20~30代の若手社員の実に半数近くが職場で孤独を感じている――。孤独・孤立に関する調査を実施した野村総合研究所(NRI)によれば、特に入社して年数の浅い社員ほど周囲との関係に悩み、孤独感が強いという。孤独感は仕事への意欲や生産性を低下させ、健康リスクを高め、離職や転職の引き金にもなりうる。これは人手不足に悩む中小企業にとって看過できない課題と言える。そこで調査を担当した同所の坂田彩衣さんと橘和香子さんに、若手社員との向き合い方や職場の環境改善への考え方について話を聞いた。
坂田 彩衣(さかた・あい)/橘 和香子(たちばな・わかこ)
野村総合研究所 社会システムコンサルティング部 シニアコンサルタント
多くの人が抱えやすい「クオーターライフクライシス」
─20~30代の若者というと、孤独とは縁遠いイメージがあります。実際、どれくらいの割合で孤独を感じているのでしょうか。
坂田彩衣さん(以下、坂田) 私たちが行った孤独に関する調査では、20~30代の若者全体のおよそ2人に1人が日常的に孤独を感じていることが明らかになりました。若者の孤独というと、引きこもりなど社会にうまくなじめていない人を想像しがちですが、企業に勤める正社員でも20代の半数近く、30代では約4割が孤独を抱えているという結果が出ています。
─20代というとZ世代と重なります。約半数が孤独を感じているというZ世代の社員をどのように捉えていますか。
坂田 この世代はデジタルネイティブでインターネットやSNSが身近な環境の中で成長し、情報過多な社会で「タイパ(タイムパフォーマンス、時間対効果)」や「コスパ」を重視する傾向が強いと感じます。Z世代のOB訪問を受けて明らかに今までと違うなと感じるのは、仕事に関すること以外に「自分の時間をどのように確保しているか」「育休明けにどのように職場復帰をしたか」「仕事と子育てを両立できるか」といった質問をされるケースが増えたことです。驚くのは男性からも同じような質問をされることで、仕事は生活の中の一部と捉えているような印象を受けました。
─仕事とプライベートの両立を重視し、充実した人生を目指しているように見える世代でありながら、他方で孤独を感じているというのは不思議な気がします。
橘和香子さん(以下、橘) 多くの20~30代が抱える問題として「クオーターライフクライシス」があります。20代後半から30代にかけて感じる漠然とした不安や焦りを表した言葉で、この時期はキャリア形成や人間関係に悩んだり、結婚や出産への決断を迫られるなど、人生の転機が訪れるタイミングであることが背景にあります。そうした悩みを誰かに相談したくても、学生時代からの友人や同僚もそれぞれにライフステージが変化するなどしてなかなか相談できず、孤独を感じてしまいがちです。
コロナ禍で奪われた 社内でのちょっとした雑談
─コロナ禍が職場、特に20~30代の社員に与えた影響をどのように分析していますか。
坂田 やはり、出社できない、オンライン会議ツールを介さなければ話せない状況だったのは大きいです。今までのように毎日出社して、身近に誰かがいて、ちょっとしたことでもすぐに聞ける環境から、在宅ワークによって重要あるいは緊急な質問でも、その都度「今電話してもいいですか?」「オンライン会議で対応してもらえますか?」と確認しなければならなくなりました。また、出社していれば相手の様子を見計らって話しかけたり、仕事の合間に雑談する機会がありましたが、オンライン会議だと余白の時間がないので余計なことは口にしづらく、人間関係の構築にはマイナスだったと感じます。
─たしかに面と向かって話すのと画面越しに話すのでは、だいぶ感覚が違います。
坂田 特に、Z世代は人間関係が構築されていない相手と話したり相談したりするのが苦手な傾向にあるので、コロナ禍によって対面で会える物理的環境を奪われたというのは、ほかの世代との大きな違いではないでしょうか。
─アフターコロナと言われる現在、その傾向は続いていますか。
橘 出社できるようになって、物理的な環境は元に戻ってきていますが、オフィスで雑談や談笑をしているシーンは、コロナ前より減っているように感じます。コロナ禍で不要不急の外出を控えなさいと言われ続けたことで、「今、この人と話をするのは必要なのか、不要なのか」と考えてしまう。やはり若い世代はタイパを意識するので、「不要不急か取捨選択するうちに、人間関係の棚卸しをしたのでは」と分析する専門家もいます。
─入社してまもない社員ほどコロナ禍の影響を受けているのでしょうか。
橘 そうですね。調査によれば、入社5年未満の社員の半数以上が孤独を感じると回答しています。入社1~2年目のどんなことでも質問できる、どんな失敗をしてもいいという時期に在宅ワークやオンライン勤務だったことで積めなかった経験、逃したチャンスは決して小さくありません。しかも、コロナが明けた頃にはもう後輩がいる状態になっているので、本当に聞きたいことが聞けているのかは注視しないといけないと思います。
