日本商工会議所はこのほど、「東日本大震災からの確実な復興・創生に向けた要望」を取りまとめ、政府など関係各方面に提出した。本要望書は、日商が東日本大震災沿岸部被災地区商工会議所連絡会との懇談ならびに当所役職員による被災地訪問などにより得られた各地域の事業者などからの生の声や実情を整理し、日商の考えについて取りまとめたもの。特集では、本要望書の全文を掲載し紹介する。
十分な予算措置と支援を
1復興庁による支援継続と巨大化する自然災害への対策強化を望む
(1)東日本大震災からの復興を国の最優先課題と位置付けた、復興・創生期間内における復興目標の完遂
(2)東日本大震災に関する補助・支援制度について、昨今の経済社会環境やニーズの変化に即した、十分な予算措置と制度・運用の弾力化
(3)復興・創生期間終了後も被災地の復旧・復興が完全に成し遂げられるまでの、復興庁による継続支援ならびに別枠での十分な予算措置
(4)インフラにおいて予定された復興計画の完遂と首都圏や東北各地を縦横につなぐ広域交流ネットワークの整備拡充
①道路網の整備促進
〇復興道路・復興支援道路の早期全線開通と機能強化。
〇高規格幹線道路・地域高規格道路の整備促進。
〇復興に資する主要国道および県道の整備推進。
②鉄道網の整備促進
〇東北・北海道両地域の経済・人的交流をさまざまな視点から促進する東北・北海道新幹線の整備促進ならびに経済交流の促進。
③空港の整備・利用促進ならびに地方路線の維持拡充
〇東北の各空港の国内・国際線における既存路線の維持ならびに、LCCなどを活用した新規定期路線の拡充および、空港関連諸設備の整備。
④港湾の整備促進
〇各港湾の機能強化に向けた、防波堤、耐震強化岸壁などの整備推進。
〇釜石港・宮古港・相馬港・小名浜港などの物流・防災・交流拠点としての機能強化。
〇クルーズ船受け入れ環境(ふ頭の係留施設やソフト面)の整備に対する支援(地方創生推進交付金、国際クルーズ旅客受入機能高度化事業など)の継続・拡充および、クルーズ船の大型化に対応可能な水深の確保。
(5)気候変動や巨大化・激甚化する自然災害に備えた国土強靭化の推進
(6)大規模な水災害などに備えるべく、ハード・ソフト両面を組み合わせた治水対策の効果的な整備の推進
2福島における原発事故問題の終息を望む
(1)東京電力福島第一原子力発電所の廃炉実現に向け、世界の科学の英知を結集した国の主体的な取り組みのさらなる強化
(2)中間貯蔵施設の整備促進および汚染土壌の仮置場などからの早期搬出
(3)発生し続ける汚染水および処理水の適切な処分の実施
(4)避難指示解除地域への帰還促進に資する福島県事業再開・帰還促進事業の継続
(5)原子力損害賠償に関する将来分一括賠償後の超過分支払いの着実な履行に対する東京電力への国の働き掛け
〇賠償対応に相違が生じないよう、東京電力の相当因果関係の類型、判断根拠、運用基準や個別事業に対応した事例の公表・周知、個別訪問などで、被害事業者に分かりやすく説明させること。
〇相当因果関係の確認に当たっては、一括賠償請求時の提出書類を最大限活用するなど手続きの簡素化に取り組み、被害事業者の負担を軽減させること。
〇手続きの事務的・精神的負担の大きさから請求に踏み切れない被害事業者に対し、損害賠償制度のさらなる周知をきめ細かに行わせること。
〇東京電力が明言する消滅時効の不行使を確実に実行させること。
3風評払拭、産業振興および復興五輪の強力な推進を望む
(1)風評被害の払拭(ふっしょく)と販路開拓・拡大への支援強化
〇人々の理解促進に向けたリスクコミュニケーションの推進。
〇政府による総合的かつ長期的なモニタリングの実施および、人体への影響など科学的根拠に基づいた国内外への正確な情報発信。
