経済産業省はこのほど、令和2年度政府予算の同省関係の概算要求を取りまとめ公表した。それに寄ると中小企業対策費は1386億円と、前年度(平成31年度)当初予算比269億円の増額を要求した。内容的には「事業承継・創業などによる新陳代謝」「生産性向上・デジタル化・働き方改革」「地域の稼ぐ力の強化・インバウンドの拡大」の3点に重点を置き、また、令和2年4月からの同一労働・同一賃金などの中小企業への適用を見据え「経営の下支え、事業環境の整備」にも配慮したものとした。概算要求のポイントは、次のとおり。
令和2年度 経済産業政策の重点
最重要課題:廃炉・汚染水対策/福島の復興・再生
⑴廃炉・汚染水対策
⑵避難指示解除と帰還に向けた取り組み拡充
⑶福島の産業復興
⑷風評払拭・リスクコミュニケーション推進
二つの大きな変化への対応
①デジタル経済の進展への対応
⑴デジタル化・データ利活用によるビジネスモデルの転換
○官民デジタル・トランスフォーメーション/データ連携の参照モデル設計/コネクテッドインダストリーズの実現
⑵デジタル技術の進展に合わせたルール整備
○信頼性のある自由なデータ流通(データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト(DFFT)に向けた国際連携の推進
○プラットフォーム時代の公正・透明な市場環境整備/デジタル技術を活用した規制などの再構築
②米中対立をはじめとする世界政治経済の混乱への対応
⑴自由で公平な通商ルールの推進/ルールベースの米中橋渡し
○市場歪曲的措置・保護主義的措置の是正(日米欧、G7/20、WTO、APECなどの活用)/EPAネットワークの拡大(CPTPP、RCEPなど)/インフラ整備の原則(債務持続可能性など)の国際展開
⑵ビジネス主導のイノベーションを通じた「環境と成長の好循環」の実現
○企業の競争力の源泉としての気候変動対策(イノベーション、民間資金の誘導、国際展開)
新たな経済産業政策二つの力点
①新たな成長モデルの創出
日本経済復活の鍵は、大企業・公的セクターからのヒト・モノ・カネの開放。開放されたリソースによる新たなビジネスの創出や企業枠を超えて挑戦を後押しする。
⑴「自前主義・囲い込み型」から、「開放型・連携型」の組織運営への移行
○兼業・副業の促進/資金の豊富な大企業によるベンチャーなどのへの投資促進/事業再編の円滑化
⑵新たな価値を生むプレーヤー・市場の創出
○J-Startup企業の徹底支援によるスタートアップ・エコシステム強化/国内外のリスクマネー供給強化
○国際標準を活用した新市場創出/新興国企業との共創による新事業創出
②安全保障と一体となった経済強靭化政策
安全保障と経済を一体的に捉え、さまざまな外的環境変化に柔軟に対応できる経済システムを構築する。
⑴経済安全保障政策の推進
○日本に不可欠な産業の維持・強化のための新たな方策の検討
⑵投資・技術管理/セキュリティー強化
○投資・技術管理の体制強化/技術革新を阻害しない新興技術の規制の在り方の検討
○サプライチェーン全体でのサイバーセキュリティー強化/情報処理上重要な半導体などの産業基盤強化
新たな成長モデルの創出を支える基盤の整備
①大変革を実現するひとづくり
⑴4次革命を進める人材育成
○EdTech導入を通じたSTEAM教育推進
○AI人材・ロボット人材育成
⑵明るい社会保障改革の実現
○優れた民間予防・健康サービスの創出
○70歳までの就業機会確保に向けた環境整備
②人口減少時代の地域・中小企業政策
⑴個社の成長を徹底支援
○第二創業などによる経営資源の円滑な引き継ぎ支援
○経営者保証依存からの脱却/下請取引適正化策の強化
○デジタル化による生産性向上/海外展開促進
⑵地域の稼ぐ力強化
○地域へ波及効果の大きい企業支援/キャッシュレスの導入促進
③イノベーションを生み出す環境整備
⑴研究者の育成・魅力向上
○若手研究者の発掘・育成/研究開発型スタートアップ支援
⑵ソサエティー5・0実現の研究開発・社会実績
○社会仮題(人手不足など)の解決に資するR&D集中支援
○ソサエティー5・0を支える基盤技術(AIシステムなど)の開発支援
○豊かで快適な移動を実現(スマートモビリティーチャレンジ)
日本経済全体の土台となるエネルギー安全保障の強化
⑴エネルギー転換/脱炭素化
○FIT制度の抜本見直し(国民負担抑制と再エネ最大限導入を両立)/水素、CCUS、カーボンリサイクルなどの新技術開発
⑵「安全・安心」の確保/レジリエンス強化
○国際情勢を踏まえた内外の資源確保/電源‐NW投資を促す制度構築/AIなどによる電力システム次世代化/安全最優先の原発再稼働・技術と人材の維持強化
令和2年度地域・中小企業・小規模事業者関係の概算要求などのポイント
基本的な課題認識と対応の方向性
●中小企業・小規模事業者は、「経営者の高齢化」「人手不足」「人口減少」という三つの構造変化に直面。これらの構造変化に対応するため、①「事業承継・再編・創業などによる新陳代謝の促進」、②「生産性向上・デジタル化・働き方改革」、③「地域の稼ぐ力の強化・インバウンドの拡大」に重点的に取り組む。
●近年、非常に大きな災害が継続的に発生している状況を踏まえ、④「災害からの復旧・復興、強靱化」にもより一層取り組んでいく。