生産性の低下や転職意向 孤独感が及ぼす負の影響
─今、退職代行サービスが話題になっていますが、入社後わずかな期間で退職する若者は増えているのでしょうか。
橘 正確なデータは分かりませんが、若い世代ほど転職のハードルは下がってきていると思います。デジタルネイティブなのでさまざまな情報を入手し、その中から自分の人生を考えていく傾向はあるように思います。転職は自分が成長していくための一つの選択肢と考え、終身雇用的な価値観が薄れていっている部分があるのではないでしょうか。
─入社して間もない時期に退職してしまう要因をどのように分析していますか。
橘 いろいろあると思いますが、Z世代は自分にできること、期待されていることに応えたいという思いが強い世代とも言われています。それに対して、自分は今の職場で求められていない、自分が成長できる場所ではないと思ったときに、仕事への熱意やキャリアアップの意欲を失う“静かな退職”の状態に陥ったり、実際に退職を決意したりするというのはあるのではないかと思います。
─退職の原因に孤独感が関わっている場合もありますか。
坂田 調査結果によると、孤独を感じている人の約65%が現在転職を考えているか、いつか転職すると考えており、孤独感と転職意向は関連していると考えます。ただ、入社して間もない段階で転職を考えるケースというのは、孤独感もあるかもしれませんが、ミスマッチの方が大きいのではないでしょうか。入社して配属された部署や仕事内容が思っていたものと違うというのは、日本的な採用方法の場合、起こり得ます。かつては「仕事とはそういうもの」と捉えられてきたけれど、それはちょっとおかしいんじゃないか、と疑い始めてきたのがZ世代ではないでしょうか。
─孤独を抱えた社員がいると、職場にどのような影響をもたらすでしょうか。
橘 孤独を感じているとき、約4割の人が学業や仕事に対する意欲が低下すると回答しています。孤独感を抱えたまま仕事に向かえばパフォーマンスは落ち、人とコミュニケーションを取るのも面倒になって、生産性は低下すると考えられます。また、孤独は健康にも多大な悪影響を及ぼすことが海外の調査で明らかにされていて、「1日15本の喫煙に相当する」と指摘されています。
一緒の時間や他愛もない会話が孤独感を和らげる
─どのような悩みが、若手社員の孤独感につながっているのでしょうか。
坂田 20代と40代を対象にした調査では、悩むテーマはどちらの世代も「仕事」「お金」「結婚・恋愛」の順で同じでした。ただ、20代では仕事の悩みの割合が6割近くあって、40代よりも高いのが特徴です。そこから企業としては、若手社員の仕事の悩みを軽減するような取り組みが必要だろうと思います。
─仕事に関する悩みであれば、同僚や先輩に相談することが一般的かと思いますが……。
坂田 少し上の世代(現在の40代)は同僚に相談するケースが多かったと思います。長い時間をともに過ごし、互いの事情も分かっているので話を持ち掛けやすいでしょう。一方、若い世代は物理的に同僚と接している時間が少なく、雑談もあまりしないので、相談できるほどの関係性を築けていません。安心感を持てないと話せない世代なので、相談相手として家族や両親を挙げる人が最も多くなっています。
─家族や両親に相談するというのは不思議な印象です。現在、社内に相談窓口を設ける企業も増えていますが、そういうところにはあまり行かないのですか。
坂田 相談窓口は、若い世代に限らず不人気ですね。悩み事を相談できる相手もなく孤独感を抱えている人が求めているのは、アドバイスではなく他愛もない会話、気軽なコミュニケーションなんです。
─たしかに、相談窓口に行くのはハードルが高いかもしれません。
橘 若手社員が孤独を感じるのは「一人で仕事をしている時」という回答が最も多く、孤独が軽減されるのは「誰かと食事をしている」「誰かと一緒に仕事をしている」「誰かに気にかけてもらっている」が上位になっています。そこから考えると、相談窓口に行かなければならないレベルまで放置してしまったら、かなり深刻な状態だと言えると思います。職場内で孤立させないためにも、他愛もない会話や気軽なコミュニケーションをしっかり取っていくことが大切です。
金銭的な補助と居心地のいい場所づくりがポイント
─企業側としては職場内のコミュニケーションをどのように捉えているのでしょうか。
橘 企業側も、世代間の価値観の違いやちょっとしたディスコミュニケーションがあることは分かっていますが、コミュニケーション対策に取り組んでいるところは5割ぐらいです。具体的な取り組みとしては、飲み会や食事会を行っているところが多く、それ以外には面談や座談会、運動会やレクリエーションというところもあります。
─飲み会や食事会がコミュニケーションの創出に機能していますか。
