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テーマ別誌上セミナー 新型コロナウイルスだけじゃない!“ウイルス感染”から職場を守る

今冬、中国の湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルス感染症は瞬く間に世界中に拡大し、日本にも社会的、経済的に大きな影響を及ぼしている。しかし、ウイルス感染の恐れがあるのは冬だけではない。1年を通じて多種多様なウイルスが存在し、常に感染のリスクにさらされている。そこでこれからの季節にも注意したいウイルス感染症から個人を、さらには職場を守るために、普段から心掛けたい感染症対策を、本誌連載「今日から始める“大人”健康生活」の福田千晶先生に聞いた。

福田 千晶 ふくだ・ちあき

医学博士・健康科学アドバイザー

福田 千晶(ふくだ・ちあき) 医学博士・健康科学アドバイザー 1988年慶應義塾大学医学部卒業後、東京慈恵会医科大学リハビリテーション医学科に勤務。96年よりフリーランスの健康科学アドバイザーとして、講演、執筆、テレビ・ラジオ番組への出演などで幅広く活躍。また、診療所などで診察を担当するほか、産業医として企業の健康管理や健康啓発にも携わる。主な著書に『90日つけるだけ健康ノート』(永岡書店)、『病気にならない体を温める習慣(中経の文庫)』(KADOKAWA/中京出版)『メタボがわかれば寿命がのびる!』(白夜書房)など多数

コロナウイルスは風邪の原因となる一般的なウイルス

▼そもそもウイルスとは?

福田先生(以下、福田) 感染症を引き起こす主な病原体として、細菌とウイルスがあります。細菌は栄養源になるものがあれば増殖していきますが、ウイルスは人間や動物など生物の細胞に侵入しなければ増殖できません。つまり生物に“寄生”することで生き延びてきた微生物といえます。

▼種類はどれくらいあるのか。

福田 3万種類ほどあるとされています。ただ、インフルエンザウイルス一つとっても、さらに複数の型があります。これは1度感染すると体内に抗体がつくられるので、再び寄生できるように自ら形を変えていくからです。

▼毎年インフルエンザが流行するのは、そういう理由が……。

福田 ウイルスを完全に退治しようとすれば、寄生された細胞もろとも死滅させなければならないので、実質的には不可能です。そこがウイルスのやっかいな点です。

▼新型コロナウイルスの“新型”も形を変えた結果?

福田 そうですね。コロナウイルス自体は一般的な風邪の原因となるウイルスで、大抵は子どものころに感染していて、かかっても軽症で済むことが多いです。今回の新型コロナウイルスは、一説にはコウモリに寄生していたコロナウイルスが形を変え、人間にも寄生できるようになったのではないかといわれています。かつてない型だけに人間は抗体を持っておらず、予防ワクチンもないため、感染が広がってしまったわけです。

ウイルス感染症にかかるのは冬だけとは限らない

主なウイルス感染症 流行カレンダー

▼毎年冬になるとウイルス感染症が増えるが。

福田 日本の冬は気温と湿度が低いので、ウイルスの入り口となる鼻や喉の粘膜が弱くなり、感染症にかかるリスクも高くなります。ただ、ウイルスは1年中存在するので、常にリスクはあります。

▼これからの季節に注意が必要なウイルス感染症は?

福田 春は寒暖差が大きく、自律神経のバランスを崩しやすい。さらに年度の変わり目で環境が変化し、集団生活の中でウイルスに感染する機会も増えます。そうしたことから、麻疹や風疹、流行性耳下腺炎(おたふく風邪)、水ぼうそうなどが流行しやすくなります。

▼それらは子どものころにかかっているか、予防接種を受けていて、大人は免疫があるのでは?

福田 意外にそうとも限りません。子どものころに流行したから、自分もかかったと勘違いしている人がたまにいます。年代によっては、風疹のワクチンを必要な回数接種していないケースもあります。また、子どものころに感染した水ぼうそうのウイルスが神経内に眠っていて、加齢とともに免疫力が落ちてくると、活動を再開して発症することもあります。

▼自分がどんなウイルスに免疫を持っているかを知る手立ては?

福田 抗体検査を受けると分かります。かかった記憶があいまいで、同居する小さなお子さんや高齢者にうつしたくない場合など、検査を受けておくと安心です。もし、抗体がないことが分かったら、年齢にかかわらず予防接種を受けるといいと思います。

▼夏は高温多湿なので、感染症のリスクは低いのでは?

福田 夏はお祭りや花火大会などイベントが多く、外出する機会も増えるので、ウイルスが体内に侵入しやすい季節です。それに暑さによる睡眠不足で体力の低下や、冷たいものを取り過ぎて胃腸が弱りやすいため、決して侮れません。

▼例えば、どんなものがある?

