広島県尾道市で、スルメフライを中心に海産珍味やスナック類の製造販売を行っているまるか食品。同社の女性スタッフが開発を担当し、平成25年に発売した「イカ天瀬戸内れもん味」が、現在までの累計販売数800万袋と、破竹の勢いで売上を伸ばしている。長年〝酒の友〟として男性に好まれてきたイカ天を、女性がつくるとどうなるのか。
期間限定商品として開発したレモン味
全国にイカ天専業メーカーが11社あるうち、9社が広島県にあり、5社が尾道市にあるという。古くから瀬戸内交通の要所として発展した同市は、北前船の時代に海産物が集積する港町として栄え、北海道の良質なスルメが集まってきた。それを油で揚げたスルメフライが盛んにつくられ、安価な惣菜として地域に広がり、やがてイカ天のメッカとなったという。
この尾道で、昭和36年に創業したのがまるか食品だ。イカ天業界では後発メーカーだが、「郷の味」というソフトタイプのイカ天を筆頭にさまざまな珍味を生み出し、地道に実績を上げてきた。そんな同社を一躍有名にしたのが、平成25年12月に発売した「イカ天瀬戸内れもん味」である。イカ天にレモン風味を利かせたもので、サクッとした軽い食感とさっぱりした口当たりが持ち味だ。一度食べると病みつきになる人が続出し、年を追うごとに出荷数が上昇。現在、累計販売数800万袋を突破する人気商品となっている。
「イカ天が最も売れるのは、お花見、お盆、年末年始です。ピーク時以外のテコ入れ対策として、当社では期間限定商品を約10年間で50種類以上つくってきました。カレー、柚子胡椒(ゆずこしょう)、キムチ、麻婆(マーボー)など、スパイスを利かせた味付けが多かったんですが、だんだんマンネリになってきて新たな味を探していたとき、世間ではお酢が大ブームになっていました。酸っぱいものが受けているなら、瀬戸内レモンを使ったらと思い付いたんです」と開発者である同社研究室課長の坂本摩理さんは、同商品開発のきっかけを説明する。
「若い女性が買う観光土産」をコンセプトにリニューアル
こうしてレモン風味のイカ天をつくることになったが、開発当初はレモンにこだわるあまり香料が強くなり過ぎ、レモンガムのようなつくりものっぽい味になってしまったという。
「地元の特産品を活用するというコンセプトはよかったものの、なかなか味が決まりませんでした。10回ほど試作を繰り返したのち、『短期で売るものだし、酸っぱ過ぎるくらいでもいいのでは』と思い、酸味をかなり強くしたんです。自信作とまでは言えませんでしたが、それで商品化することに決まり、25年の夏に期間限定で販売を開始しました」
すると予想外の売れ行きを示す。土産物店から「新しい広島土産として定番化してほしい」というリクエストが多く寄せられ、同社は観光土産品としてリニューアルを決めた。従来のイカ天は、主に酒のつまみとして味付けもボリューム感も男性を念頭につくられている。しかし、土産物店や女性社員の意見を聞いたところ、「油っこい」「匂いが嫌い」など、本来の持ち味が弱点になっていることが分かったのだ。そこで坂本さんを筆頭とする女性開発スタッフはターゲットを女性に絞り、「尾道に観光に来た女性が、お土産として買って帰りたくなる商品」というストーリーを設定して、「酸っぱいけれど、おいしくて止まらない味」を追求した。また女性がひと口で食べ切れるように、従来品の5分の1にサイズダウンした。 「商品パッケージも全面的に変えることにしました。女性は人から『何これ』と思われるような、センスのないお土産は買いたくないものです。そこで女性が思わず『かわいい!』と手に取りたくなるようなものをデザイナーに考えてもらいました」
さらに、開け口には女性の力でも真っすぐ切れる技術を採用したり、一度に食べ切れなくても保存できるように密閉チャックも取り付けた。
こうして〝女性による女性のためのイカ天〟が完成したが、社内会議での評価は真っ二つに割れた。イカ天は主に男性が食べるものという固定概念や、酸味が苦手な人が少なくないことから、「酸っぱいおつまみなど売れない」「珍味のボリュームではない」「恥ずかしくて男はレジに持っていけない」など、男性社員から否定的な意見が多く出され、営業も「売れないと思う」と冷ややかだった。しかし、女性開発スタッフも負けてはいなかった。粘り強く説得を続け、最終的に社長から「やってみなさい」とOKが出る。ちょうど同時期にスタートした「瀬戸内ブランド」商品に認定されたことも追い風となり、ようやく発売にこぎつけた。
社内の否定的意見を覆し大ヒットに導く
「当初、大手の問屋さんは消極的でしたが、『おもしろいね』と積極的に扱ってくれたのがセレクトショップや土産物店です。ファンになってくれた店の人が、自らPOPで「オススメ!」と紹介してくれたり、購入者がSNSで「止まらない!病みつき!」と投稿してくれたりするうち、みるみるファンが増えていきました」
その反響を受けて取り扱う店舗が増え、販売数も伸びていった。発売1年後には100万袋、2年後には400万袋、現在は800万袋と、その勢いはまだ衰えそうにない。
「正直、商品がここまでヒットするとは予想もしていませんでしたが、売れ行きを見て分かったことがあります。おつまみを好んで食べるのは男性ですが、それを買っておいてくれるのは奥さんであることも多い。最初は『酸っぱいな』と思ったとしても、奥さんが気に入って買ってくるのを一緒に食べているうちに、その味にだんだんとはまっていくという流れもあるんだなと。やはり女性の心をつかむのは大事ですね」
会社データ
社名:まるか食品株式会社
所在地:広島県尾道市美ノ郷町本郷455-10
電話:0848-48-5585
代表者:川原一展 代表取締役社長
設立:昭和44年
従業員:120人
※月刊石垣2017年1月号に掲載された記事です。
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