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自立した地域経済の再生を

日本商工会議所は2月21日、「東日本大震災からの確実な復興・創生に向けた要望~復興・創生期間の終了を見据えた支援と自立した地域経済の再生に向けて~」を、第683回常議員会で決議し公表した。本要望書は、「復興・創生期間後も一元的な東日本大震災被災地支援の継続」「原子力災害の克服と福島の再生支援」「風評払拭(ふっしょく)に向けた取り組みの強化」「産業復興と新たな課題への支援」「東北における交流人口の拡大と日本の明日を担う未来産業の育成」の5項目から構成され、自立した地域経済の再生に向けた継続的な支援を強く求めている。特集では要望書の全文を紹介する。

東日本大震災からの確実な復興・創生に向けた要望 日本商工会議所

東日本大震災からほぼ8年が経過し、10年間と定められている復興期間は残り2年余りとなっている。この間、事業再開や人々の生活再建は着実に前進してきた。しかしながら、津波被災地域における土地のかさ上げや復興道路の整備などの復興計画が予定どおり進んでいない地域も存在する。このため、国は、遅延している事業を期間内に完了させるべく取り組みを加速化させる必要がある。

それでもなお完全な復興には時間を要することが避けられない。期待どおりに進まない販路回復、人手不足、資金繰り問題などを改善し産業復興を成し遂げるには、現在の復興・創生期間後も、省庁横断的で一元的な対応を可能とする支援体制の継続が必要である。

福島においては、原発事故に伴い今なお4万人を超える住民が避難生活を強いられている。福島の復興・再生を果たすには、原発事故の解決が不可欠である。国主導の下、科学的知見を総動員して事故の収束に全力を尽くすことはもとより、汚染水や汚染土壌の早期完全処理に万全を期さねばならない。

農林水産業や観光などを中心に安全・安心に関する風評は根強く残っている。これにより被災地域は、経済活力がいまだに震災前の状態に回復しない現実に苦しんでいる。風評の払拭なくして、東北の、そして日本経済の真の復興はない。風評払拭のため国内外に向け科学的根拠に基づく食品の安全性と安心に関する正しい情報発信を一層強化するとともに、日本産品に対する需要の大きい諸外国・地域による輸入規制を撤廃するための外交交渉努力を強化するべきである。

被災地において、事業者が新たに抱える経営課題も少なくない。国などの支援により新増設した工場が内外の経済環境や需給の変化で稼働の縮小を余儀なくされ売り上げ減少・資金回収難といった問題に直面している。深刻化する人手不足や事業承継問題、土木・建設をはじめとする復興特需がピークを過ぎたことによる地域経済循環の沈滞化などの問題も顕在化している。これらの問題は企業や地域の個別努力では解決が難しいケースも多く、国や地方自治体による柔軟かつきめ細かな支援が必要である。

域内(定住)人口の増加が見込めない中、増加傾向にあるインバウンドをはじめとする交流人口を拡大することが重要である。ラグビーワールドカップ2019日本大会や東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会などの大規模国際イベントは、世界に日本をアピールする絶好の機会となる。これを活用し、東北への誘客および東北産品の消費拡大に向けた取り組みを強化すべきである。

交流人口の拡大は、人々の移動を支える交通インフラの整備なしには進まない。道路や鉄道、港湾などの各種インフラは、住民の暮らしや企業活動を円滑に行うためにも不可欠な社会基盤である。ミッシングリンクの解消や広域交通ネットワークの整備・充実は、事故・災害時における代替手段の確保という観点からも重要である。

被災地が真の復興を成し遂げるためには、名実ともに「被災地」という固定的な位置付けから脱皮することが重要である。東北地方を、国内外からさまざまな人材・頭脳を呼び込める最先端技術・未来産業の集積地域へと発展させていく観点から、福島イノベーション・コースト構想の実現や国際リニアコライダー(ILC)の誘致などを強力に推進するべきである。

以上を踏まえ、このたび各地域の意見要望を以下のとおり取りまとめた。

政府など関係者におかれては地域や事業者の自立・自走に向けた継続的な支援をお願いしたい。

なお、わが国における未曽有の大災害を乗り越えた経験は、今後とも起こり得る大規模災害への貴重な教訓として国土強靭化の実現とその備えに生かさなければならない。

日本商工会議所としても、引き続き、全国515商工会議所のネットワークを生かし、被災地の復興・創生に向けた支援に全力で取り組んでいく所存である。

Ⅰ.復興・創生期間後も一元的な東日本大震災被災地支援の継続を望む

復興目標の完全達成に向けた取り組みを加速化すると同時に、一元的に復興を担う体制を継続するべきである。

⑴完成が遅れている道路(復興道路・復興支援道路の完了率:6・2%(19年1月21日時点))やまちづくり(津波復興拠点整備事業の造成進捗(しんちょく)率:5・8%(同))など、インフラ整備に関する復興・創生期間内の完全実施を求める。

