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コラム石垣 2019年11月21日号 宇津井輝史

日本語は難しい。他言語話者が習得しにくいだけでなく、母語とする人にとっても複雑怪奇である。そもそも「日本語」が普及したのは明治以後。国民を創るため、各地の「お国ことば」ではない、近代国民国家の統一的な言語政策が必要だった。だが日本語は生成的に変化する。

▼発音は異なるが文法がよく似ているのが韓国語である。仮名と同じ表音文字ハングルを鏡として現代日本語を照射してみせた点で、野間秀樹『日本語とハングル』(文春新書)は画期的日本文化論である。「多様な文字を自らのエクリチュールの血脈に取り込」んだ日本語は、文字についてほとんど限界に近いパフォーマンスを発揮していると言う。つまり融通無碍(むげ)なのである。

▼融通無碍なのは話し言葉にも言える。ある言葉がそれまでとは違う意味で使われても、それが一定数の話者の間で当たり前になれば、新しい意味が辞書にも掲載されて市民権を持つのである。たとえ目に余る誤用であっても、辞書編集者は「生きている言葉」を採用する。融通無碍は柔軟性に富むとも言え、日本人の変化への対応力を示してもいよう。

▼今年も「国語に関する世論調査」を文化庁が発表した。「砂をかむよう」は本来「無味乾燥でつまらない様子」という意味だが、56・9%が「悔しくてたまらない様子」と答えた。「天地神明に誓って」という慣用句を53・7%が「天地天命に」と思っていた。

▼意味のズレがそのまま定着してしまうのは世の常。言葉の変容に目くじらを立てるまい。だが、もとは仲間うちの隠語や符丁のようなものにまで市民権を与えるべきか。寛大が過ぎれば社会のルールにも及ぶ。何気なく見過ごしていたら「何気に」が辞書に載っていた。

(文章ラボ主宰・宇津井輝史)

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