自由民主党と公明党はこのほど、「平成27年度与党税制改正大綱」を取りまとめた。今回の大綱では、法人実効税率の引き下げ、外形標準課税の中小企業への適用拡大見送り、中小法人の軽減税率の延長、地方拠点強化税制の創設など、商工会議所の要望の多くが盛り込まれたほか、消費税の複数税率については、今後の検討課題となっている。特集では、大綱の基本的な考え方と商工会議所の要望実現状況などについて紹介する。
Ⅰデフレ脱却・経済再生に向けた税制措置
1.成長志向に重点を置いた法人税改革
◆改革の趣旨(略)
◆改革の枠組み
平成27年度を初年度とし、以後数年で、法人実効税率を20%台まで引き下げることを目指す。その際、2020年度の基礎的財政収支黒字化目標との整合性を確保するため、制度改正を通じた課税ベースの拡大などにより、恒久財源をしっかりと確保する。
税率引き下げと課税ベースの拡大などの改革は、大きく分けて2段階で進めることとし、以下のとおり取り組む。
①第1段階として、平成27年度税制改正において、欠損金繰越控除の見直し、受取配当など益金不算入の見直し、法人事業税の外形標準課税の拡大、租税特別措置の見直しを行う。これらの改革に当たっては、地域経済を支える中小法人への影響に配慮して、大法人を中心に改革を行う。また、賃上げへの配慮措置や地域で雇用を支える中堅企業の負担増の軽減措置、改革を段階的に実施するなどの激変緩和措置も講ずる。
法人税については、平成29年度にかけて段階的に財源が確保されることとなるが、経済の好循環の実現を力強く後押しするために税率引き下げを先行させることとし、平成27年度から、現行の25・5%から23・9%に引き下げる。
また、大法人向けの法人事業税所得割(地方法人特別税を含む。)については、外形標準課税の拡大にあわせて、現行7・2%の標準税率を、平成27年度に6・0%、平成28年度に4・8%に引き下げる。これらにより、国・地方を通じた法人実効税率(現行34・62%)は、平成27年度に32・11%(▲2・51%)、平成28年度に31・33%(▲3・29%)となる。
②第2段階として、平成28年度税制改正においても、課税ベースの拡大などにより財源を確保して、平成28年度における税率引き下げ幅の更なる上乗せを図る。さらに、その後の年度の税制改正においても、引き続き、法人実効税率を20%台まで引き下げることを目指して、改革を継続する。このため、以下をはじめとして、幅広く検討を行う。
イ.大法人向けの法人事業税の外形標準課税の更なる拡大に向けて、平成27年度税制改正の実施状況も踏まえつつ、引き続き検討を行う。その際、分割基準や資本割の課税標準のあり方などについて検討する。あわせて、外形標準課税の適用対象法人のあり方についても、地域経済・企業経営への影響も踏まえながら引き続き慎重に検討を行う。
ロ.生産性向上設備投資促進税制(平成28年度末期限)、所得拡大促進税制(平成29年度末期限)および研究開発税制(増加型・高水準型は平成28年度末期限)については、経済の好循環の定着状況等を踏まえつつ、取り扱いについて検討を行う。
ハ.減価償却については、中小事業者などにおける設備投資への影響に留意しつつ、経済の好循環の定着状況などを見極めながら、定額法への一本化について、検討を行う。
ニ.法人事業税の損金不算入化について、税の性格上は損金算入が自然であるとの考え方もある一方、地方独自の減税措置の効果が国税などの課税ベースの変動により減殺されてしまうことや、各税目の税負担が納税者にとって不明確となることを考慮しつつ、検討を行う。
ホ.租税特別措置については、毎年度、期限が到来するものを中心に、廃止を含めてゼロベースで見直しを行う。
③全法人の99%を占める中小法人(資本金1億円以下)については、軽減税率や各種の政策税制(例えば、中小企業投資促進税制)が適用されるほか、欠損金繰越控除の控除限度、特定同族会社の留保金課税、法人事業税の外形標準課税をはじめとする多くの制度において、大法人と異なる扱いが認められている。
中小法人の実態は、大法人並みの多額の所得を得ている法人から個人事業主に近い法人まで区々であることから、そうした実態を丁寧に検証しつつ、資本金1億円以下を中小法人として一律に扱い、同一の制度を適用していることの妥当性について、検討を行う。その上で、中小法人のうち7割が赤字法人であり、一部の黒字法人に税負担が偏っている状況を踏まえつつ、中小法人課税の全般にわたり、各制度の趣旨や経緯も勘案しながら、引き続き、幅広い観点から検討を行う。
④⑤(略)
2.高齢者層から若年層への資産の早期移転を通じた住宅市場の活性化
