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テーマ別企業事例 観光客誘致へ 新たな東北を売り出せ!

2011年3月11日に起きた東日本大震災から早くも8年が過ぎた。しかし、被災地・東北各地の完全復興への道のりはまだ遠い。そこで、インバウンド、スポーツイベント、官民観光連携など完全復興へ向けて新たな観光客の誘致に乗り出した東北各地の取り組みを追った。

事例1 ラグビーワールドカップの開催でインバウンドを呼び込む

釜石商工会議所(岩手県釜石市)

ラグビーは“鉄”と並ぶ釜石のシンボルだ

「近代製鉄発祥の鉄のまち」、そして「ラグビーのまち」としても知られる岩手県釜石市。今年同市で、世界3大スポーツイベントの一つ、ラグビーワールドカップ2019が行われる。同市では東日本大震災の直後から会場の誘致に乗り出し、行政や市民有志とともに活動を展開。復興に弾みをつけると同時に観光客誘致にも期待を寄せている。

まちの復興には将来に夢を持つことが必要

2015年のラグビーワールドカップ(以下W杯)イングランド大会で、日本が格上の南アフリカを倒し、大いに世界を沸かせたことはまだ記憶に新しい。長らく低迷していたラグビー人気復活へ、明るい兆しが見えた瞬間だった。そして今年、アジアで初開催となるラグビーW杯日本大会が、9~11月に行われる。全国12都市で開催されるその一つに、東日本大震災の被災地から唯一選ばれたのが釜石市だ。

同市は、鉄の歴史とともに歩んできた近代製鉄発祥の地である。同地で創業した日本最古の製鉄所の実業団チーム・新日鐵釜石ラグビー部が、1978年から84年にかけて日本選手権7連覇という偉業を達成したことから、「ラグビーのまち」としても知られる。一方、ピーク時には9万人を超えた人口も、産業構造の転換により減少の一途をたどる。さらに東日本大震災の津波被害が人口減少に拍車をかけ、産業も打撃を受けた。一日も早い地域の復興につなげる機会として大きな期待を寄せたのが、2019年に日本での開催が決定していたラグビーW杯だ。

「釜石の『復興まちづくり基本計画』にラグビーW杯2019の誘致を盛り込んだのは、震災が起こった年の12月です。津波被害の爪痕がまだそこかしこに残っていたし、もちろん賛否はありました。しかし、こんなときだからこそ将来に夢を持った方がいい。それには何か“事”を起こす必要があると思いました」と、釜石商工会議所副会頭で釜石観光物産協会会長も務める澤田政男さんは当時を振り返る。

官民が一丸となって誘致活動を展開

東日本大震災により、釜石では大小20の地区が被災した。特に、美しい海の景観が自慢の鵜住居(うのすまい)地区は津波にのまれ、大きなダメージを受けた。震災から8年を迎えた今、復興事業のハード面の多くは終了を迎えつつある。土地区画整備事業や防災集団移転促進事業などにより、土地のかさ上げ、高台への移転などがほぼ完了。最後の復興公営住宅も完成し、入居を開始している。市民ホールや魚河岸にぎわい創出施設もでき、鵜住居地区には震災の伝承施設や観光施設も完成する予定だ。

その過程で商工会議所は、地元商工業者の仮設営業から本設営業への移行をバックアップしてきた。小規模事業者持続化補助金の活用を促して、商品改良やコンセプトの見直し、ターゲットの設定など個店の魅力の強化や他店との差別化推進にも力を入れた。また、「東北復興水産加工品展示商談会」「伊達(だて)な商談会」「いわて銀河プラザテスト販売」「日本百貨店地域うまいもんマルシェテスト販売」などへの参加を促し、新たな販路開拓をサポートしてきた。

「経営の回復を支援するのは当たり前ですが、被災した人の心に元気を取り戻す手伝いをするのも仕事です。そこで震災後早い段階から、夏の花火大会や秋の味覚祭りなどをできるだけ通常通りに行ってきました。被災者は非日常の中にいます。だからこそ、イベントを行うことで日常を取り戻すきっかけになります」

ラグビーW杯の開催は、日常を取り戻し、将来に夢を持つ最たるものであり、地元の産業や観光復興の起爆剤となる。そこで官民が一丸となって誘致活動を展開。その結果、2015年3月、開催都市に決定した。