橘 残念ながら、若い世代が求めているコミュニケーションの場とは言い切れません。職場内に他愛もない会話が減っている要因の一つとして、若い世代の「自分からはアクションしない」という傾向も関係していると思います。自分から積極的に話し掛けないし、飲みにも誘わないけれど、話し掛けられたら話すし、飲み会にも誘われたら行きたいなという気持ちもあるんです。ただ、タイパを重視し、プライベートの時間も大切にしているので、飲み会に誘われても必ず行くわけではありません。そうしたことからなかなか交流の機会が持てないということがあるのだと感じます。
─誘われたら行きたいが、必ず行くわけでもない……。少しわがままというか、つかみどころがなくて接し方が難しいですね。
坂田 そうですね。飲み会に参加しても長時間や2次会は嫌だとか、今回は行けなかったけれど次回も誘ってくれたらうれしい、というところはあります。上の世代からすればつかみどころがないし、1回断られて2回目を誘ったらハラスメントになるのではないかと考えてしまい、誘うのが怖くなるケースもあるでしょう。
─ほかにコミュニケーションを生み出すいい方法はないですか。
橘 やはり日頃のちょっとした会話の積み重ねが大切だと考えます。例えば、給湯室のような場所なら、「元気?」「昨日の日曜日はどこか行ったの?」といった会話が自然にできるし、数分立ち話をする程度ならタイパ良くコミュニケーションが取れます。こうした機会を積み重ねれば相手のことがだんだん分かってくるので、飲み会や食事会などにも誘いやすくなります。
─場所が大切なんですね。
坂田 社内にカフェスペースなど自由に対話できる場所があると、心理的安全性が高まるという声が少なくありません。言い換えると、心理的安全性が保たれていない状態で飲み会や食事会に誘っても参加しなかったり、参加しても会話が弾まない可能性があると言えます。また、回答者の約7割が懇親のための補助があればコミュニケーション促進の活動に参加すると答えていることから、他愛もない会話ができる場所づくりと金銭的な補助がコミュニケーションを促すのに効果的です。
中小企業こそ導入しやすい 交流の仕組みづくり
─社内でコミュニケーション対策を講じている企業事例があれば教えてください。
坂田 例えば、化粧品大手のコーセーでは、若手社員の孤立やすれ違いを減らすために、年齢や職種の違う社員5人で「疑似家族」を組み、オンラインで月1回会話の機会を持つという取り組みを行っていました。これはコロナ禍での社内コミュニケーションの活性化を目的にしたもので、若手社員からは「自分の応援者が増えたような肯定感を感じた」、上の世代からは「若手社員が何を考えているのか、どう接したらいいのかがつかめる良いきっかけになった」という感想が聞かれたそうです。この取り組みはコロナ後も継続されています。
─疑似家族というコミュニケーションの場所をつくったんですね。
坂田 似た事例では、結婚準備口コミ情報サイトを運営するウエディングパークが、新入社員のメンター制度として「カレーファミリー制度」を導入しています。マネジャーが親、若手社員が兄姉、新入社員が子どもという部署を横断した3人で家族をつくり、月1回カレーを食べるというものです。同社の場合、ほかにもカフェでのコーヒーブレーク代を支給する「コーシー」や、入社年次を足した合計が「10」になる社員を集めて交流会を催す「けっせつ10」などの制度も取り入れていて、若手社員の当事者意識や会社へのエンゲージメントの向上に役立っています。
─会社が気軽なコミュニケーションの場所や資金を提供しているわけですね。
橘 これらの事例で素晴らしいのは、若手社員や新入社員から出されたアイデアを採用し、裁量を与えて実施していることです。若い世代は、高い目標に向かって頑張れる世代でもあるので、自分の発案が採用され、上司や先輩が一緒に取り組んでくれたという経験は自信や安心感につながるはずです。そうした機会を通じて他愛もない会話が増え、人間関係が構築されていけば、孤独感も軽減されると考えます。
─地方の中小企業ですと、毎年新卒を採用しているとも限らず、場合によっては若手社員が数人しかいないという状況もあります。そうした中で社内コミュニケーションを活性化し、若手社員の孤独感を軽減するにはどのような工夫をしたらよいでしょうか。
坂田 何か制度を導入するなら、大企業よりもむしろ中小企業の方が導入しやすく、すぐにスタートできるのではないでしょうか。例えば、社内にカフェスペースのような心理的安全性が保たれる場所を設けて、世代も部署も異なる社員が一緒にランチを食べるといった取り組みであれば、さほどハードルは高くないと思います。
橘 若い世代は、多様性に関する教育を受けてきて、さまざまな選択肢の中から自分で選ぶことを当たり前と捉えている世代でもあります。選択肢を広げるという意味で上司や先輩の経験談に興味を持っているので、一方的な投げかけや押しつけにならないように心掛けながらコミュニケーションをとっていくと、自分は一人ではないという安心感が生まれ、意欲や生産性の向上につながっていくのではないかと思います。
