売り場に突然、並べられた乗用車が目に飛び込む。トヨタ自動車がオリジナルのカフェを出店しているのも日本では見掛けない光景だ。

バンコクは人口あたりのショッピングモールの売り場面積がアジアで最も大きい。つまり過剰店舗に陥っており、競争に敗れ閉店するモールも多いが、その中でコンセプトや空間づくりが磨かれてきているようにみえる。巨大な駐車場を特徴とするだけの、画一的な店舗構成で全く面白みのない日本の郊外型モールよりはるかに挑戦的で、先進的だ。

日本の小売業はコンセプトづくり、店舗の多様性、運営ノウハウの面で、アジアの先頭から明らかに脱落しつつある。中国でアリババや京東集団が展開する優れた生鮮食品スーパーなども含め、日本の小売業はアジアに学ぶ時代になった。

後藤 康浩(ごとう・やすひろ) 亜細亜大学 都市創造学部教授 早稲田大学政経学部卒、豪ボンド大学MBA取得。1984年日本経済新聞社入社、国際部、産業部のほかバーレーン、ロンドン、北京などに駐在。編集委員、論説委員、アジア部長などを歴任した。2016年4月から現職。アジアの産業、マクロ経済やモノづくり、エネルギー問題などが専門

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