⑵グループ補助金など補助・支援制度については、昨今の経済社会環境やニーズの変化に即して、事業の計画変更や施設・設備の転用・処分などに対する柔軟な対応ならびに十分な予算措置が必要。

⑶復興・創生期間内に達成が困難な復興目標の完遂に向け、2021年度以降も国は引き続き一元的に復興を担う組織・体制を継続するべきである。

Ⅱ.原子力災害の克服と福島の再生支援を望む

1.原発事故の完全収束、汚染水処理などの確実な実行

東京電力福島第一原子力発電所事故の早期収束や汚染水処理などをより迅速かつ確実に実行するべきである。

⑴世界の科学の英知を結集し、引き続き国の主体的な取り組みによる原発事故の収束と廃炉の実現を強力に進められたい。

⑵風評に結び付いている汚染水処理問題を早急かつ確実に解決するとともに、福島県民の不安解消を図るべく、汚染土壌などの中間貯蔵施設の整備促進および仮置き場などからの早期搬出を求める。

2.原子力損害賠償の確実な実施

迅速・適切かつきめ細かな対応による、東京電力福島第一原子力発電所事故による営業損害などの原子力損害賠償を実施するべきである。

⑴同様の被害を受けている事業者に対する賠償対応の相違を回避するため、相当因果関係の類型などの公表・周知ならびに個別訪問などによる丁寧な対応の促進が必要である。

⑵相当因果関係の立証手法の簡便化や請求手続き負担の軽減など、被害事業者の負担軽減に向けた東京電力に対する強い指導を求める。

3.産業振興に向けた支援

福島県内全域の被災中小企業・小規模事業者への経営支援を継続するべきである。

⑴「福島県原子力被災事業者事業再開等支援補助金」「ふくしま産業復興企業立地補助金」などの補助事業の継続・拡充を講じられたい。

⑵医療・福祉・育児環境をはじめとする被災地域住民の安全安心な生活環境の整備充実を図られたい。

⑶「自立・帰還支援雇用創出企業立地補助金」など、企業の労働力確保や生産性・品質向上を図るための新規設備投資に対する補助制度の継続が必要。

Ⅲ.風評払拭に向けた取り組みの強化を望む

科学的根拠に基づかない風評の払拭に向け官民を挙げた取り組みを強化すべきである。

⑴国内外において放射能と食品の安全性に関する科学的根拠に基づいた正確な情報とその正しい理解の浸透が図られるよう強力な対策を講じられたい。

⑵中国による新潟県産米の輸入規制解除(18年11月)に見られるように、粘り強い外交交渉の継続・強化により、韓国、台湾など日本産品へのニーズが高い諸外国・地域における輸入規制の早期撤廃を図られたい。

Ⅳ.産業復興と新たな課題への支援を望む

1.被災事業者の販路回復、開拓に向けた支援の継続・強化

自立的な事業経営に向けた、高付加価値商品の開発、商談会の開催、地域産品の売り上げ拡大・販売促進に向けた取り組みの支援を強化するべきである。

⑴これまで実施してきた水産庁支援による展示商談会や、経済産業局の統一ブランド構築事業、商工会議所などの広域連携事業(三陸けせん希望ストリート)などへの継続的支援が必要である。

⑵各地商工会議所などが行う商品開発(産学官連携など)、販路開拓のための専門人材の確保などに対する継続支援を図られたい。

2.産業復興を加速するための人手不足対策

中小企業・小規模事業者に対する労働力の確保支援、生産性向上対策などを強力に推進するとともに、外国人材の受け入れ拡充について支援策を講じるべきである。

⑴事業復興型雇用創出事業における被災3県以外からの雇い入れ、助成金の既受給事業者の対象化などの制度見直しを図られたい。

⑵首都圏をはじめとする全国の大学・専門学校などへの求人情報の発信と、東北へのUIJターンやインターンシップなどを通じた新卒者の地元就職の促進を支援するべきである。

⑶中小企業・小規模事業者の人手不足を補うとともに、生産性向上のためのIT・IoT・フィンテックの導入支援などの拡充を求める。

⑷外国人技能実習制度の対象職種・作業の拡大と書類・手続きの簡素・迅速化を図られたい。また、新たな外国人労働力受け入れ制度に関して、大都市圏への集中回避や中小企業・小規模事業者の手続きに対する行政支援などをお願いしたい。

3.資金繰り支援の強化、産業復興の段階に即した支援制度の見直し

事業経営を取り巻くさまざまな環境変化を踏まえ、被災した事業者に対する資金繰り支援ならびに復興の段階に応じた各種支援制度の見直しを図るべきである。

⑴東日本大震災復興緊急保証および東日本大震災復興特別貸付、小規模事業者経営改善資金震災対応特枠(災害マル経)をはじめとする、被災中小企業・小規模事業者の円滑な資金調達手段の継続的な確保など、万全な相談・支援体制の整備を図られたい。