観光客が沿岸地域に足を運ぶ絶好のチャンス

ラグビーW杯の開催で、特に大きな期待を寄せているのが観光客の増加だ。震災で落ち込んだ観光客数は持ち直してきているものの、震災前と比べて大きく割り込んだままだ。またインバウンドにしても、岩手県を訪れる目的はスキーやスノーボード、花巻や平泉観光がメインで、なかなか沿岸地域まで来てもらえないのが現状だ。このW杯は国内外からの注目を集め、足を運んでもらう絶好のチャンスといえる。

そうしたことを踏まえ、商工会議所では観光物産協会などさまざまな機関と連携しながら事業を展開してきた。

市民向けには、春祭り、海遊び、味覚祭りなどのイベントの際にW杯の普及啓発ブースを設け、W杯実行委員会の職員を招いてラグビー体験を行うなど、認知度の向上に努めてきた。さらに、おもてなし講座やインバウンドセミナー、英会話入門講座、通訳機器の利用説明会などの開催もサポートしている。

「ホテルや飲食店、商店やタクシーなどの使い方をまとめた『指さしおもてなしシート』、トイレの使い方や入浴の作法をイラスト入りで示した『マナーシート』、急に具合が悪くなったときに使える『緊急通報依頼カード』などを5言語でつくるなど、周辺環境の整備も進めています。これらには関係者のインバウンドに対する意識を高める狙いもあります」

また、広範囲でPR活動を展開してきた。例えば、姉妹都市である愛知県東海市や商工会議所連携地域の秋田県横手市、同じ「鉄のまち」である福岡県北九州市などを訪れ、地元特産のホタテ焼きやサンマ焼きをふるまいながらチラシを配るなど、地道な行脚を重ねてきた。昨年は、東京ドームで「ラグビー釜石デー」を開催してPRしたほか、青森県八戸市から宮城県山元町まで、三陸の沿岸地域を順にキャラバンで訪問し、W杯開催への応援を仰いだ。

「W杯に対して市民にはまだ温度差がありますが、事業者の中には、プロモーションビデオの作成や、ラグビーボールをモチーフにした新商品をつくるなど、積極的な取り組みをしているところも出ています。これから夏に向けてさらに機運を盛り上げていきたい」

キャッシュレス化でまちの利便性を高めたい

開催まで半年に迫った現在、すでに海外のラグビーファンから熱い視線が向けられている。スポーツ庁の試算によれば、大会を目的としたインバウンドの数は40万人、スタジアムで観戦する人の数は180万人と予想している。昨年完成した釜石鵜住居復興スタジアムの収容人数は約1万6000人で、2試合が行われる。相当な人数が人口約3万5000人のまちに押し寄せることになるだろう。チケットの売れ行きは好調で、すでに市内の宿泊施設は予約が取りにくい状況になっているという。

「そんな追い風の中にいる私たちが今すべきことは、まちの魅力づくりだと思います。それには迎える側の“おもてなし力”が試されます。W杯観戦で訪れた人がまちに良いイメージを抱き、満足してもらうことが、今後リピーターになっていただけるかの鍵になるでしょう」

そこで澤田さんが課題に挙げるのは、キャッシュレス化だ。特にインバウンドの誘客には、大きなポイントとなるのは間違いない。そこで商工会議所では金融機関と連携して「キャッシュレス・電子決済セミナー」を開催し、事業者に導入を促している。しかし、小規模個店にとってキャッシュレスはハードルが高く、なかなか進んでいないのが現状だ。

「さまざまな復興事業により、一見まちは活気を取り戻したようにも見えます。しかし、今後釜石の地域経済環境は震災前より厳しいものになっていくでしょう。国内外から多くの観光客に来てもらうには利便性を高めることも重要です。このW杯をきっかけに各事業者がその必要性を実感できるように働きかけていきたい」と澤田さんはすでにW杯の先を見据えている。

会社データ

名前:釜石商工会議所

所在地:岩手県釜石市只越町1-4-4

電話:0193-22-2434

HP:http://kamaishi-cci.or.jp/

※月刊石垣2019年3月号に掲載された記事です。

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