観光庁はこのほど、令和元年版「観光白書」を発表した。白書は、最近の観光の動向や観光がもたらす経済効果を幅広い観点から分析するとともに、観光立国の実現に向けて講じようとしている施策を報告している。特集では、白書の概要を紹介する。
第Ⅰ部 平成30年観光の動向
1.世界の観光の動向
◯国連世界観光機関(UNWTO)発表の世界観光動向によると、2018(平成30)年の国際観光客は前年より7400万人増の14億300万人(前年比5・6%増)となった。
◯地域別に見ると、近年、アジア太平洋地域のシェアが到着、出発共に増加している。
◯17(平成29)年の「外国人旅行者受入数ランキング」において、日本(2869万人)は12位で前年の16位から上昇した。アジアでは香港とマレーシアを抜いて3位となった。
◯「空路又は水路による外国人旅行者受入数ランキング」では、日本(2869万人)は8位(アジアで2位)であった。
◯なお、18(平成30)年の訪日外国人旅行者数3119万人は、17(平成29)年の「外国人旅行者受入数ランキング」では11位に相当し、「空路又は水路による外国人旅行者受入数ランキング」では6位に相当する。
◯17(平成29)年の「国際観光収入ランキング」において、日本(341億ドル)は11位(アジアで4位)で前年より金額は増加したものの、同順位であった。
◯「国際観光支出ランキング」では、日本(182億ドル)は18位(アジアで6位)で前年の16位(アジアで5位)から低下した。
◯なお、18(平成30)年の日本の国際観光収入411億ドルは、17(平成29)年の「国際観光収入ランキング」では8位に相当し、18(平成30)年の日本の国際観光支出201億ドルは、17(平成29)年の「国際観光支出ランキング」では、16位に相当する。
2.日本の観光の動向(訪日旅行の状況)
◯18(平成30)年の訪日外国人旅行者数は、3119万人(前年比8・7%増)となった。(図1)
◯訪日外国人旅行者数の内訳は、アジア全体で2637万人(全体の84・5%)となった。東アジアが2288万人(全体の73・4%)となり、ASEAN主要6カ国が333万人(全体の10・7%)、北米は186万人となった。また、欧州主要5カ国(英・仏・独・伊・西)で112万人となった。
○18年の訪日外国人旅行消費額は、過去最高の4兆5189億円。12年(1・1兆円)以降7年連続対前年増。
○国籍・地域別に旅行消費額を見ると、中国が1兆5450億円(構成比34・2%)と最も大きい。次いで、韓国5881億円(同13・0%)、台湾5817億円(同12・9%)、香港3358億円(同7・4%)、米国2893億円(同6・4%)の順であり、これら上位5カ国・地域で全体の73・9%を占める。
3.日本の観光の動向(海外旅行、国内旅行の状況)
(海外旅行)
◯18(平成30)年の日本人の海外旅行者数は、1895万人(前年比6・0%増)となり3年連続の増加となった。
(国内旅行)
◯18(平成30)年の宿泊旅行延べ人数は、2億9105万人、日帰り旅行延べ人数は、2億7073万人となった。
◯18(平成30)年の日本人の国内旅行消費額は、20・5兆円(前年比3・0%減)となった。
◯18(平成30)年の日本人および訪日外国人旅行者による日本国内の旅行消費額は、26・1兆円となった。
◯このうち、訪日外国人旅行者による旅行消費額のシェアは17・3%となった。
4.日本の観光の動向(宿泊の状況)
◯18(平成30)年の日本国内のホテル・旅館などにおける延べ宿泊者数は、5億902万人泊(前年比0・1% 減)となった。うち日本人延べ宿泊者数は4億2043万人泊(前年比2・2%減)、外国人延べ宿泊者数は8859万人泊(前年比11・2%増)となった。
◯18(平成30)年の地方部での外国人延べ宿泊者数は前年比11・3%増となり、三大都市圏での伸びを上回った。地方部のシェアは41・0%であった。(図2)
◯客室稼働率は、18(平成30)年は全体で61・1%と前年(60・5%)を上回った。特に、東京都では80%を超える水準となっている。