高齢者層から若年層への資産の早期移転を通じて、すそ野が広く経済波及効果が大きい住宅需要を刺激するとともに、省エネルギー性・耐震性・バリアフリー性を備えた良質な住宅ストックの形成を促すことが重要である。また、消費税率引上げの前後における駆け込み需要およびその反動による住宅市場への影響を踏まえ、その影響の平準化および緩和を図ることが必要である。そのため、住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置について、適用期限を延長した上で拡充する。
3.投資家のすそ野拡大・成長資金の確保(略)
Ⅱ 地方創生・国家戦略特区
1.東京圏への人口集中の是正・各地域での住みよい環境の確保
(1)地方拠点強化税制の創設
人口の東京への過度な集中を是正するためには、地方の企業において雇用の場を確保し、人材を定着させることが必要である。
このため、地方公共団体における計画的・戦略的な企業誘致の取り組みと相まって、企業が、その本社機能などを東京圏から地方に移転したり、地方においてその本社機能などを拡充する取り組みを支援するため、本社などの建物に係る投資減税を創設するとともに、雇用の増加に対する税額控除制度(雇用促進税制)の特例を設ける。
(2)ふるさと納税
ふるさと納税を促進し、地方創生を推進するため、個人住民税の特例控除額の上限の引上げを行うとともに、確定申告が不要な給与所得者などがふるさと納税を簡素な手続で行える「ふるさと納税ワンストップ特例制度」を創設する。これとあわせ、地方公共団体に対し、返礼品などの送付について、寄附金控除の趣旨を踏まえた良識ある対応を要請する。
(3)外国人旅行者向け消費税免税制度の拡充
消費税免税店の拡大および利便性向上を図る観点から、商店街やショッピングモール内などにおける免税手続きを、「免税手続カウンター」でまとめて行えるようにするなど、外国人旅行者向け消費税免税制度を拡充する。
2.国家戦略特区(略)
3.少子高齢化の進展・人口減少への対応
(1)結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の創設(略)
(2)学校法人などへの個人寄附に係る税額控除制度の拡充(略)
(3)少子化への対応、働き方の選択に対する中立性の確保などの観点からの個人所得課税の見直し
(前略)個人所得課税について、効果的・効率的に子育てを支援する観点、働き方の選択に対して中立的な税制を構築する観点を含め、社会・経済の構造変化に対応するための各種控除や税率構造の一体的な見直しを丁寧に検討する。
Ⅲ 社会保障・税一体改革
1.消費税率10%への引き上げ時期の変更
経済再生と財政健全化を両立するため、平成27年10月に予定していた消費税率10%への引き上げ時期を平成29年4月とする。
社会保障制度を次世代に引き渡す責任を果たすとともに、市場や国際社会からの信認を高めるために財政健全化を着実に進める姿勢を示す観点から、平成29年4月の消費税率10%への引き上げは、「景気判断条項」を付さずに確実に実施する。
消費税転嫁対策特別措置法の適用期限について、消費税率10%への引き上げ時期の変更にあわせ、平成30年9月30日まで1年半延長することとし、引き続き消費税の円滑かつ適正な転嫁について万全な対応を進める。
2.消費税率引き上げ時期の変更に伴う対応
(1)住宅取得などに係る措置
消費税率引き上げによる住宅投資への影響の平準化・緩和策である住宅ローン減税の拡充などの措置および東日本大震災の被災者に対する再建住宅の取得などに係る住宅ローン減税の拡充措置について、消費税率引き上げ時期の変更を踏まえて、その対象期間を平成31年6月30日まで1年半延長する。この措置による個人住民税の減収額は、全額国費で補てんする。
また、一般の住宅取得および被災者の住宅再建に係る給付措置の対象期間についても平成31年6月30日まで1年半延長する。
なお、住宅市場に係る対策については、今般の経済対策を含むこれまでの措置の実施状況や今後の住宅着工の動向などを踏まえ、必要に応じて検討を行う。
(2)車体課税の見直し
平成26年度与党税制改正大綱などにおける消費税率10%段階の車体課税の見直しについては、平成28年度以後の税制改正において具体的な結論を得る。
自動車取得税および自動車重量税に係るエコカー減税については、燃費基準の移行を円滑に進めるとともに、足もとの自動車の消費を喚起することにも配慮し、経過的な措置として、平成32年度燃費基準への単純な置き換えを行うとともに、現行の平成27年度燃費基準によるエコカー減税対象車の一部を、引き続き減税対象とするなどの措置を講ずる。
自動車重量税については、消費税率10%への引き上げ時の環境性能割の導入にあわせ、エコカー減税の対象範囲を、平成32年度燃費基準の下で、政策インセンティブ機能を回復する観点から見直すとともに、基本構造を恒久化する。また、平成25年度および平成26年度与党税制改正大綱に則り、原因者負担・受益者負担の性格などを踏まえる。
