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スポーツライター 青島健太の注目アスリート 日本記録は通過点。 さらに上を目指す大迫傑

シカゴマラソンで日本記録を塗り替える2時間5分50秒で3位の成績を収めた大迫傑は成田空港に到着、日本新記録を祝う幕の前でポーズをとった

初マラソンが2017年4月のボストンマラソン(3位)。同年12月に福岡国際(全体3位、日本人1位)を走り、迎えた3回目のマラソンでその偉業は達成された。今年10月に行われたシカゴマラソンで大迫傑(すぐる)選手(ナイキ)が、それまでの日本記録を21秒更新する2時間5分50秒の大記録を打ち立てたのだ。日本人選手の2時間5分台は、もちろん初めてである。

日本記録の樹立には、日本実業団陸上競技連合から1億円のボーナスも支給される。ゴール後のインタビューで喜びを爆発させることだろうと思っていたら拍子抜けするほど淡々としたものだった。それはきっと好記録は出たものの今回も3位という順位に終わったことに納得がいかなかったからだろう。

思えば16年リオデジャネイロ五輪の時もそうだった。トラックの5000mと1万mに出場した大迫だったが、成績は28位と17位と振るわなかった。その時のインタビューは不機嫌というより怒っているような印象だった。記録ももちろんだが、大迫は誰よりも順位にこだわっているのだ。

「記録は自分でコントロールできない要素が左右する。例えば風、気温、ペースだったり……」

だからこそ勝負にこだわる。

その姿勢は大迫がアメリカを拠点にプロのランナーとして活動していることと無縁ではないだろう。賞金の額は順位で決まるからだ。それゆえに5分台の日本記録も通過点でしかない。

「僕はまだ現役。日本記録はゴールではない。僕らからしたらそんなに驚きでもない」

と彼は言う。

そのクールな感覚は2020年東京五輪に対しても同じだ。

「モチベーションの一つというだけ。出られるかも分からないし、先のこと。特別じゃないと言えば、ウソになるかもしれないけど、特別なことをして臨むほど特別な大会ではない」

常に何かを射抜くように鋭い眼光で前を見続ける大迫。口数も少なくたやすく笑顔を見せることもない。それは他者との比較や記録に興味を持たないからだ。大迫は「僕は僕だから」と自分を追求することだけにフォーカスする。目指すは、どんなレースでも「一番」になること。勝負にこだわるということは、結局は自分とどう向き合うかということなのだ。

写真提供:産経新聞

あおしま・けんた スポーツライター&キャスター 1958年新潟市生まれ。埼玉県立春日部高校から慶応義塾大学、東芝を経てヤクルト・スワローズに入団。プロ野球初打席で初ホームランを記録。引退後は、オーストラリアで日本語教師を務め、帰国後、あらゆるメディアでスポーツの醍醐味を伝えている

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