米中の貿易戦争は、トランプと習近平の二人の言動に注意が行きがちだ。しかし、多くの識者が指摘するように、この根底には、米国と中国の覇権争いがある。自由に価値を置くリベラリズムと、国家を軸とする権威主義の二つの体系が対峙(たいじ)している。
▼対外政策で一帯一路を掲げる中国は、ユーラシア大陸やアフリカ大陸にまで自国の経済圏を拡大しようとしている。その地域の国々は、中国の成功にあやかろうとするかもしれない。自由や民主主義といった普遍的な価値を共有しない中国。その勢力が拡大しつつあることは、西側諸国にとって脅威に映る。しかし、米中には忘れてはならない共通点がある。それは、両国の経済発展を支えたのは、他ならぬ民主的なルールに基づく自由貿易体制だということだ。中国はWTOに加盟し、民主的な基盤に立つ世界経済をうまく取り込んで頭角を現した。
▼今後の世界経済は、中国の力の増大によって多大な影響を受けるだろう。中国が経済力を振りかざし、自国に都合のよいグローバル化を第三国に押し付けていきはしないか。それを制止できるかは、西側諸国が連携して、魅力的な道筋を第三国に示せるかどうかにかかっている。戦後の自由化政策によって生じた、格差や貧困の問題、巨大なIT企業による利潤独占、これらマイナスの側面にどう対処していくのか。外資に頼らず自国資本の産業をどう育成していくべきか。
▼魅力ある道筋とは、これらの課題への方策が含まれていなければならない。それは、西側のリベラリズムの政策を見直すことでもある。第三国は美辞麗句の言葉ではない現実を見ている。先進国の対応が世界経済の未来を決める。
(神田玲子・NIRA総合研究開発機構理事)
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