事例4 アウトドア用品のレンタルで「買う」にはない魅力を開拓
そらのした(山梨県富士吉田市)
高額なテントを買うときに「レンタルできたら……」と思ったことから、副業でECサイト(ネットショップ)でのアウトドア用品のレンタルを始めた、そらのした代表取締役の室野孝義さん。2年後の平成24年には本業として展開し、毎年2〜3倍ペースで売り上げを伸ばし続け、今では年間約9000万円超を達成している。さらに新規事業の〝掘り起こし〟も好調。起業から8年の大躍進に迫る。
世界一周旅行の資金でECサイトを開設
自分の好きなことを仕事にしようとはよく言われるが、まさに室野さんの場合は、好きなことから仕事をつくったタイプだ。山登りやキャンプなどのアウトドア好きな室野さん。28歳のときに登山用テントを買おうとアウトドア用品店を訪れると、オートキャンプ用テントが1〜2万円なのに対し、登山用テントは5万円以上もすることに疑問を抱く。
「正直、痛い出費です。アウトドア用品はデザインや重さ、価格だけではなく、機能性も重要で、特に登山テントは厳しい環境下で体を預ける大事なアイテムです。それなのに試すこともできずに大金を払わざるを得ない。レンタルショップがないか調べましたが、見つけることはできませんでした」
そこで多くの人は諦め、高価でも買うことを受け入れてしまうが、室野さんは違った。ないなら自分でレンタルショップを始めようと考えたのだ。だが、当時はダイキン工業で、エアコンのコンプレッサーの開発エンジニアとして働いていた。会社を辞める気は全くなかったという。
「大上段に構えて起業するのは大変です。ECサイトを立ち上げて副業でできないかと考えました。パソコンやネットに精通しているわけではないので、ウェブ制作会社にサイトの構築を依頼しました」
運用資金は約300万円で、ウェブ制作費に約100万円、レンタル用品購入に約200万円、30歳の節目に世界一周旅行ができたらとためていた資金をつぎ込んだ。
「ウェブ制作会社へ支払う日が近付くにつれ、うまくいくか分からないことに大金を投じる不安が増していきました。でも、100%成功する自信なんて誰も持っていません。仮に絶対成功すると言われても決めるのは自分です。やってみないと分からない、それならやってみようと思いました」
そして室野さんは踏み出した。
「ない」から始めた事業に翌年、同業者が続出
サイトを開設するにあたり、室野さんが心掛けたのが女性を意識したウェブデザインだ。当時は山登りなどが好きな女性を「山ガール」と呼び始めたころで、男性より金銭感覚がシビアな女性の方がレンタルの需要も高いと読んだ。レンタル料も販売価格の5分の1〜10分の1とし、アウトドアビギナーでも利用しやすいように、登山やキャンプ、夏フェス(夏場に催される野外の音楽フェスティバル)のセット商品を用意した。気軽に快適に楽しめると好評を博し、女性に限らず男性の利用者も順調に増えていく。
だが、サイトを開設して1年後、室野さんを震撼(しんかん)させることが起きる。立ち上げたころにはいなかった同業者が急増したのだ。二足のわらじでは太刀打ちできないとの危機感から室野さんは、これを機に起業を決意する。ECサイトを開設してから2年後の平成24年3月、株式会社を設立し、25年に富士山が世界文化遺産に登録されると、大阪から山梨県富士吉田市に拠点を移して「はじめての富士山登山セット」など、ターゲットを絞った商品を展開していく。これが大ヒットしたものの、同業者との差別化や価格競争に悩み、世界遺産登録の翌年は登山客が激減し、売り上げも落ち込む。
「このとき、自社の強みを見つめ直しました。新作や品数、安さではなく、評価されてきた品質をさらに極めようとクリーニングとメンテナンスの強化を図ったんです」
そこで、自らクリーニング師の資格を取得し、本格的なクリーニング設備も導入して〝キレイ〟に磨きをかける。
借りない人も利用できる新サービスを開始
利用者の期待を超えた清潔感や、細部まで行き届いたメンテナンスで、他社の追随を許さないクオリティーの実現。この本質に立ち返った取り組みが功を奏し、年間売り上げ9000万円を超え、夏場のシーズン中は従業員5人にアルバイトやパートも含めて60人体制で対応するまでに成長する。
だが、この状況に甘んじず、27年10月に「ドロップルーフ」という撥水加工に特化したメンテナンスサービスを新たに打ち出す。
「アウトドア用品、例えばレインウエアは使用回数にもよりますが、汚れや摩耗などによって平均1年ぐらいで撥水(はっすい)加工の性能は落ちてしまいます。それをなんとか復活できないかと独自に開発したのが、撥水性が長時間持続する弾水コーティング®です」
このアウトドア用品を持っている人向けのサービスで新たな需要を引き出すことに成功する。アウトドアギア・レンタルのパイオニアとしてだけでなく、アウトドア用品のメンテナンスのプロとしての存在感も増す一方だ。
「靴は新品の方が靴擦れを起こしやすいですし、高価なレインウエアも撥水加工が落ちていては水が染み込んで不快だったり、体を冷やしたりしてしまいます。新品を超えるレンタル用品を提供し続ける。それが目標です」
その言葉を裏付けるように、今では富士山を中心に協力店舗を含め9店舗を構え、うち2店舗は五合目にある出張店舗(シーズン中のみ)。こちらも利用者は増加傾向にある。利用者からはお礼のメッセージも後を絶たないという。
アウトドア人口の裾野を広げる陰の立役者として、そらのしたの功績、そして伸び代は大きい。
会社データ
社名:株式会社そらのした
所在地:山梨県富士吉田市上吉田2447-21
電話:0555-73-8850
HP:https://www.soranoshita.net/
代表者:代表取締役 室野孝義
従業員:5人
※月刊石垣2017年2月号に掲載された記事です。
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