〇東北産の農林水産物などの輸出円滑化のための、科学的な根拠に基づかない食品輸入規制の撤廃に向けた各国・地域への働き掛け強化。
〇被災地域の販路・観光の回復や中小企業・小規模事業者の再建を担う商工会議所をはじめとする地域の中核経済団体に対する活動への支援強化。
(2)被災事業者の販売力強化や地域事業の振興支援の拡充
〇各地商工会議所などが取り組む被災事業者の商品開発支援、販路開拓のために必要な専門人材(商社・百貨店などのバイヤー経験者など)の確保への助成支援。
〇復興庁の「結の場」や福島相双復興推進機構の伴走型支援をはじめとする、販路回復や新規販路の開拓に係る経営支援策のさらなる充実。
〇水産庁の支援による「東北復興水産加工品展示商談会」や、東北経済産業局を中心とした「三陸水産加工品の統一ブランド」構築などへの取り組みに対する継続支援。
〇東北各地に広がる豊富な農林水産品を背景とした食料品製造業などにおける国際競争力を高めるブランド化や6次産業化、海外への販路拡大に対する助成支援。
〇販路の開拓に向け、HACCPやグローバルGAPへの対応が必要な事業者を対象とした関連機器や設備を高度化する際の支援制度の継続。
(3)観光振興など交流人口拡大に向けた支援策の継続・拡充
〇「東北観光復興対策交付金」など、国が2020年度までとしている外国人旅行者の誘客支援事業の復興期間終了後の継続と十分な予算確保、年度制約のない柔軟な運用。
〇東北全体の広域観光を可能にする鉄道駅や空港から観光地までを結ぶ自由度の高い形での二次交通拡充支援。
〇イン・アウト双方向でのツーウェイツーリズム促進に向けた東北6県におけるパスポート保有率向上に向けた支援。
〇「防災」をテーマとしたMICEなど、集客力のあるイベント誘致に向けた支援、東北の知名度向上・イメージアップを図るための海外への情報発信強化。
〇「復興五輪」をアピールするための、2020年東京オリンピック・パラリンピック「開・閉会式」などへの『東北絆まつりパレード』出演の実施。
〇防災・震災学習プログラムを盛り込んだ教育旅行や外国人向け福島第一原発視察ツアーなどの復興ツーリズムの推進。
〇東北各地での広域観光を促進する「ETC周遊割引」など、国内外からの来訪者が東北全体を周遊しやすい仕組みづくりへの支援。
4二重債務問題や水産資源不足など新たな課題への対策を望む
(1)多重に債務を負っている被災事業者の資金繰り円滑化や債務負担の軽減など金融・税制などの支援拡充・強化
〇東日本大震災復興特別区域法に基づく復興特区制度(税制・金融・規制緩和など)の継続。
〇産業復興機構の債権買い取りスキームで発生する債務免除益に対する税法上の特例措置の拡充および凍結期間の延長。
〇東日本大震災復興緊急保証および東日本大震災復興特別貸付、小規模事業者経営改善資金震災対応特枠(災害マル経)をはじめとする、被災中小企業の円滑な資金調達のための震災保証制度や震災貸付の継続。
〇グループ補助金の自己負担分として多くの被災企業が活用している「高度化スキーム貸付制度」の返済猶予期間および返済期間のさらなる延長。
(2)被災地中小事業者の復興状況に合わせた補助金制度の拡充・運用の弾力化
〇グループ補助金を活用した施設・設備の転用・処分や事業計画の変更および既存グループへの追加申請などの制度・運用の弾力化。
〇近年の激甚災害に見舞われた二重被災者に対する「グループ補助金」ならびに「小規模事業者持続化補助金」における「特定被災事業者」の要件緩和。
〇事業再開後に移転を余儀なくされた事業者が、再度事業を起こすために必要な費用と移転補償費との差額を補てんする補助制度の創設。
