足元、世界の半導体業界の競争は日増しに激化する一方、半導体の需要に微妙な変化が起きている。先端のAI半導体の需要は急速に拡大しているものの、電気自動車(EV)への切り替えが遅れそうなこともあり、既存の汎用(はんよう)型の半導体の需要の伸びはやや鈍化している。
現在、先端の半導体製造分野では、台湾積体電路製造(TSMC)が先頭を疾走している。同社は、主に回路線幅4ナノメートルのラインで、エヌビディアのGPU(画像処理半導体)などを製造している。それらの半導体は、供給が需要に追い付いていない状況だ。
その一方、回路の線幅が10ナノメートル以上の旧来型の分野では、同社の製造ラインの稼働率は期待されたほど上がっていないという。熊本県に建設した第1工場は、旧来型の12~28ナノメートルの半導体素子を製造する能力を持っている。当初、EVなどの需要が拡大すると見込まれていたのだが、今のところ期待されたほど需要が集まっていないようだ。
TSMCは収益性を高めるため、熊本第2工場の工事を一時中断し、設計を新型半導体製造に切り替えることを検討しているという。先端チップの需要をより多く取り込むことを狙っているとみられる。そうした変化に対して、半導体関連企業は対応が必要になるだろう。
世界の半導体産業では、高性能なAIチップ開発を巡る競争が熾烈(しれつ)だ。大手IT企業の中でも、最先端を走るエヌビディアのGPUをしのぐAIチップを開発し、自社のAIモデルの競争力を高める動きが顕在化している。その代表的な企業は、米グーグル、アマゾン、オープンAI、メタ(旧フェイスブック)などだ。さらに、これまでソフトウエア中心だったマイクロソフトも、カスタマイズした半導体の設計・開発体制を強化している。AIや半導体の開発にヒト、モノ、カネを配分するため、既存事業で人員削減を実施する企業も増えた。
それに加えて、中国企業の躍進も目覚ましい。中国政府は、国内メーカーの競争力向上を一段と重視している。2027年までにAIデータセンター向けチップの70%を国産にする計画だ。そのため、さまざまな形で半導体メーカーを支援している。この方針は、トランプ政権が米国の新型半導体の対中輸出規制を緩和しても変わらないだろう。
先端半導体の開発競争に伴い、世界の半導体産業の中で、受託製造企業の重要性も上昇している。25年4~6月、ファウンドリーの売上高ランキングで、TSMCは70・2%のシェアを獲得した。前期から2・6ポイントの上昇だ。2位は韓国サムスン電子で7・3%、前期から0・4ポイント低下。3位、中国の中芯国際集成電路製造(SMIC)は5・1%、前期から0・9ポイント低下した。一方、メモリー分野では、米マイクロン・テクノロジーが個人向けメモリー事業からの撤退を発表した。韓国SKハイニックス、サムスン電子など、AI向けメモリー半導体のシェア獲得競争も一段と激化している。
わが国経済の復活には、どうしても先端の半導体産業の復興が必要だろう。25年12月前半、わが国の半導体メーカーであるラピダスは、国内22社から追加の出資を取り付けた。27年度以降、3メガバンクが最大2兆円の融資を行う計画であることも報じられた。フォトレジスト(感光材)のような半導体関連部材、検査・製造装置の分野でも投資は増加傾向だ。ただ、先行きは楽観できない。現時点で、わが国には世界トップの半導体製造技術を持つ企業が見当たらない。
今後、世界のIT先端分野がどうなるか予想することは難しいが、これまで以上のスピードでAIの性能が高まり、人間型ロボット=ヒューマノイドが社会に浸透する可能性は高い。変化は急速にスピードアップするとみた方がよさそうだ。わが国企業も迅速な意思決定によって、世界クラスの製造技術の実現が必要だ。官民一体となって、新しい産業分野のリスクテイクをサポートすべきである。それが中長期的な経済の拡大に重要なことは言をまたない。 (2025年12月16日執筆)

