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事例2 「まち」を一つの「企業」とみなし気仙沼DMOで地域を潤す

気仙沼商工会議所(宮城県気仙沼市)

人口約6万3200人(2017年12月現在)の気仙沼市は、気仙沼漁港を中心に栄えてきた港まちだ。観光を基幹産業に、水産業のテコ入れを図る

宮城県気仙沼市の産業の8割を水産業が占める。だが東日本大震災でその95%が壊滅し、完全復興に至るまでにはまだまだ時間がかかる。そこで、市が基幹産業化を掲げたのが「観光」だ。だが、震災前と同じ施策では観光客の心はつかめない。オンリーワンの観光づくりを推進している。

官民一体の組織で〝稼ぐまち〟にシフト

「日本版DMOの先進事例として、メディアに紹介されたり、全国各地から視察に来たりするようになりました。でも、自分たちがやっているのが地域DMOだということを、実は後から知りました」

そういって快活に笑うのは、気仙沼商工会議所会頭の菅原昭彦さんだ。地元の老舗蔵元、男山(おとこやま)本店の五代目で、気仙沼DMOの中核機関である「気仙沼地域戦略」の代表理事を務める、気仙沼DMOのキーパーソンである。

DMOとは「Destination Management Organization」の略。地域の〝稼ぐ力〟を引き出すべく、観光地域のマーケティングやマネジメントの舵(かじ)取りを行う官民協働の地域経営をいう。欧米ではすでに浸透している仕組みだが、日本では2015年11月に観光庁が「日本版DMO」を定義したばかりで、登録法人は102件(18年12月21日現在)にすぎない。だが、震災を機に動き出した気仙沼市は、震災のあった11年9月には、震災復興計画の重点事業として、市の基幹産業を観光産業として打ち出し、13年3月末には気仙沼市観光戦略会議で、戦略的方針を取りまとめている。観光関係者と外部アドバイザー、計24人の委員からなる観光戦略会議で、七つの戦略が打ち出され、うち二つを2大戦略として掲げた。一つは、気仙沼ならではのオンリーワンコンテンツを活用した誘客戦略。もう一つは、水産業と観光産業の連携、融合による新たな付加価値創造戦略である。

この取り組みを具体的に展開する中核組織として、13年7月に一般社団法人リアス観光創造プラットフォームを設立。のちに後継組織として17年3月に、気仙沼地域戦略が設立されたというわけだ。

観光意識の高まりが新たな組織体系を生む

「震災前、03年には『気仙沼スローフード』都市宣言し、水産業と観光業が融合した、持続可能な地域づくりを進めていました。08年、09年にようやく勢いに乗り始めた矢先の震災でした。しかし、未曽有の危機を共有できたことで、都市宣言をベースに、もっと新しい観光を考えなければという機運が高まったのも事実です」

市外から多くのボランティアがやって来たことも、市民一人一人が観光への意識を高めるきっかけになったという。戦略会議に外部アドバイザーが加わったのも、こうした背景があっての流れだ。

だが、まちが一つにまとまりつつあるなら、既存の団体が連携して新たな観光施策が生み出せるのではないか、そもそも観光協会とDMOの何が違うのか、という疑問も生じる。

「既存の団体では、なかなか抜本的なアイデアは生まれません。観光関係者ではない市民の観光意識を活用できないかと模索して、観光戦略会議を設置した結果、一般社団法人リアス観光創造プラットフォームが生まれました。プラットフォームでは、観光の目玉になる商品開発や体験型ツアーが企画され、今も気仙沼DMOで継続している事業がいくつもあります。こうした市民の取り組みを一過性のもので終わらせず、また既存の各団体の事業のモレとダブりを整理して官民一体となって観光産業を推進していく。そのためにも新たな組織体系が求められました」と菅原さん。約2年を費やし、行政や商工会議所、観光協会、各業界団体など、多様な関係者の役割分担を明確にしていった。

そして、どの団体も顔をそろえる気仙沼観光推進機構を設立し、その事務局的な存在として観光創造プラットフォームを発展的に改組し、気仙沼地域戦略が生まれた。これなら観光協会に負担がかからず、行政区域の制限や、行政の許可、指導にかかる時間を短縮でき、官ではなく民が主体となって行動しやすい。いわば市民による市民のための観光産業となり、決定と実行のスピード化が図れる。これが後に気仙沼DMOと呼ばれるようになっていった。