〇福島県原子力被災事業者事業再開等支援補助金などの拡充ならびに補助期間の延長。
〇「ふくしま産業復興企業立地補助金」ならびに「津波・原子力災害被災地域雇用創出企業立地補助金」「自立・帰還支援雇用創出企業立地補助金」の継続・拡充。
〇復興まちづくり・産業復興に資する商業施設の整備に関して、「商業施設等復興整備補助事業」の補助金交付上限額の引き上げ。
(3)水産加工業を直撃している不漁・原料不足や魚種の変化および高騰に対する支援の強化
〇水産業共同利用施設復興整備事業補助金の継続および申請要件の緩和。
〇輸入原料の価格高騰などに伴う影響の軽減を図る支援措置の創設。
〇外国漁船からの日本での直接水揚げに係る規制緩和。
〇漁獲量不足に対応するための産学連携などによる内陸型養殖施設整備への支援。
〇漁獲魚種の変化に対応した原魚転換に伴う加工設備の変更・新設に対する支援。
〇上記(1)および(2)に掲げる金融・税制・補助金制度などの事項への支援。
(4)人手不足や雇用のミスマッチの解消、新規事業展開の促進などに向けた、労働力確保、生産性向上に資する取り組みへの支援
〇本格化する復興まちづくりの推進に不可欠な、土木・建設など技術者や、製造・物流・サービス業など従事者の確保に向けた取り組み支援。
〇事業復興型雇用創出事業について、被災3県以外からの求職者の雇い入れや既に助成金を活用した事業所の対象化などの要件見直し。
〇若者の地元定住・定着促進を図るため、小・中学生への地元企業紹介や高校生・大学生へのインターンシップ事業など、地元就職推進に関する事業への支援。
〇首都圏をはじめとする全国の大学・専門学校や、東北に再就職を希望する人材への情報発信などを通じた、東北へのUIJターンの推進支援。
〇「特定技能」外国人材の大都市圏への集中回避や、地域中小企業の円滑な受け入れに向けた相談機能の強化・拡充および、受け入れ企業と外国人材のマッチング機会の提供。
〇外国人留学生の国内就職における在留資格「特定活動」について、外国人留学生と企業双方の有効活用に向けた、制度の情報発信などの取り組みの推進。
〇地域中小企業などの生産性向上のためのAIやIoT導入、キャッシュレス化へ向けた取り組みに対する支援強化。
5先端産業・新産業の創出・育成を望む
(1)震災地域の再生および将来にわたって持続可能な地域社会の構築を図るための、先端技術や成長産業の集積促進に貢献する主要プロジェクトへの各種支援制度の継続・拡充と十分な予算措置
〇福島イノベーション・コースト構想の実現に向け、国による福島県内企業の参入支援を推進するための予算措置を含めた積極的な支援および構想の中核をなす福島ロボットテストフィールドの活用促進支援。
〇「福島新エネ社会構想」の実現に向けた新たな水素ステーションの設置促進および福島水素エネルギー研究フィールドの整備促進。
〇国際リニアコライダー(ILC)について、政府の日本誘致に向けた国際協議の本格化、東北の北上山地への施設整備および研究体制確立に向けた積極的な働き掛け。
〇2023年度に東北大学青葉山新キャンパスへの施設整備が予定されている次世代放射光施設の東北地域の中小企業の利活用に向けた普及啓発への支援。
〇環日本海シー&レール構想の実現に向け、秋田・ロシア航路開設をはじめ、荷主が利用しやすい輸送システムづくりのための支援。
(2)震災の教訓を後世に伝えるレガシーづくりの支援
〇東日本大震災メモリアルパーク(仮称)などの整備。
〇国主催の海洋博のような、大規模イベントの実施(上記(1)の先端産業施設などの活用を中心とする)。
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