福田 プール熱(咽頭結膜熱)や流行性角結膜炎(はやり目)などは夏に流行する感染症です。また、手足口病は一般的に子どもがかかりやすく、比較的軽症で済むことの多い病気ですが、大人でも感染し、何度もかかります。

▼感染症に最も注意が必要なのは秋から冬にかけて?

福田 ウイルスが活動しやすい条件がそろってくるので、要注意ですね。秋に気を付けたいのはノロウイルス感染症です。吐き気や嘔吐(おうと)、下痢などの消化器症状に加え、発熱や悪寒、筋肉痛や倦怠感などの症状が出ます。病原体のノロウイルスは感染力が強いのが特徴。新型コロナウイルスに効果的とされるアルコール消毒も、ノロウイルスには効きません。そのため誰か1人が感染すると、周りの人や家族全員にうつしてしまう恐れがあるので、医師の中には最も厄介な感染症という人もいます。

▼ノロウイルスに対する予防接種は?

福田 残念ながらないので、もし発症したら対症療法を行うしかありません。そういう意味ではインフルエンザにはワクチンがあるし、ほぼ毎年流行することが想定されているので、予防接種を受けることをおすすめします。接種から抗体がつくられるまでに2週間ほどかかるので、流行が本格化する前に受けるのがポイントです。

感染しやすい人と感染しにくい人がいる

▼そもそもウイルスに感染しやすいのはどういう人か。

福田 やはりウイルスに触れる機会が多い人ほど、感染リスクは高くなります。例えば、仕事で人と会う機会の多い人、通勤で不特定多数が利用する電車やバスなどを使っている人は、いつ感染しても不思議ではありません。

▼ほとんどの社会人は感染リスクにさらされている?

福田 ただ、感染しても発症するかどうかは別です。ほとんど症状が出ないまま回復する人もいれば、重症化してしまう人もいます。

▼その分かれ目はどこにある?

福田 個々の免疫力の違いも大きいですね。また、同じ人でも仕事で多忙が続き、疲れがたまっていたり睡眠不足だったりすると、免疫力も落ちてかかりやすくなります。毎年インフルエンザの予防接種を受けているのに、今年はかかってしまったという人は、ワクチンの型が合わなかった可能性もありますが、その人の体力が落ちていたことも大きな理由でしょう。ただ、ワクチンを接種していれば、症状は軽く済むことが多いです。

▼ほかに感染しやすいケースは?

福田 喫煙者もそうです。たばこを吸う人は喉に小さな炎症が起こっている場合が多く、喉の免疫機能が低下しがちだからです。同様に、花粉症などのアレルギー疾患を持っている人も、喉や鼻の粘膜が炎症を起こし、外から入ってくるウイルスを防御する力が弱いので、感染しやすいといえます。

また、意外なところでは、口呼吸をしている人も気を付けた方がいいでしょう。鼻呼吸の場合、鼻毛や粘液が空気清浄機と加湿器の役割を果たしていて、ウイルスをうまくブロックしてくれますが、口にはそういう機能がないのでダイレクトに侵入してしまいます。

▼自分が口呼吸をしているか確かめる方法は?

福田 例えば、電車に乗ったときにリラックスして、自分が口を開けているかどうかチェックしてみてください。または、電車でひと駅くらい口を閉じたまま乗ってみて、呼吸が苦しくないかどうか。もし苦しく感じるなら、普段は口呼吸をしている可能性が高いですね。

▼感染症が重症化しやすいケースというのは?

福田 体力が落ちていれば、誰でも重症化するリスクはあります。ただ、糖尿病を患っている方は全般的にウイルス感染しやすく、重症になりやすい傾向にあります。また、呼吸器疾患を持っている人も要注意です。

さまざまなウイルス感染から身を守るには

▼ウイルス感染を予防する効果的な対策は?

福田 やはり基本は手洗いとうがいです。外から帰ってきたときは必ず両方を行うこと。また、手にはさまざまなウイルスが付着して感染源になりやすいので、食事をする前やトイレの後、赤ちゃんのおむつを換えた後なども石けんでよく手を洗ってください。

▼アルコール消毒をした方がいいのか。

福田 アルコールには多くのウイルスを死滅させる働きがあるので有効です。よく手洗いとアルコール消毒のどちらを先にしたらいいかという質問を受けるのですが、特に決まりがあるわけではありません。ただ、外から帰ってきて手を洗う前に、ドアノブや手すりなどに触れて、そこにウイルスが付着する可能性があるので、玄関でまずアルコール消毒をし、改めて手を洗うといいでしょう。

▼洗面所などに石けんとアルコール消毒液が両方用意されている場合は?

