政府は6月21日、「経済財政運営と改革の基本方針2019」(いわゆる「骨太の方針」)を閣議決定した。同方針では、新たな時代への挑戦として「ソサエティー5・0」実現を訴え、第4次産業革命による高度な経済、便利で豊かな生活が送れる社会の実現―人生100年時代の到来を見据え、誰もがいくつになっても活躍できる社会の構築を目指すとしている。そのため、成長力強化に向けた取り組みとして、デジタル市場ルール整備やフィンテックの推進、全世代型社会保障への改革のため、中途・経験者採用促進などを挙げた。特集では、同方針での概要を紹介する。
第1章 現下の日本経済
1.内外の経済動向と今後の課題
(省略)
2.今後の経済財政運営
(省略)
3.東日本大震災からの復興
〇復興庁の後継組織として、復興庁のような司令塔として各省庁の縦割りを排し、政治の責任とリーダーシップの下で復興を成し遂げるための組織を置く。
第2章 ソサエティー5・0時代にふさわしい仕組みづくり
1.成長戦略実行計画をはじめとする成長力の強化
⑴ソサエティー5・0の実現
①デジタル市場のルール整備
〇内閣官房にデジタル市場の競争状況の評価等を行う専門組織の設置
〇2020年通常国会に「デジタル・プラットフォーマー取引透明化法(仮称)」法案提出
②フィンテック/金融分野
〇20年通常国会に決済分野について銀行以外でも幅広い送金を可能とするための法案提出
〇業態別から機能別・横断的な法制の実現
③モビリティー
〇20年通常国会にタクシー事業者が協力する自家用有償制度の手続きを容易化する法案提出
〇タクシーの相乗りの年度内の全国導入
〇22年度めどでドローンの有人地帯での目視外飛行
④コーポレート・ガバナンス
〇支配的な親会社が存在する上場子会社のガバナンス基準
⑤スマート公共サービス
(省略)
⑵全世代型社会保障への改革
①70歳までの就業機会確保
〇20年通常国会に65歳から70歳までの就業機会確保について、多様な選択肢を法制度上整えるための法案提出
②中途採用・経験者採用の促進
③疾病・介護の予防
〇疾病予防や介護予防を強化するため、交付金制度の抜本強化(保険者努力支援制度、介護インセンティブ交付金制度)
⑶人口減少下での地方施策の強化
①地域のインフラ維持と競争政策
〇20年通常国会に乗り合いバスと地域銀行について、独占禁止法の特例法案(時限措置)として提出
②地方への人材供給
〇大都市圏から地方への人材供給の促進を促す仕組みの構築
2.人づくり革命、働き方改革、所得向上策の推進
⑴少子高齢化に対応した人づくり革命の推進
①幼児教育・保育の無償化など
〇幼児教育・保育無償化・質の確保・向上
②初等中等教育改革
〇教育システムの複線化
〇教育の情報化:データのデジタル化・標準化、希望する小・中・高での遠隔教育活用
〇中途退学未然防止のための体制整備、中退者への切れ目ない支援
〇多様な高校教育:特色ある教育のための類型化などの普通科改革
〇多様な高校教育:高大連携、地域・グローバル人材の育成
〇学校における働き方改革:業務の効率化・精選、指導・事務体制の強化・充実
③私立高等学校の授業料の実質無償化
○20年度私立高校実質無償化
④高等教育無償化
○20年度高等教育無償化
⑤大学改革
〇未来社会の構想:設計力などソサエティー5・0時代に求められる能力の育成
〇STEAM教育の充実:AI・数理・データサイエンス教育
〇専門職大学や専門学校などにおける企業などと連携した実践的な職業教育
〇大学の連携・統合
⑥リカレント教育
〇大学や専修学校などのリカレント教育の拡大
〇人材の育成などにおける民間企業などの知見・ノウハウの最大限活用
〇早期卒業・長期履修制度や単位累積加算制度の活用、学位取得の弾力化
⑵働き方改革の推進
〇長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現、同一労働同一賃金の導入
⑶所得向上策の推進
①就職氷河期世代支援プログラム
〇支援対象の見込みは100万人程度
〇正規雇用者を30万人増やすことを目指す
〇社会参加支援が先進的な地域の取り組みの横展開
・対象者の実態・ニーズを明らかにし、必要な人に支援が届く体制の構築
〇相談、教育訓練から就職まで切れ目のない支援
・きめ細かな伴走支援型の就職相談体制の確立
・受けやすく、即効性のあるリカレント教育の確立
・採用企業側の受け入れ機会の増加につながる環境整備
・民間ノウハウの活用
〇個々人の状況に合わせた、より丁寧な寄り添い支援
