“地域の味”として地元で親しまれている人気のグルメ店がある。そんな店には味の良さだけではなく、人を引きつける秘密がある。“隠し味”はそれぞれだが、アップサイクルや食品ロスの軽減など環境に対する経営者の哲学と提供する商品へのこだわりが一層おいしくしている点も見逃せない。
地元の“固定種野菜”を料理に活用 地域の食文化を広めるシェフの挑戦
本場フランスで修業を積み、東京の人気フランス料理店で腕を振るってきたシェフが、故郷である埼玉県飯能市に戻り、店を構えた。地元の食材を大切にし、特に“固定種野菜”を主役に据えたコース料理を提供することにこだわりを持っている。この味を求め、東京から足を運ぶ客に加え、地元客も半数を占め、何度も通う常連が多いことからも、この店が地域に深く根付いていることがうかがえる。
地元野菜の香りや味の魅力を皿の上で表現していく
埼玉県南西部に位置する飯能市は、東京・池袋駅から西武線の特急で約40分の所にある。駅近くは繁華街や住宅街だが、奥に向かうにつれ山地が広がっており、市域の約75%を占める森林の間を入間川と高麗(こま)川が流れるなど、豊かな自然に恵まれている。シェフの小峰敏宏さんが、東京の駒沢や神楽坂のフランス料理店でシェフを務めた後、地元に戻り、飯能駅から徒歩7分の住宅街にある自宅を改装して店を開いたのは2019年のことだった。
この店「アトリエ・ド・コンマ」は、調理を小峰さん、サーブを妻と二人体制で行っているため、1日1組(2人以上)限定の予約制にしている。コースは1万3200円と1万6500円の2種類のみで、内容はアミューズ、野菜の前菜、魚、肉、デザート、ミニャルディーズ(一口サイズの菓子)とコーヒー・紅茶となっている。これらの料理は、地元周辺で育てられた食材、特に「固定種」と呼ばれる野菜が中心で、野菜本来の香りや味の力強さを重視し、旬ごとの個性をそのまま皿の上に表現している。このように野菜と向き合う小峰さんの姿勢の原点は、1980年代後半にさかのぼる。
「修業先のフランスから帰国して感じたのは、日本の野菜がおいしくないことでした。当時、畑では農薬が大量に使われ、味よりも形がいい野菜が多かったんです。そこで、88年に私がオープンした駒沢の店では、全国の農家から自然のままの健康にいい野菜を仕入れ、そうした野菜を用いた野菜のコースは評判になりました」
こうして野菜が主役のフランス料理を確立させた小峰さんは、30年以上にわたり東京でシェフを務めた後、飯能に戻ってきた。
固定種野菜やその生産農家を料理を通じて紹介
「家を建てたのは30年以上前で、ここをレストランにしようと考え、1階を厨房(ちゅうぼう)とダイニング、2階を住まいにしました。ところが、家と店の入り口が同じだったために営業許可証が取れませんでした。なので、こちらに戻ってきたときは、引退しようと考えていたんです」と、小峰さんは意外な過去を語る。
しかし、東京での常連客や地元の人たちから「ぜひ続けてほしい」と背中を押された。そこで保健所に確認に行くと、1階の厨房を入り口から完全に仕切れば、許可が出ることが判明。家を改装し、店のオープンにこぎ着けた。1日1組限定にしたのは「この人のためにという思いで料理をつくりたい」という理由からだった。