福田 必ずしも両方をしなければならないということではありません。石けんで手をよく洗い、十分な水で洗い流せば、ウイルスをほぼ除去することができます。さらに濡れた手をよく拭いて乾かしてから、アルコール消毒をすればより効果的です。

▼職場で心掛けたいウイルス対策は?

福田 職場も自宅と同じで、ウイルスを持ち込まないことが第一です。職場には多くの人が集まり、共有する場所や機器もたくさんあります。そこでまずは、一人一人が自分自身と身の回りの環境を清潔に保つよう心掛けることが、職場でのウイルス感染症の流行を予防する前提となります。

職場全体で取り組もう!ウイルス感染予防のポイント

監修/福田千晶

手洗いは石けんで

目に見えず、においもないウイルスは、いつどこで感染するか分からない。特に職場は、人の出入りも多く感染リスクが高い場所といえる。しかし、ポイントを押さえておけば、感染予防は決して難しくない。

POINT1 手洗いは石けんで

出社時や外出先から戻るときなど、社内に入るときは必ず手を洗う習慣を。石けんを付けて、手のひら、手の甲、指の間や付け根などをまんべんなく洗い、十分な流水で洗い流す。指輪を付けている人は、できれば取り外して洗うとよい。洗い終わったら手を拭いて乾燥させる。アルコール消毒液がある場合は、最後の仕上げに使おう。

POINT2 うがいはブクブク1回、ガラガラ3回

手洗いとセットでうがいも行おう。口の周りや口の中にウイルスが付いている場合があるので、まずは1回水を含んでブクブクして口の中をゆすぐ。次に上を向いて喉の方まで水を行き渡らせ、ガラガラと3回ほどうがいをするのが効果的だ。

POINT3 会社の出入り口にアルコール消毒液を

職場に持ち込むウイルスを減らすためにも、会社の出入り口にアルコール消毒液を設置し、屋内に入る前に除菌する習慣を付けよう。ただ、ノロウイルスのようにアルコールでは死滅しないものもあるので、席に着く前に手を洗うことも忘れずに。

POINT4 来客時にはお茶を飲もう

医師が患者を診察する際、デスクの傍らにお茶が置いてあることがよくある。これは万一ウイルスが口から入っても、お茶で胃の中に流し込み、胃酸で死滅させるという意図もある。職場でも来客があったらお茶を出し、飲みながら話すのも方法だ。

POINT5 換気と加湿を心掛ける

午前と午後に1回ずつ換気をして、新鮮な空気を取り入れたり空気清浄機を活用したりしよう。また、ウイルスに水分が付着すると重さで床に落ち、感染リスクが低下するので、湿度が40%未満になったら、加湿器を使うのも効果的だ。

POINT6 トイレや洗面所には紙製タオルを

トイレや洗面所で共有のタオルを使っている場合、タオルを介してせっかく洗った手にウイルスが付いてしまう恐れがある。使い捨ての紙製タオルに変えれば、感染リスクを下げることができる。

POINT7 便座のふたを閉めてから流そう

便器などに付着していたウイルスが、水流によって空気中に舞い上がってしまう場合がある。それを防ぐために、社員一人一人が便座のふたを閉めてから水を流す癖を付けよう。

POINT8 共有する場所や機器はこまめに消毒を

ドアの取っ手、階段の手すり、エレベーターの階数ボタンをはじめ、多くの人が触れる場所、共有パソコンなど複数の人間が使う機器は、アルコールティッシュなどでこまめに拭いて使う。食堂や休憩所にアルコール消毒液を設置しておくのも有効だ。

POINT9 症状がある人はマスクを着用

咳やくしゃみ、鼻水などの症状がある人はマスクを着用する。市販のマスクではウイルスの侵入を完全に防ぐことはできないが、飛沫(ひまつ)を外に飛ばさない役目は果たすので、周りの人にうつすリスクを低減できる。

POINT10 予防接種をできるだけ受けよう

インフルエンザなどは、社員に予防接種を促そう。麻疹や風疹、おたふく風邪、水ぼうそうなど、子どものころに罹患(りかん)または予防接種を受けたか記憶があいまいな場合は、一度抗体検査を受けておくと安心だ。

感染者を犯人扱いしないで

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感染症は人から人へうつっていくため、職場の感染第一号になると、周囲から感染源として嫌がられてしまうことがある。しかし、その人だってなりたくてなったわけではない。このような場合、できれば社長が「体調が悪いようなら、むしろ休んでくれ」という方針を示すと、感染者は気兼ねなく養生でき、結果的に早い回復と感染予防につながる。

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