◯タイプ別に見ると、シティホテルが79・9%、ビジネスホテルが75・3%、旅館が39・0%となっている。
5.日本の観光の動向
(地域における観光の動向)
◯外国人延べ宿泊者数の前年比を地方ブロック別に見ると、東北地方が34・7%増、中国地方が21・6%増と高い伸びとなっている。また、北陸信越(14・0%増)、中部(18・0%増)、近畿(11・9%増)、四国(11・3%増)、沖縄(13・6%増)も全国平均を上回る伸びとなった。
◯地方ブロック別の外国人延べ宿泊者数を国・地域別に見ると、中国が北海道・関東・中部・近畿の4地方で、韓国が九州で、台湾が東北・北陸信越・中国・四国・沖縄の5地方で最も高い比率を占めた。
第Ⅱ部 すそ野広がる観光の経済効果
1.地方を訪問する外国人旅行者の増加とコト消費の動向
○近年、三大都市圏以外の地方部を訪問する訪日客が増加。その背景には訪日客による「コト消費」への関心の高まりがあると考えられる。
○地方部を訪問する訪日客数は、18(平成30)年には、三大都市圏のみを訪問する訪日客数の1・4倍となった。(図3)
○「スキー・スノーボード」などの「コト消費」を行う訪日客は、地方部への訪問率が高い。
○地方部訪問率が60%を超える「地方型コト消費」が「訪日前に最も期待していたこと」であった訪日客の割合は、5年間で6・6ポイント拡大。
○地方部での訪日客の消費額も拡大。「コト消費」は消費額の拡大に貢献している。
○地方部での訪日客の消費額は1兆円を超え、都道府県合計に占めるシェアは約3割に拡大。(図4)
○スキー・スノーボードの体験の有無による訪日客1人当たり旅行支出の差と、体験した訪日客数より算出したスキー・スノーボードの経済効果は約650億円。
○さまざまな「コト消費」の体験の有無による訪日客1人当たり旅行支出の変化を確認したところ、いずれの場合も体験した場合の支出額が上回った。
○その他の「コト消費」についても同様に訪日客による経済効果の引き上げが期待できる。○大阪府や東京都では旅行消費額の4割以上をインバウンドが占めている。
○日本人と訪日外国人を合わせた旅行消費額のうち訪日外国人の占めるシェアは、大阪府、東京都、京都府、福岡県、愛知県の順に高い。
○他方、日本人による旅行消費額の大きい都道府県において、必ずしも訪日外国人の旅行消費額が大きくなってはいない。
2.観光関連産業における雇用、賃金、生産性の動向
○インバウンドの増加に伴い、宿泊業の雇用、賃金が増加。生産性も向上している。
○宿泊業の従業者数は12(平成24)年からの6年間で8万人、14・5%増加。特に女性、高齢者の従業者数の伸びが大きい。
○宿泊業の平均賃金は6年間で11・0%上昇し、従業員1人当たりの売上高は、4年間で13・8%増加した。
○宿泊業においては、新規求人数が増加する中で人手不足感が高まっており、労働力の需給ひっ迫の状況がうかがえる。
○宿泊業の新規求人数は14年からの4年間で16・4万人から19・5万人へと18・9%増加した。
○「宿泊・飲食サービス」の人手不足感は他産業を上回るペースで高まり続けている。
3.観光関連産業における投資の動向
○インバウンドの増加に伴い、宿泊業の建設投資が各地で拡大している。
○宿泊業の建築物工事予定額は18(平成30)年には1兆円を超え、6年間で9・0倍。
○工事予定額を地域ブロック別に見ると、北海道、近畿、九州では、6年間で2桁を超える倍率で伸びている。
○宿泊業の建築物の着工棟数は6年間で2・7倍、床面積は5・9倍に増加した。
○インバウンド需要は、宿泊業のみならず、製造業含め幅広い業種、かつ全国各地において投資を創出。
4.各国における訪日旅行契機の消費の動向
○各国・地域において、日本の食材の購入や日本食レストランの利用は、半数前後が訪日旅行をきっかけとしたものとなっている。
5.訪日外国人旅行者の増加が観光地に与える影響
○訪日外国人旅行者の増加による好影響については、Wi‐Fiの整備やにぎわいの創出などを挙げる意見が多い。