●加えて、長時間労働規制(2020年4月)、同一労働・同一賃金(2021年4月)の中小企業への適用も見据え、⑤「経営の下支え、事業環境の整備」に引き続き粘り強く取り組む。(図1)
①事業承継・再編・創業などによる新陳代謝の促進
【令和2要求232億円(31当初129億円)】
●第三者承継促進のため後継者不在の中小企業における後継者候補の確保・育成を支援するとともに、事業引継ぎ支援センターの体制強化などを実施する。
●ベンチャー型事業承継・第二創業への支援重点化を行うとともに、経営資源引き継ぎ型の創業を後押しする。
●事業承継時に経営者保証を不要とする新たな信用保証メニューを創設し、専門家の支援・確認を受けた場合には、信用保証料を大幅に軽減する。
○事業承継・世代交代集中支援事業
【50億円(新規)】
・事業承継を契機とした事業者の新たな挑戦のための設備投資・販路拡大や後継者不在の中小企業者におけるトライアル雇用などを支援する。
○中小企業信用補完制度関連補助・出資事業
【82億円(59億円)】
・信用補完制度を通じた円滑な資金供給支援や経営改善を必要とする中小企業者に対する経営支援を行う。
②生産性向上・デジタル化・働き方改革
【令和2要求424億円(31当初369億円)】
●昨年度より当初予算化した「ものづくり補助金」において、複数企業がデータ連携する場合の設備投資などの支援を拡大。
●小規模事業者の「生産性革命」を実現するため、地方公共団体が地域の実情に応じた販路開拓支援などの小規模企業政策に取り組むことを支援。
●ITを活用し新たな付加価値を創出するため、中小サービス業などの分野におけるITツールのパッケージ化・汎用化を支援する。
●AI/ロボット/ブロックチェーンなどの最新技術の導入による新たなビジネスの創出を後押しするため、中小企業の研究開発・試作品開発・人材投資を支援する。
○ものづくり・商業・サービス高度連携促進事業
【70億円(50億円)】
・複数の中小企業・小規模事業者などが、事業者間でデータを共有・活用することで生産性を高める高度なプロジェクトを支援する。
○地方公共団体による小規模事業者支援推進事業
【20億円(10億円)】
・地方公共団体が小規模事業者などに対して、経営計画を作成する取り組みや、その経営計画に基づき販路開拓に取り組む際の費用および事業継続力強化に資する取り組みを支援する。
○共創型サービスIT連携支援事業
【20億円(新規)】(図2)
・中小サービス業などの分野で、ITベンダーと中小企業などが共同で既存のITツールの組み合わせなどを行い、当該ITツールの汎用化による業種内・他地域への横展開を目指す取り組みを支援する。
○AI人材連携による中小企業課題解決促進事業
【15億円(新規)】(図3)
・AI活用意欲のある中小企業とAIの技術能力をもった人材をマッチングし、協働で課題を解決することにより、中小企業とAI人材の連携を推進し、中小企業の生産性改善を促進する。
③地域の稼ぐ力の強化・インバウンドの拡大
【令和2要求297億円(31当初286億円)】
●地域経済をけん引する地域中核企業などを重点的に支援し、イノベーションによる新事業展開(地域未来投資)を促進する。
●市場ニーズに対応した商品・サービス開発や、「越境EC」や「海外クラウドファンディング」などの新たな販路の活用を支援する。
●地域・社会課題について、地域と企業の共生を促進し、ビジネスとして成り立つモデルづくりを支援する。
○地域未来投資促進事業
【158億円(159億円)】
・地域でのイノベーション創出に向けた支援体制を強化し、事業化戦略の策定、ものづくりやAI人材を活用したサービスの開発などを支援する。
○JAPANブランド育成支援等事業
【21億円(新規)】
・海外展開などに当たって、中小企業が行う新商品・サービス開発などの取り組みに対して支援する。その際、ECやクラウドファンディング、地域商社など海外展開などのノウハウを持つ支援事業者を活用した取り組みに対し、重点的に支援する。
○地域・企業共生型ビジネス導入・創業促進事業
【10億円(新規)】
・地域および課題を横断的に束ねて解決するモデルづくりを支援することなどにより、企業の創業・成長を通じた地域と企業の共生を促進する。
④災害からの復旧・復興、強靱化
●東日本大震災からの復旧・復興について、引き続き支援策を措置。
●中小企業強靱化法に基づき、防災・減災対策の事前対応の強化を図る「事業継続力強化計画」を策定しようとする中小企業を、専門家派遣などにより支援する。
○中小企業等強靱化対策【独立行政法人中小企業基盤整備機構運営費交付金の内数】
・中小企業の計画策定支援に加え、商工団体の経営指導員などを中心に防災・減災対策の指導が可能な人材を育成する。
⑤経営の下支え、事業環境の整備
●よろず支援拠点や商工会などによる働き方改革を含む経営相談などを実施。
●下請Gメンによる事業者へのヒアアリング結果や産業分析などを通じて、中小企業の更なる取引条件の改善を推進。
●中小企業の経営指導(経営発達支援計画等)、資金繰り支援(政策金融・信用保証、マル経)などに引き続き粘り強く取り組む。
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