・アウトリーチの展開
・支援の輪の拡大
〇官民協働スキームとしてプラットフォームを形成・活用
②最低賃金の引き上げ
〇生産性向上に取り組む中小・小規模事業者へ伴走型支援を粘り強く行うなど思い切った支援策を講じるとともに、下請け事業者による労務費上昇の取引対価への転嫁を図る
〇最低賃金については、この3年、年率3%程度をめどとして引き上げられてきたことを踏まえ、景気や物価動向を見つつ、中小・小規模事業者が賃上げしやすい環境整備の取り組みとあいまって、より早期に全国加重平均が1000円になることを目指す
〇わが国の賃金水準が他の先進国との比較で低い水準に留まる理由の分析をはじめ、最低賃金の在り方について引き続き検討
3.地方創生の推進
⑴東京一極集中の是正、地方への新たな人の流れの創出
〇特定の地域に継続的に多様な形で関わる「関係人口」の増加
〇二地域居住・就業の推進
〇プロフェッショナル人材事業の抜本的拡充など
〇民間企業人材の地方企業・地域への還流
〇「スマートシティ」での新技術のフル活用
〇インフラデータの活用による物流高度化、次世代モビリティーの導入推進
〇「企業版ふるさと納税」における寄付促進
⑵地域産業の活性化
①観光の活性化
〇訪日外国人旅行者数の2020年4000万人、20030年6000万人
〇日本政府観光局による各地域の魅力を海外に一元的に発信
〇非常時の外国人旅行者の安全・安心確保
〇地域資源を生かした観光コンテンツの開発
〇持続可能な観光地づくりに向けた観光地の混雑対策
〇広域周遊観光、ナイトタイムの活性化
②農林水産業の活性化
〇技術実装の推進によるスマート農業
〇林業におけるイノベーション:ICTによる木材の生産管理
〇スマート水産業:データの利活用やバリューチェーンの生産性改善
〇植物の品種登録制度の充実による優良品種海外流出防止、新品種育成促進
〇和牛遺伝資源の不適切な海外流出防止
③海外活力の取り込みを通じた地域活性化
〇地元産品の輸出を通じた海外販路開拓と訪日外国人の拡大・地方誘客によるインバウンド需要獲得の好循環
〇地域への対日直接投資促進:2020年までに対日直接投資残高35兆円
⑶中堅・中小企業・小規模事業者への支援
〇地域金融機関・商工会議所などを通じた即戦力となる中核人材の確保支援
〇サプライチェーン全体の最適化を含めた生産性向上
〇第三者承継や経営資源引継ぎ型の創業の後押し
〇後継者保証を不要とする信用保証制度の創設、保証料負担の最大ゼロまでの軽減
〇防災・減災対策の促進
⑷地方分権改革の推進など
(省略)
⑸対流促進型国土の形成
(省略)
⑹沖縄の振興
(省略)
4.グローバル経済社会との連携
⑴G20における持続的成長へのコミットメント
〇G20議長国として国際協調強化へのさらなるリーダーシップ発揮
〇世界経済の持続可能で包摂的成長実現のためのG20における各国の適切な政策運営と国際協調の重要性の確認
⑵経済連携の推進、TPPなどの21世紀型ルールの国際標準化
〇TPP11や日EU・EPAにおける自由・公正な21世紀型ルールの国際標準化
〇多角的貿易体制が世界経済の成長・発展の基盤であることの再確認、WTO改革
〇日米貿易交渉の早期の成果実現
⑶データの越境流通などのルール・枠組みづくりの主導
(省略)
⑷SDGsを中心とした環境・地球規模課題への貢献
〇質の高いインフラ投資に関するG20原則などに基づくインフラ整備の推進
〇パリ協定長期成長戦略に基づき、今世紀後半できるだけ早期の「脱炭素社会」実現
〇G20における海洋プラスチックごみ対策についての共有認識合意 〇プラスチックの3R推進、レジ袋の有料化義務化、代替素材のイノベーション
〇アジア健康構想・アフリカ健康構想の下、ヘルスケア産業の海外展開
5.重要課題への取り組み
(省略)
第3章 経済再生と財政健全化の好循環
1.新経済・財政再生計画の着実な推進
○「経済再生なくして財政健全化なし」との基本方針の下での経済・財政一体改革の推進
〇25年度の財政健全化目標達成を目指し、基盤強化期間(2019~21年度)の「目安」に沿った予算編成
〇改革工程表のKPIを活用し、改革の進ちょく管理や成果の評価を行い、経済・財政一体改革を着実に推進
2.経済・財政一体改革の推進など
⑴次世代型行政サービスを通じた効率と質の高い行財政改革
①デジタル・ガバメントによる行政効率化
〇財源を含めた国の主導的な支援の下で自治体などの情報システム・データを標準化
