Close UP2 「星降る島」としてムーブメントを起こす
旅館 椿荘花月(宮城県気仙沼市)
東北最大級の有人離島、気仙沼大島。震災後の新たな観光資源として“星空”に着目し、島の魅力を発信し始めた。
〝当たり前〟の中から観光資源を掘り起こす
気仙沼大島は、気仙沼湾内にある東北最大級の有人離島だ。気仙沼港からフェリーで約25分の距離だが、離島ブームで島が観光客でにぎわったのは40年以上も前の話で、観光客は減少の一途をたどっていた。そして被災。延べ2万人のボランティアが駆けつけ、震災の翌年には海水浴場が再開するという驚異的な回復で話題にもなった。だが、2017年、島内宿泊者数は約2万9400人と震災前の約6割にとどまる。今年4月7日には本土と島を結ぶ気仙沼大島大橋が開通する。交通の便は良くなる半面、宿泊客減少に懸念が生じる。
「奇勝・龍舞崎などの風光明媚(めいび)な景色も、ウニやアワビなどの海の幸も自慢なのに。島の名所の一つ、亀山展望台へのアクセスであったリフトは、震災で失われてしまいました」
島の旅館椿荘花月の宿主、村上盛文さんは目を伏せるが、手をこまねいてはいない。趣味で始めたカメラで宿泊客に記念写真を贈っていた際に、星空を背景にした写真が特に喜ばれることに気付く。 「島で生まれ育った私にとっては、当たり前の夜空。それが当たり前じゃないことを島の外の人たちが教えてくれました」
新規事業にしたいと気仙沼商工会議所に相談したところ、提案されたのが小規模事業者持続化補助金の活用だ。星景写真用のカメラ機材の資金や、星空フォトツアーのパンフレット製作などに充てた。さらに一旅館のサービスに終わらせるのではなく、「星降る島」として大島ブランドになり得る可能性を島民や自治体、観光協会などに広く説いていく。島に泊まる目的の一つが『星空』であれば自ずと滞在時間が延びる。新たなムーブメントを起こせる可能性は大きい。
「まずは星空の美しさを島の人たちにもっと理解してもらうことからですね。当館の星空フォトツアーもスタートしたばかり。事業として軌道に乗せていくことが目標です」と笑う。さらに気仙沼大島観光協会の青年部会長を務める村上さんは、先述のリフト跡地の「日本一長い直線階段」化という構想を、部会の総意として打ち出している。イベントやスポーツ大会の誘致、夏以外のオフシーズンの観光客増加など、星空同様、島の滞在時間を延ばせる要素は十分にある。
被災の爪痕がまだ深く残っていながらも、島の〝魅力〟の掘り起こしが、水面下で始まっている。
会社データ
宿名:旅館 椿荘花月(つばきそうかげつ)
所在地:宮城県気仙沼市大島長崎81-1
電話:0226-28-2366
HP:http://www001.upp.so-net.ne.jp/tubakisou/
※月刊石垣2019年3月号に掲載された記事です。
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