近年、廃施設を有効活用しようという動きが全国に広がっている。国も、民間のノウハウ・資金などを活用した「スモールコンセッション(※)」を通じ、廃校や歴史的建築物といった“地域資源”にスポットライトを当てて、まちづくり・地域産業の振興に生かす取り組みを推進している。今回はこのような活発な動きに焦点を当て、小さな事業者による大きな可能性を感じさせる事例を紹介する。
※地方自治体が所有する遊休不動産を活用して地域課題解決やエリア価値の向上につなげる、小規模(事業規模10億円未満)な官民連携事業のこと。地域企業などが担い手として期待されている。
地元出身の建築家とともに商店街全体を調査、空きビル再生に挑む
静岡県富士市にある富士山まちづくりは、富士市内外のまちづくりに関する調査や、市街地に点在する遊休不動産(店舗やビルなど住居以外の活用されていない不動産)のリノベーション事業などを行っている。同社は、地元出身の建築家とともに商店街全体の調査を行い、古いビルを再生するという独自モデルを生み出した。築50年以上のビルを活用する同社の取り組みは、全国に広がりを見せている。
駐車場でイベント開催 そこから始まったビル再生
富士市の吉原商店街は、かつて東海道の宿場町「吉原宿」として栄えた歴史を持つ。昔は木造の建物がほとんどだったが、1960年代に防災対策として、多くがコンクリートのビルに建て替えられた。その後は、商店街としてにぎわいを見せたものの、現在は郊外型大型店の進出などの影響を受け、老朽化したビルが並んでいる商店街となっている。
2013年に設立された富士山まちづくりは、商店街活性化を目指すNPOを母体としている。同社代表の佐野荘一(さのそういち)さんは、このまちでさまざまな商売を続けてきた家の四代目で、長年まちづくりに関わってきた。同社が具体的な事業を始めるきっかけとなったのは、佐野さんが所有する立体駐車場で、13年から行われたイベント「商店街占拠」。富士市内外のアーティストや飲食店主などが集まったこのイベントは、地元出身の若手建築家で、現在は同社の取締役も務める勝亦丸山建築計画代表の勝亦優祐(かつまたゆうすけ)さんが発案した。これが佐野さんと勝亦さんの出会いだった。
「面白いと思ったんですが、誰がやるんだと。それで言い出しっぺにやってもらうことになりました」と佐野さんは振り返る。このイベントには、富士市内だけでなく遠方からも多くの人が集まった。「古いビルに魅力を感じる一定数の人たちがいて、こういう場所もチャレンジングに使える、という機運が生まれたと思います」と語る勝亦さんは「古いコンクリートの感じが好きだから」と、老朽化したビルの再生を考えていた。
勝亦さんが初めて手掛けたのは、最も状態の悪い空きビルの一つで4階建ての「丸一ビル」である。佐野さんが、ビルのオーナーに相談して金額を聞き、「リノベーションして運営までするなら、買い取った方がいい」と、ビル購入を決意した。こうしてプロジェクトが立ち上がり、15年に「MARUICHI BLDG.1962」(以下マルイチビル)がオープンした。1階と2階は飲食店、3階と4階はシェアオフィスとして活用され、古いビルをリノベーションして新たに事業をつくるという成功事例ができた。
調査でまちの「実態」 把握新規出店者とマッチングへ
次に同社が取り組んだのは、同商店街の不動産の実態調査である。16年に富士商工会議所と同社、大学などが連携し、リサーチ事業「富士市まちなか再起動計画」を実施した。調査は、市内二つの中心市街地を対象に、郵送アンケートやヒアリング形式で行われ、吉原商店街からは約200件の回答を得た。遠方に住んでいるオーナーなど、これまで接点のなかった人たちと、アンケートの返送を通じて関係が構築された。勝亦さんは、この調査の最大の成果を「ビル再生に理解あるオーナーかどうか、分かってきたこと」と語っている。
この調査結果を受けて、同社は遊休不動産と新規出店者とのマッチング事業を開始した。同社には調査データと、オーナーとの関係ができたため、不動産業者を通さずに話を進めることができた。15年のマルイチビルオープン以降、同商店街への新規出店は増加し、19年以降は毎年20件前後で推移し、24年末までに合計140件を超えた。
課題から生まれたアイデア 「短期利用」と「ホテル」
23年から同社は、シェアスペース「for now」の企画を実施した。これは、募集した事業者に商店街の空きテナントを半年間、無料で利用してもらう企画で、カフェやアート展示などが出店した。このプロジェクトの目的は、オーナーと借り手の間で、物件が流動していないという課題を解決するためである。実際に、実施した半年間で数千人の集客があり、「空き物件だが貸したくない」というオーナーの意識を変えていった。
吉原商店街には、さらなる課題があった。アーケードがあるためビルの2階以上は見えにくく、活用されずに廃墟化が進んでいたのである。これに対し同社は、ホテルビジネスをすれば、大規模改修のための投資をしても収益が得られると判断し、24年に「ARCADE HOTEL」(アーケードホテル)を開業させた。この地域が、かつて宿場町であったというストーリーにも合致した。
古い建物の再生・活用について、佐野さんは「地元のネットワークや人間関係が不可欠であり、個別の複雑な事情に対応できることが、大手のデベロッパーにはできない私たちの強み」と語っている。勝亦さんは、「どのまちにも資源はあるが、地元の人にとっては当たり前過ぎて見過ごしてしまう。重要なのは、その資源を生かせるどうか」と、目利きやキュレーターとなる人材が必要だと強調した。
会社データ
社 名 : 富士山まちづくり株式会社
所在地 : 静岡県富士市吉原2-11-8
電 話 : 0545-67-1223
HP : https://www.yoshiwara.online
代表者 : 佐野荘一 代表取締役
従業員 : 5人
【富士商工会議所】
※月刊石垣2025年12月号に掲載された記事です。
