つい1、2年前に日本を席巻していた中国人旅行客の「爆買い」もスローダウンしたが、中国ではブームではなく、生活の変化に根差して伸び続ける商品も少なくない。その典型は日本の食卓に欠かせないドレッシングとマヨネーズだ。日本のトップブランド・キユーピー(中国では「丘比」)は2005年から2015年に売上高が7倍になり、今も年率2桁の伸びを続けている。
中国人の食の洋風化が劇的に進んだからだ。野菜は炒めるか、ゆでて食べるのが習慣だった中国でも生野菜のサラダは当たり前になり、ドレッシングは欠かせないものになった。サンドイッチなどマヨネーズを使う機会も増えた。
とはいえ、需要が伸びれば参入企業も増える。キユーピーが成功したのは地道な市場対応の賜(たまもの)だ。中国人の好きな胡麻(ごま)をドレッシングの主軸に育て、中国人好みの甘いマヨネーズをフルーツサラダとして定着させた。スーパーマーケットなどで料理教室や試食会を小まめに開催し、工場見学も積極的に受け入れ、食の安全、品質にいかに気を配っているかを具体的に示した。中国人のドレッシング・マヨネーズの一人当たり年間消費量はまだ75gと日本人の45分の1。さまざまな分野で消費が成熟する中国であっても、そこには広大な未開拓市場が広がっている。
アジア市場には「日本で起きたことはいずれ中国で起き、タイやインドネシア、ベトナムなどでも起きる」という単純な「連鎖の法則」がある。人の暮らしは土地や習慣を越えた共通性があり、生活が向上すればするほど共通部分は増える。だが残念なことに、ビジネスに応用できていない企業も多い。先入観にとらわれるからだ。1990年代半ば、サントリーがペットボトルのウーロン茶を中国市場で売り出したとき、「中国人は絶対に冷たいお茶を飲まない」と否定的に見たのは日本の同業他社だった。その結果は言うまでもない。
「連鎖の法則」は食品だけではない。衣料品、日用雑貨から家電、自動車、住宅まで同じだろう。何かが伸びればその部材、加工のニーズも成長する。ポイントは伸び始める前に市場に入ってしっかり準備をすることだろう。キユーピーの中国進出は1993年。卵や食用油、砂糖など、日本とは品質がまったく異なる現地で原料調達ルートを確立したことがその後の成長につながったという。市場の先は読めても準備がなければ成功できない。
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