日商 Assist Biz

更新

スポーツライター 青島健太の注目アスリート 「思い切り打たなくていい」 大坂選手を変えたコーチの助言

全米オープンテニス第13日女子シングルス決勝、初制覇しトロフィーを持つ大坂なおみ=2018年9月8日、米ニューヨーク

女子プロテニス、大坂なおみ選手のプレーをはじめて生で見たのは、2016年の全豪オープン(メルボルン)だった。

身長180㎝。女子の選手としては申し分のないフィジカルを誇る彼女だが、そのテニスはまだまだ粗削りだった。持ち味は、豪快なサービスとパワフルなフォアハンドで、これが決まった時には相手は何もできない。ところがゲームの中で好不調の波が大きく、自分のショットが思うように決まらないと苛立ちを見せ、どんどん失点が続いてしまう。揚げ句、大きな声を出して溜まったフラストレーションを爆発させるのだが、自分からミスを連発して自滅するような試合内容が多かった。この時も3回戦まで進んだが、持てる力を発揮しきれずに大会から姿を消した。

あれから2年。女王セリーナ・ウィリアムズとの決勝を制し、全米オープン・チャンピオンに輝いた大坂なおみ選手は、それまでの弱点を克服し、見違えるような選手に成長していた。豪快さとパワーで押し切るのではなく、状況を把握しながら有利なポイントで的確なプレーを繰り出していく。その冷静さと我慢強さが、相手をじわじわと苦しめていく。メンタルのマネジメントがゲームマネジメントにつながり、ミスの少ない(負けない)選手へと見事な変貌を遂げた。

変身の理由は、新しいコーチとの出会いだった。去年12月から指導を受けているドイツ人コーチのサーシャ・バイン氏とアメリカ人トレーニングコーチのアブドゥル・シラー氏のアドバイスが彼女を変えた。

バイン氏は大坂選手に「思い切り打とうとしなくていい」と言い続けた。フルパワーで打たなくてもコースさえよければ十分にエースが取れる。彼女にそのことを教えたかったのだ。シラー氏とのトレーニングでは、体重を7㎏減量した。それはそのままロングラリーに強いスタミナを生んだ。大坂選手は試合の中での我慢を覚え、ここぞという勝機を逃さない冷静さを身に付けたのだ。

我慢とはただただ劣勢を耐え忍ぶことではない。心を冷静に保ち、置かれている状況を的確に把握することだ。これは私たちの日常にも通じることだろう。

彼女にはまだまだ伸びしろがある(バイン氏)。飾らない自然な会話(コメント)も大人気だ。日本のテニス界に素晴らしい才能が現れた。

写真提供:USA TODAY・ロイター=共同

あおしま・けんた スポーツライター&キャスター 1958年新潟市生まれ。埼玉県立春日部高校から慶応義塾大学、東芝を経てヤクルト・スワローズに入団。プロ野球初打席で初ホームランを記録。引退後は、オーストラリアで日本語教師を務め、帰国後、あらゆるメディアでスポーツの醍醐味を伝えている

次の記事

大迫傑

初マラソンが2017年4月のボストンマラソン(3位)。同年12月に福岡国際(全体3位、日本人1位)を走り、迎えた3回目のマラソンでその偉業は達成された。今年10月に行われたシカ…

前の記事

桃田賢斗

茶髪の目立つ髪型も派手なアクセサリーも、今の桃田賢斗選手には必要なかった。彼が手にしたものは、それ以上に輝き名誉なものだったからだ。バドミントン男子シングルス世界王…

関連記事

上野由岐子

2020年東京五輪を心待ちにしているアスリートは数多くいるが、その中でもこの人ほど熱い思いで、その時を待っている選手はいないだろう。ソフトボール日本代表の上野由岐子投手…

渡辺一平

東京辰巳国際水泳場で4月に行われた競泳日本選手権。韓国で開催される世界選手権(7月)の代表選考を兼ねた大会だけに、有力選手の泳ぎに注目が集まった。バタフライと個人メド…

吉田正尚

強烈なアピールだった。2020年東京五輪で金メダルを狙う野球日本代表の4番候補にオリックス・バファローズの吉田正尚(まさたか)選手(外野手)が名乗りをあげた。3月9、10日と…