⑵東日本大震災特別区域法に基づく各種規制・手続き、税制などの特例措置における復旧・復興の完遂までの継続を求める。

⑶漁獲量の減少などに起因する経営環境の変化によりやむなく売り上げが減少している事業者の高度化資金返済に係る据置期間の延長措置を講じられたい。

⑷事業再開後に移転を余儀なくされた事業者が、再度事業を起こすために必要な費用と移転補償費との差額を補てんする補助制度の創設を求める。

⑸世界的な魚の消費量増大や漁獲量の減少など東北沿岸部の漁業環境の変化を踏まえ、加工原魚確保対策として養殖漁業に対する補助・助成を拡充されたい。

Ⅴ.東北における交流人口の拡大と日本の明日を担う未来産業の育成を望む

1.観光振興など交流人口などの拡大に向けた支援と国際的ビッグイベントの積極的活用

東北全体への交流人口拡大も欠かせない。6県全体への旅行需要や修学旅行などは震災前の水準に戻っておらず、インバウンドの伸び率も全国には及ばない。東京2020オリ・パラ競技大会やラグビーワールドカップ2019日本大会など、多くの外国人の来日・滞在が期待できる国際的イベントを活用し、旅客の地方分散に対する支援を積極的に実施すべきである。

⑴「東北観光復興対策交付金」「東北観光復興プロモーション」「福島県における観光関連産業復興支援事業」など、外国人旅行者の誘客などを支援する事業の継続および十分な予算確保、年度制約のない柔軟な運用を講じられたい。

⑵国際的な人的交流を進めるため、東北地方を離発着する定期航空路線の維持と新規開設および利用促進への支援と、東北地域住民のパスポート保有率(東北6県:12・2%、全国平均:23・5%)の向上支援を求める。

⑶MICE(学会、展示会、セミナー、招待旅行など)など集客力のあるイベント誘致を進めるためにも各種受け入れ態勢の整備(無料Wi-Fi、観光案内機能の充実、キャッシュレス決済の導入、免税店拡充など)と海外への適切な情報発信に対する支援を強化されたい。

⑷各種プレイベントなどの東北開催ならびに関連イベントでの物販フェアの開催による地域特産品の販売促進などを強力に支援されたい。

⑸「東北絆まつりパレード」の東京2020大会の開会式などにおける実演披露を実現されたい。

⑹国際的スポーツイベントにおける、選手村やレセプションなどにおける東北産品の積極的な活用が図られるよう必要な支援策を講じられたい。

2.平時から活用できるストック効果の高いインフラ整備の推進

震災からの復興はもとより、交流人口の拡大や地域経済の活性化のために、交通インフラは非常に大切な社会基盤である。さらに、有事における代替性の観点からも、広域交通ネットワークの構築、防波・防潮堤・岸壁の整備などを推進するべきである。

⑴常磐自動車道の早期全線4車線化など高規格幹線道路・地域高規格道路および東北各県を縦横に結ぶ主要道路網などの整備を促進するべきである。

⑵現在も一部不通であるJR常磐線の早期全線開通など鉄道網の整備促進を求める。

⑶災害など緊急時の物流機能確保に向けた連携体制の強化と耐震強化岸壁の整備推進など港湾の機能拡充に向けた整備、ならびにクルーズ船の受け入れ環境整備の推進が必要である。

⑷東北地域内の空港の国内定期線の充実、福島空港の国際定期線の早期再開とアジア各国との定期線新設への支援を講じられたい。

⑸東北全体の周遊観光を可能とするため、多くの人の発着地となる空港、主要駅、港と観光地を結ぶ2次交通の拡充支援を図られたい。

3.日本の明日を担う未来産業の集積地域へ

真の復興を成し遂げるため、強力な政策誘導により、東北地方を最先端技術・未来産業の集積地域へと変えていくことが求められる。国内外からさまざまな人材・頭脳を呼び込む新たな未来都市の創建に向けた支援を図るべきである。

⑴「福島イノベーション・コースト構想」の着実な推進と企業参入支援、いわき市へのバッテリー関連産業の誘致・集積を推進する「バッテリーバレー構想」への支援を求める。

⑵水素社会実現のモデルの福島県の創出を目指す「福島新エネ社会構想」を着実に推進するなど再生可能エネルギーの最大限の活用を図るべきである。

⑶山形大学が取り組む重粒子線がん治療施設を核とした、医療ツーリズムの態勢整備および関連企業・施設の育成・誘致の支援を図られたい。

⑷「国際リニアコライダー(ILC)」の日本誘致に向けた政府の意思決定を求める。 (2月21日)