○訪日外国人旅行者の増加による国内旅行への影響については、「ほとんどなかった」との回答が約65%と最も多かった。
○訪日外国人旅行者の増加は、「話題のスポットに行ってみたい」「観光地の魅力を知ることになった」といった理由で、国内旅行のきっかけになっている。
○他方、「観光施設が混雑する」「宿泊費が高くなる」といった理由から、国内旅行を抑制する影響も見られる。
6.自然災害が旅行に与える影響
○「特定非常災害」「激甚災害」「災害救助法適用災害」のうち、地震の場合は被災地の延べ宿泊者数が落ち込む傾向があり、特に外国人の場合は顕著である。
○18(平成30)年に発生した「大阪府北部地震」「台風21号」「平成30年7月豪雨」「北海道胆振東部地震」では、災害後一時的に被災地での延べ宿泊者数が減少したものの、「ふっこう割」などの効果もあり、いずれも比較的短期間で回復が見られた。
7.地域における取り組みの事例(コラム)
(省略)
第Ⅲ部 平成30年度に講じた施策
①観光資源の魅力を極め、「地方創生」の礎に
○魅力ある公的施設・インフラの大胆な公開・開放
○文化財の観光資源としての開花
○国立公園の「ナショナルパーク」としてのブランド化
○景観の優れた観光資産の保全・活用による観光地の魅力向上
○滞在型農山漁村の確立・形成
○古民家などの歴史的資源を活用した観光まちづくりの推進
○新たな観光資源開拓
○地方の商店街などにおける観光需要の獲得・伝統工芸品などの消費拡大
○広域観光周遊ルートの世界水準への改善
○「観光立国ショーケース」の形成の推進
○東北の観光復興
②観光産業を革新し、国際競争力を高め、わが国の基幹産業に
○観光関係の規制・制度の総合的な見直し
○民泊への対応
○産業界ニーズを踏まえた観光経営人材の育成・強化
○宿泊施設不足の早急な解消および多様なニーズに合わせた宿泊施設の提供
○「世界水準のDMO」の形成・育成
○「観光地再生・活性化ファンド」の継続的な展開
○次世代の観光立国実現のための財源の活用
○訪日プロモーションの戦略的高度化
○インバウンド観光促進のための多様な魅力の対外発信強化
○MICE誘致の促進
○IRに係る法制上の措置の検討
○ビザの戦略的緩和
○訪日教育旅行の活性化
○観光教育の充実
○若者のアウトバウンド活性化
③全ての旅行者が、ストレスなく快適に観光を満喫できる環境に
○最先端技術を活用した革新的な出入国審査などの実現
○民間のまちづくり活動などによる「観光・まち一体再生」の推進
○キャッシュレス環境の飛躍的改善
○通信環境の改善と誰もが一人歩きできる環境の実現
○多言語対応による情報発信
○急患などにも十分対応できる外国人患者受入体制の充実
○「世界一安全な国、日本」の良好な治安などを体感できる環境
○「地方創生回廊」の完備
○地方空港のゲートウェイ機能強化とLCC就航促進
○クルーズ船受け入れのさらなる拡充
○公共交通利用環境の革新
○休暇改革
○東京オリンピック・パラリンピックに向けたユニバーサルデザインの推進
第Ⅳ部 令和元年度に講じようとする施策
①外国人が真の意味で楽しめる仕様に変えるための環境整備
○観光地
○交通機関
○文化財・国立公園
○農泊
②地域の新しい観光コンテンツの開発
○文化財
○国立公園
○公的施設・インフラ
○古民家や城泊・寺泊など
○農泊
○観光地・交通機関
③日本政府観光局と地域(地方公共団体・観光地域づくり法人)の適切な役割分担と連携強化
④地方誘客・消費拡大に資するその他主要施策
○出入国の円滑化
○ビザの戦略的緩和
○空港
○MICE・IR
○持続可能な観光地域づくり
○国際観光旅客税の活用
○アウトバウンド・国内観光
○東北の観光復興
○「観光立国ショーケース」の形成の推進
○観光統計
観光白書の全体版と概要版などは、観光庁ホームぺージ(http://www.mlit.go.jp/kankocho/news02_000386.html)を参照。
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