〇行政手続きなどにおけるオンライン化の徹底による行政サービスの100%デジタル化
〇20年4月から中小企業などの社会保険・補助金の行政手続き負担の軽減
〇自治体行政のAI・ICT化、クラウド化を抜本的に進める計画を策定
②効率的・効果的な予算執行の推進
〇政府情報システムの予算要求から執行各段階における一元的な管理の強化
〇システム改修に係る経費を2025年度までに20年度比で3割削減
③EBPMをはじめとする行政改革の推進
〇データの積極的活用に向けた公的統計整備、政府統計の抜本改善
〇成果連動型インセンティブなど民間資金などを引き出す公契約・普及方策の検討など
〇公務員の定年引き上げと能力・実績主義の徹底、業務の抜本見直し
⑵主要分野ごとの改革の取り組み
①社会保障
〇団塊世代が75歳以上に入り始める22年までに社会保障制度の基盤強化
・年金・介護必要な法改正も視野に、19年末までに結論
・医療など:骨太方針2020において給付・負担の在り方を含め、取り組むべき政策の取りまとめ
〇予防・重症化予防・健康づくりの推進
・働き盛りの40~50歳代の特定健診・がん検診受診率の向上に向けた総合的取り組み
・「認知症施策推進大綱」に基づく予防、早期発見・早期対応のための施策の実行
〇雇用保険料と国庫負担の時限的な引き下げの継続などについての検討
〇医療・介護制度改革・40年、医療・福祉分野サービスの生産性を5%以上向上、医師は7%以上向上
・総合的な医療提供体制改革:地域医療構想、医師偏在対策、医師などの働き方改革
・保険者機能の強化:アウトカム指標による評価割合を計画的に引き上げ、国保の法定外繰入解消、都道府県内保険料水準の統一などの先進・優良事例の全国展開
・高い創薬力を持つ医薬品産業への転換と薬価制度の抜本改革の推進
・診療報酬:調剤報酬の適正な評価に向けた検討など
②社会資本整備
〇データ駆動型インフラ整備・管理や民間投資の喚起などを通じた「スマートシティ」の実現
〇インバウンド受け入れ環境の整備などの重点プロジェクト明確化、建設現場の生産性2割向上
〇キャッシュフローを生み出しにくいインフラにもPPP/PFIを導入するための検討具体化
〇公共施設の長寿命化、統廃合の推進などによる公的ストックの適正化
③地方行財政改革
〇「目安」に従って、国の取り組みと基調を合わせて歳出改革などを加速・拡大
〇地方創生の重要課題に対し具体的な成果を目指して取り組む自治体への支援強化
〇地方の新たな発想を生かせるよう、補助金の自由度向上に向け対象・工程の具体化
〇広域的に連携する事業などに積極的に取り組む自治体への地方財政措置の拡充検討
④文教・科学技術
〇国・地方の教育政策におけるエビデンスに基づく実効的なPDCAサイクルの構築
〇研究資金や研究成果も含めた科学技術政策のコスト・効果などの見える化
⑤税制改革、資産・債務の圧縮など
⑶歳出改革などに向けた取り組みの加速・拡大
①「見える化」の徹底・拡大
〇見える化を通じて得られたデータを活用し、各分野における歳出改革の取り組みについて実効的なPDCAサイクルを構築
②先進・優良事例の全国展開など
〇AI・ICTなどを活用した業務手法の標準化・コスト縮減などの効果が高い事業について、方策・時期・KPIなどを具体化した上での戦略的な全国展開
③インセンティブ改革
〇インセンティブ措置の効果検証を適切に実施。より効果の高いインセンティブの仕組みの構築に向け、必要な対応の検討
第4章 当面の経済財政運営と令和2年度予算編成に向けた考え方
〇デフレ脱却・経済再生最優先の基本方針。あらゆる政策を総動員し、経済運営に万全を期す
〇19年度は、臨時・特別の措置などにより、消費税率引き上げ前後の需要変動を平準化、経済の回復基調に影響を及ぼさないように取り組む
〇キャッシュレス・消費者還元事業、プレミアム付商品券事業、耐久消費財(自動車・住宅)の税制・予算措置の実施により、消費の喚起・下支え
〇来年度予算編成においても、適切な規模の臨時・特別の措置を講ずる。海外経済の下方リスクに十分目配りし、リスクが顕在化する場合には、機動的な政策を躊躇なく実行 骨太の方針の全体版と概要版は、内閣府ホームぺージ:https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2019/decision0621.htmlを参照。
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