真珠のような輝きと宝飾品のような美しいデザインが特徴の「Minova」(ミノバ)は、複数の中小企業の技術力とデザイン力を結集して開発した高級セラミックスナイフだ。昨年2月に出展した国際見本市で40カ国・120社のディストリビューター(卸問屋)から商談や注文を受けるなど、高く評価された。
地元の伝統技術が融合
ミノバの企画・デザイン・販売を手掛けたのは、創業5年目のベンチャー企業「カロッツェリア・カワイ」。代表取締役社長の川合辰弥さんが専門家やアドバイザー、伝統の技術を持つ中小企業とプロジェクトチームを結成し、ヨーロッパの市場をターゲットに、日本らしさがありながらヨーロッパの文化に受け入れられるデザインを研究した。
「イタリアでは、『カロッツェリア』というデザイナーの集団と中小零細企業が連携して商品を生み出し、ヨーロッパの展示会から世界へ発信することで、世界的なブランドとなっています。当社もカロッツェリア型のものづくりで、世界からの販路開拓を目指しました」と川合さん。「食器・ファインセラミックス・刃物、3つの産地が近く、それぞれの良さを生かして交じり合えば、新しいものが生まれるのではないかと考えたのです」。
多治見を中心とする岐阜県の東濃地域は、日本を代表する陶磁器メーカーが集積。日本だけでなく、海外のメーカーの食器も製造している。
「絵柄や金を加飾する技術は、日本はイギリス・ドイツと並んで世界でも3本の指に入ります。その高い技術を生かし、精緻で質感の良いものを追求しました」
また、ファインセラミックスが盛んな瀬戸(愛知県)には、薄くて美しい刃素材をつくるノウハウがある。「ベースの白が美しくなければ加飾が引き立たない」(川合さん)と、丹念に磨き上げることで宝飾品のようなグレードの素材にした。
刃付けは、刃物の産地として知られる関(岐阜県)の熟練技術者が一本一本丁寧に仕上げた。切れ味が優れているだけでなく、金属の包丁と異なり、においが移らない、切った食べ物が変色しないといった特徴もあるという。 「毎日キッチンで使うというよりは、食後にフルーツを切るときのようなシーンを想定しています。ホームパーティーなど人の集まる場で使ってもらえば、会話が弾んで盛り上がると思います」
見本市出展へ熱意をアピール
ミノバが完成すると、川合さんはドイツ・フランクフルトで開催される世界最大級の消費財の見本市「Ambiente」(アンビエンテ)の出展を目指す。だが、エントリーしても最初はキャンセル待ちをしなければならなかった。そんなとき、主催者の代表が東京に来る機会があると聞く。
「『見本市に出させてください!』と直談判に行きました。それくらいしないとダメだと思ったのです。カタログも渡しましたし、この商品は世界でも面白いということを片言の英語で伝えながら、どうしても出たいと訴えました。すると意外にも覚えていてくれて、見本市の案内が来たんです。ダメで元々の精神で動くのはベンチャー企業だからできること。見本市に出ることは夢でなく必要なことでしたし、どういう手段を使っても出たいと思っていたからチャンスをつかめたのだと思います」
世界中のディストリビューター(卸問屋)や輸入代理店が集まるアンビエンテは、商売を世界に広げるきっかけになる頂点のような展示会。「当然、審査は厳しいし、お金もかかります。貿易のノウハウがある専門家も必要ですが、そういった全てのピースが組み合わさったから出展できたのだと思います。ベンチャー企業が自前の商品を持ってそういった大きな場所に出たというのは、日本で初めてではないでしょうか」。
注目されるように見せ方を工夫
2000社以上が出展するアンビエンテでは、来場者がブースの前で足を止めるように工夫した。
「周りがキッチン関連の商品を扱うエリアだったので、逆に全然違う商品というイメージを持ってもらえるように、ライトは商品だけに当て、銀器や宝飾品のような演出にしました。また、海外では日本の刃物は世界一と評価されているので〝JAPAN〟を前面に出しました。専務(妻の美幸さん)には着物を着てブースに立ってもらいましたが、日本の品格を感じてもらえればと考えたのです」
こうした工夫もあり、ブースを訪れたバイヤーは、ミノバを見て「Very nice」「Very beautiful!」「Wonderful!!」と連呼。特に女性バイヤーは、宝飾品を見るように目を輝かせていたという。
「現地で注文を受けるまで3年はかかると言われる中で、1年目から商談の話をもらいました。オリンピックに初めて出て、いきなり金メダルを何個も獲得したようなものです(笑)」
日本では、1792年創業の老舗刃物問屋・木屋とパートナーシップを結び、全国の百貨店でミノバを販売している。アンビエンテでも同社と一緒に出展した。
「ブースが思っていたより広かったので、一緒に出展していただける企業を考えたとき、真っ先に頭に浮かんだのがキッチン用品のメーカーでもある木屋さんでした。世界に打って出るきっかけにしていただければとお声掛けしたのですが、創業220年を超える老舗企業と創業4年のベンチャー企業という組み合わせになりました(笑)」
世界で通用するブランドを持つ会社に
「海外で評価されたことで日本のバイヤーからも声を掛けられるようになりましたし、軌道に乗ってきたという実感はあります」と川合さん。今後は、カロッツェリア型のものづくりを通じて得たノウハウを多くの企業に提供し、地場産業の力になりたいという。
アンビエンテの出展後は、多治見商工会議所が主催した報告会で展示会の経験や成果を地元の企業に伝えた。昨年はミノバ以外にも2社の商品をヨーロッパから世界へ打ち出し、高い評価を受けたそうだ。川合さんは、「将来は世界的なブランドと肩を並べるような会社になりたい」と意気込みを語る。 「ミノバは今年も新作を発表します。反応が良くてもいったん忘れ、前年を超える良い商品を毎年つくり、発信していく。その積み重ねで、僕らはメジャープレーヤーと肩を並べることができるのだと思います」
会社データ
社名:カロッツェリア・カワイ株式会社
住所:岐阜県多治見市新町1-23 多治見市産業文化センター2F
代表者:川合辰弥 代表取締役社長
設立:2009年
資本金:830万円
従業員:2人
※月刊石垣2014年1月号に掲載された記事です。
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