事例2 フロント業務にITを導入し人手不足と人為的なミスを解消
グランドホテル みよしや(岡山県新見市)
岡山県新見市のみよしやが経営する「グランドホテルみよしや」は、JR新見駅から徒歩1分の好立地。宿泊客はビジネス客が6、7割を占めるが、いわゆるビジネスホテルではなく、グレードの高い観光ホテルのイメージだ。IT導入のきっかけは深刻な人手不足に陥ったことだという。
電話とFAXで受けた予約を紙の台帳に手書きで転記
2008年のリーマン・ショック後の不況に見舞われた企業は多数あるが、ビジネス客が多いみよしやも多大な影響を受けた。専務の中川大祐さんによると、「その後、景気が持ち直したのはありがたかったのですが、今度は人手不足が顕著になり、4、5年前から従業員の募集をしても応募がほとんどない状態が続いています」。
従業員が複数の仕事をこなす多能工化によって、なんとかしのいでいたが、ITの導入による省力化は待ったなしの状態だった。
同社の業務の中で、最もIT化の効果が得られそうな部分はフロント業務、その中でも予約システムだった。
「それまでは予約は電話とFAXで受け付けていました。それを紙の台帳に書き込んで管理するのです。その方法でも35部屋のほとんどが埋まっていたのです」
しかしネット予約の時代を迎えて、楽天トラベル、じゃらんnet、るるぶトラベルなどのOTA(オンライン・トラベル・エージェント)と自社サイトで部屋を売り出すようになった。だが、紙台帳管理のため、OTAの予約情報をFAXで送ってもらって手書きする、デジタルとアナログが混在した状況が続いていた。
電話予約も相変わらず多く、聞き間違いが起こったり、電話を受けている間は他の作業ができなかったりという弊害も生まれていた。また、インバウンドの電話応対は誰でもできるわけではないという問題もあった。
「業務改善助成金」を活用して賃上げも実施
IT化を検討する中川さんの背中を押したのは当時、岡山県庁で中小企業支援を行っていた鈴鹿和彦さん(現・岡山県よろず支援拠点チーフコーディネーター)で、「業務改善助成金」の活用をアドバイスされた。これは助成金によって中小企業・小規模事業者の生産性向上を支援し、事業場内で最も低い賃金の引き上げを図るための制度だ。つまり賃上げが条件だが、「人が集まらず、賃金を引き上げることを検討していたので、タイミングもよかった」。
システム選定は中川さん自身が行った。商工会議所にも相談し、従業員のITスキルを問わず使いやすそうなインターフェースを持っていたナバックのシステム「@CoreCom(アットコアコム)」に決め、助成金を活用して、インターネット予約受付から集計、領収書発行までのフロント業務を行うシステムとパソコンを180万円で導入した。助成金は半額の90万円だった。
13年9月にシステムを導入すると、効果はすぐに表れた。予約ミスや計算ミスが減ったことはもちろん、フロント業務を担当していた人員を1・5人から1人に減らすことができた。電話対応の時間は明らかに減り、ネット特有の深夜の予約も増えた。
改善されたのは予約管理だけではない。「伝票管理、日次・月次・年次集計、売上管理、客室稼働率、客室単価など非常に管理がしやすくなりました」
マネジメントにも有効だ。昨年の同月・同曜日のデータなどから混雑状況を予想したり、適正な料金設定に役立てたりすることができるようになった。
「@CoreCom」はビジネスホテルのような宿泊特化型ホテル向けなので、標準仕様では、予約情報登録(タイプ押さえ、部屋押さえ)、日報・月報・統計管理帳票・客室状況、管理チェックイン、領収書発行、チェックリスト、清掃指示などの機能が利用できる。
さらにパスポートリーダーと連携させれば外国人旅行客がチェックインした時のパスポートチェックが簡便になるし、ペンタブレットを導入すれば宿帳がペーパーレスになり、データ保存も容易になる。新見市も外国人旅行客が増えていることから、同社でもこうした拡張機能を利用する方向へ向かいそうだ。
従業員同士のコミュニケーションも必要
中川さんはIT化の効果を実感している一方で、フロント業務以外のIT化には、まだ踏み切れていない。
「IT化しにくい業務も多いので、どこまですべきか答えが出ていません。例えば厨房(ちゅうぼう)に対し料理の変更などをモニターを通じて伝えるシステムがありますが、当ホテルの規模ではそこまでやらなくてもいいかもしれないし、直接伝えることで従業員同士のコミュニケーションを大切にしたいという気持ちもあります。その分の予算は、お客さまが快適に過ごせるところへ振り分けたい」
現在、ナバックのシステムは、マイクロソフトのOS(基本ソフト)ウィンドウズ7で動いているが、20年1月にマイクロソフトのサポートが終了するため、更新を計画している。新システムは現在のオンプレミス(自社運用)ではなくクラウドで、料金はサブスクリプション(ソフトを借りて、利用した期間に応じて料金を支払う方式)タイプになりそうだ。
クラウドタイプは、実は導入を検討したことが13年にもあった。ただ当時はレスポンスに不安が残っていた。同業者の利用体験によれば「6秒ほど待たされる感じがしたそうです」。フロントで接客しているときに、6秒の空白時間をつくるわけにはいかないため、オンプレミスを選んだ。
しかし、現在はレスポンスが改善されたため、常に最新のシステムが利用できるクラウド型の方が良さそう、という判断だ。
世の中ではキャッシュレス化が進んでいるが、ホテルは早くからクレジットカード決済が浸透している。次に導入するのは電子マネー決済。JR新見駅にJR西日本の交通系電子マネーのICOCA(イコカ)が導入されたためだ。
複数の選択肢があるのなら長所短所を比較して、自社に合ったものを無理のない範囲で選ぶ―それが中川さんのアドバイスだ。
会社データ
社名:株式会社みよしや
所在地:岡山県新見市高尾2456番地
電話:0867-72-1131
HP:http://www.niimi-miyoshiya.co.jp/
代表者:中川和洋 代表取締役
従業員:18人
※月刊石垣2019年4月号に掲載された記事です。
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