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アジアの風〜ビジネスの先を読む〜 トランプとアジアの自動車産業立地

タイ・トヨタ自動車の工場

トランプ・米大統領の発言は世界にさまざまな波紋を広げているが、生産拠点の米国への回帰要求は就任前からトヨタ自動車はじめ、多くの日本企業を揺さぶっている。大企業が標的だが、大企業が立地戦略を軌道修正すれば中小企業にも波及する。注視すべきテーマだ。

当初から問題にされたメキシコには日本、米国、ドイツ、韓国の自動車メーカー12社が延べ18の生産拠点(合弁含む)を展開している。2016年の生産台数は346万台で、そのうち276万台が輸出されており、中でも213万台が米国向けだ。メキシコでつくった車の5台のうち4台は輸出用で、その中の3台は米国向けというわけだ。

アジアにもこれとそっくりな国がある。タイだ。2015年のデータだが、タイは191万台の自動車を生産し、そのうち120万台を輸出した。つまり、つくった車5台のうち3台以上が輸出に回っている。メキシコと同じ構造だ。こうした輸出型自動車産業を支えているのは、メキシコでは北米自由貿易協定(NAFTA)、タイではASEAN経済共同体(AEC)である。低関税率で輸出できる地域経済統合と周辺市場があったからこそ、両国に強固な自動車の産業ピラミッドができあがった。

その構造を否定する大統領が米国に現れたのは、メキシコにとって青天の霹靂(へきれき)だろう。人件費の高騰と全米自動車労組(UAW)との闘いに苦しみ、メキシコに活路を求めたビッグスリー(当時)を救うために米政府が推進したのがNAFTAだったからだ。タイでも、AECの前のAFTA、さらに前身のASEAN産業協力スキーム(AICO)は、東南アジア域内の自動車産業の部品・製品貿易の利便性を高める目的だった。

トランプ大統領の貿易政策により、どのような流れになるのか。低関税を活用した拠点集約型の自動車産業立地の在り方の見直しまで進むのかは、アジアの自動車産業に大きな影響がある。ASEANの自動車販売数は昨年、ベトナムが前年比24%増の30万4400台、フィリピンが25%増の36万台と、急成長する市場が出てきた。

トランプ大統領に刺激され、「国内でつくれ」という指導者が東南アジアに現れれば、タイ、インドネシアの自動車生産2極体制も変化する可能性がある。「アジアのトランプ」といわれるフィリピン大統領の動きが、まず気になるところだ。

後藤 康浩(ごとう・やすひろ) 亜細亜大学 都市創造学部教授 早稲田大学政経学部卒、豪ボンド大学MBA取得。1984年日本経済新聞社入社、国際部、産業部のほかバーレーン、ロンドン、北京などに駐在。編集委員、論説委員、アジア部長などを歴任した。2016年4月から現職。アジアの産業、マクロ経済やモノづくり、エネルギー問題などが専門

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