軽自動車税については、一定の環境性能を有する四輪車などについて、その燃費性能に応じたグリーン化特例(軽課)を導入する。この特例については、自動車税・軽自動車税における環境性能割の導入の際に自動車税のグリーン化特例(軽課)とあわせて見直す。また、二輪車などの税率引き上げについて、適用開始を1年間延期し、平成28年度分からとする。(後略)
(3)地方法人課税の偏在是正
平成26年度与党税制改正大綱における消費税率10%段階の地方法人課税の偏在是正については、平成28年度以後の税制改正において具体的な結論を得る。
3.消費税の軽減税率制度
消費税の軽減税率制度については、関係事業者を含む国民の理解を得た上で、税率10%時に導入する。平成29年度からの導入を目指して、対象品目、区分経理、安定財源などについて、早急に具体的な検討を進める
Ⅳ 固定資産税
(前略)平成27年度から平成29年度までの間、土地に係る固定資産税の負担調整の仕組みと地方公共団体の条例による減額制度を継続する。
その一方、今後、デフレから脱却し、地価が一定程度の上昇に転じる場合には、商業地などの負担水準がばらつき、負担の不均衡が再拡大するなどの問題が生じ、商業地などの据置特例などの負担調整措置の見直しが必要となると考えられる。
また、農地に関しては、早期の宅地化を期して市街化区域に編入された農地の税負担が長期にわたって低い状態にとどまるため、長く市街化区域内で営農されている農地との間での不均衡などの課題も生じている。
これについては、都市農業の振興に係る措置の検討とあわせて、検討を進める必要がある。
これらを踏まえ、次期評価替えまでの間において、デフレ脱却の動向を見極めつつ、これらの課題への対処について検討を進めるとともに、税負担の公平性や市町村の基幹税である固定資産税の充実確保の観点から、異なる用途の土地や他の資産との間の税負担の均衡化など、固定資産税の今後を見据えた検討を行う。
Ⅴ 国境を越えた取引等に係る課税の国際的調和に向けた取り組み(略)
Ⅵ 復興支援のための税制上の措置(略)
Ⅶ 円滑・適正な納税のための環境整備(略)
平成27年度与党税制改正大綱の概要~商工会議所が要望してきた内容を中心に~
1.デフレ脱却・経済再生
○成長志向に重点を置いた法人税改革(経産省)・法人実効税率(現行34.62%)を27年度に32.11%(▲2.51%)、28年度に31.33%(▲3.29%)へ引き下げ。27年度を初年度とし、以後数年で、法人実効税率を20%台まで引き下げることを目指す
・繰越欠損金控除制度の縮減<資本金1億円超の企業>
・受取配当益金不算入の縮減
・外形標準課税の見直し<資本金1億円超の企業>
※見直しにより中堅企業(付加価値額30億円超40億円未満)の税負担が増加する場合、負担増加額を50%軽減。また、賃上げの取り組みを阻害しないよう、所得拡大税制の要件を満たす企業の賃上げ分を控除(1年間)
・所得拡大促進税制の拡充
○住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置の延長・拡充(国交省)
2.地方創生
○地方拠点強化税制の創設(経産省)
・東京圏から地方への本社機能の移転や、地方における本社機能の拡充を支援するため税制措置を創設
○ふるさと納税の拡充(総務省)
・住民税の特例控除額の上限を拡充、申告手続きを簡素化
○外国人旅行者向け消費税免税制度の拡充(経産省)
・「免税手続カウンター」で消費税の免税手続きをまとめて行えるようにする
○結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の創設(内閣府)
○空き家に対する固定資産税の住宅用地特例(減額制度)を一部制限(国交省)
○土地に対する固定資産税の負担調整措置の延長(3年間)(国交省)
3.消費税率引き上げ時期の変更に伴う対応
○消費税率10%への引き上げの延長(財務省):平成27年10月1日⇒平成29年4月1日
○住宅ローン減税などの適用期限の延長(国交省):平成29年12月31日⇒平成31年6月30日
○商業・サービス業活性化税制の延長(2年間)(経産省)
4.その他
○車体課税の見直し(経産省)
・エコカー減税(自動車重量税・自動車取得税)について、減免対象を拡充(2年間)
・軽自動車税についても、燃費性能に応じた軽課を導入
・二輪車などの税率引き上げの適用開始を1年延長(平成28年度分から)
○事業承継税制(経産省)
・初代が健在で、贈与税の納税猶予を受けている2代目の経営者から3代目に株を贈与する際、事業承継税制を活用できるよう、制度を拡充
○軽油引取税の課税免除制度を延長(3年間)(経産省)
○風力発電設備を取得した際のグリーン投資減税を延長(1年間)(経産省)