水産と観光の両軸で独自の魅力を引き出す

「DMOの柱は、観光客を呼び込み、稼いだ外貨を地域内でいかに回していくかということ。地域経済循環率を高めていくことです」と菅原さんは語り、半年かけて審議を重ねたという。そして観光事業の重点テーマを「商品」「人」「仕組み」の三つに分けて明確にしていった。

「商品をつくる。つまり商品開発は、漁師を誇り、独創を生み、自然を敬うことをコンセプトにしました。これを『海と生きる』という言葉で総括しています。港まち気仙沼には、氷屋や造船所、漁具や函屋など水産業を支える多彩な仕事があります。それを体験型観光ツアーとして公開したのが『ちょいのぞき気仙沼』です。2015年にはプラン数は14でしたが、16年には29、17年には44と増えています。私が経営する男山本店も酒蔵体験とメカジキのしゃぶしゃぶを組み合わせたプランを展開しています。全体数が50ぐらいになったら、それ以上増やさず、個々のクオリティーとプロモーションに力を入れていく方針です」と語る。

また、全国の水揚げ量の約70%を誇る生鮮メカジキを素材に使った、ご当地グルメも開発した。

「気仙沼では、メカジキは日常の食卓にのぼる魚です。これを肉がわりにメカしゃぶ、メカカレー、メカすきを市内の飲食店とともに開発しました。グルメ開発は、事業者育成・支援とあわせて気仙沼商工会議所が担当しています。季節限定グルメをPRするなど、今後もいろいろ展開していく予定です」と楽しそうに説明する。

震災を経てなお「海と生きる」と明言し、港まち気仙沼だからこそのユニークなコンテンツで、水産業を盛り上げ、観光業を推進する。気仙沼DMOの精度の高い組織力と意気込みが伝わってくる。

「気仙沼クルーカード」で〝市民〟の定義を変える

人づくりにおいても、「ば!ば!ば!の場」として観光事業者以外の事業者が自ら気仙沼を体験する場を企画。さらに海外の事例に学ぼうとニュージーランドやスイスの成功事例を視察し、人材育成にも力を注ぐ。また仕組みの面でも、「特にスイスのツェルマットは、観光資源の乏しい山岳地域のまちですが、DMOの先進都市として有名です。ここでは、まちづくりの企画運営を住民自治組織が行い、観光局が地域全宿の顧客データベースを一括管理しています。観光局がマーケティングを担い、各事業者の収益に応じて目的税を徴収して資金源とし、住民自治組織も売上増に伴う出資で活動資金を賄っていました。地域でデータを一元化し、マーケティング、販売促進に活用していたのです」。

日本では個人情報保護法があり、目的税の導入も難しいため、ツェルマットの仕組みをそのままは取り入れられない。そこで考え出したのが「気仙沼クルーカード」だ。17年4月に気仙沼地域戦略の事業としてスタートし、地元加盟店や提携ウェブサイトでポイントカードとして使うことができる。市民でなくても誰でも無料で入会でき、貯(た)まったポイントは気仙沼市内でのみ使える。また、ポイントの有効期限(最長2年)が過ぎると、ポイント分は気仙沼市に寄付され、一部がDMOの運転資金となる仕組みだ。これならDMOがカード会員データを一元管理でき、加盟店は顧客の囲い込み効果と、データに基づいた商品開発やイベント企画など新たな集客方法を考え出せるというメリットがある。

「クルーカードのデータ分析で、オフシーズンの冬の季節でも、11、12月に売上増の山があることがわかりました。そこで『ぷりっ、ぷりっ。冬の気仙沼』と銘打って、カキや地酒、温泉や歳末ギフトなど冬の気仙沼の魅力を詰め込んだパンフレットを制作するなどして、プロモーションをかけています。失敗でも成功でもデータを取ることで、次へつながります。勘や勢いだけの発想からの脱却です」

まちを船になぞらえて、気仙沼市民だけではなく、気仙沼につながる人全てをクルー(乗組員)として、地域経済をともに循環させていく市民と捉える発想も斬新だ。

「人口減、人手不足は、どの地域も深刻な課題だと思いますが、気仙沼は輪をかけてひどい状態です。その中で地域経済を循環させるには、地域全体を会社とみなして経営し、いかに誘客していけるかで未来が変わっていきます。気仙沼DMOは仕組みが出来上がったばかり。まずは結果をしっかり出すことからです」。〝稼ぐまち〟としてどう変わっていくのか、気仙沼の今後に期待が膨らむ。

会社データ

名前:気仙沼商工会議所

所在地:宮城県気仙沼市八日町2-1-11

電話:0226-22-4600

HP:http://www.kesennuma.or.jp/

※月刊石垣2019年3月号に掲載された記事です。

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