コラム石垣 2019年9月21日号 神田玲子

先進国では軒並み寿命が延びていると思い込んでいたら、そうでもないらしい。米国では、白人のワーキングクラスの労働者の寿命が、ここ数年で短くなっているという。鎮痛剤の過剰摂取や自殺による死亡が増えているためだ。これらの死因は「絶望による死」と分類されている。経済大国の豊かさを享受できると思っていた白人労働者が、貧困や低賃金の現実に直面し、また、いつ貧困層に転落するかというリスクを抱え、将来への希望を見失っている。

▼トランプ大統領は、こうした白人労働者層の不安につけ込み、「アメリカファースト」を掲げ大統領選で勝利した。しかし、トランプの対外政策では、残念ながらワーキングクラスの生活は良くはならない。中国との貿易戦争も、景気へのマイナスの影響が深刻になりつつあり、国民生活は改善するどころか、悪化に向かっている。

▼そもそも、グローバルな競争や技術変化のスピードに適応できずにいる人々は、米国以外の社会にも存在する。トランプ大統領が、自国の問題を本気で解決しようとするならば、同じ悩みを持つ各国の首脳と胸襟を開いて議論すべきではないか。国の競争力に直結する課題は、国内の制度であっても海外と協調する余地は多い。

▼例えば、各国間の法人税率を巡る引き下げ競争は、国の財源を奪っている。過度な競争を防ぐには、各国が協調して税率の下限を定めることが望ましい。8月末にフランスで開催されたG7で首脳会合が事実上骨抜きになり、先進国の足並みの乱れが露呈した。「絶望による死」が潜むのは米国だけではない。その拡大を防ぐためにも、各国協調することで真の解決策が得られることに気付くべきだ。

(NIRA総合研究開発機構理事・神田玲子)

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