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テーマ別企業事例 人材確保、経営強化、販路開拓…中小企業はもっと強くなる 身の丈ITで生き残れ!

事例3 衣服の種類を識別するAIで“無人店舗”を目指す

エルアンドエー(福岡県田川市)

クリーニング店“らしくない”外観の本店

着物の洗い張りで創業し、現在クリーニング店を8店舗展開しているエルアンドエー。少子高齢化の進む地方の中小都市で生き残るために、人が少なくても仕事が回せる仕組みを構築する中でAIに着目する。現在、AIが衣服の種類を自動的に識別できる、クリーニングAIレジを運用した、無人店舗の実現に取り組んでいる。

人手不足に備えてIT化を推進

クリーニングの市場規模は、1992年の8170億円をピークに減少に転じ、現在では半分以下まで縮小している。その要因は人口減少に加え、家庭用洗濯機の高性能化や衣類のカジュアル化などが大きく影響している。この傾向は今後ますます進み、個人経営のクリーニング店などでは売り上げが減少、従業員の確保も難しくなっていくことが予想される。そうした状況を打開するため、AIを活用したセルフレジの実用化に取り組んでいるのがエルアンドエーだ。

「かつて田川市は産炭地として栄えていましたが、少子高齢化や過疎化が進み、人口も4万8000人を切りました。この先会社が生き残るには、人が少なくても仕事を回せる仕組みが必要だと感じたんです」と同社副社長の田原大輔さんは振り返る。

大学を卒業後、東京でDJをしていた田原さんは、家業を継ぐため2005年に入社した。その後、新たにバッグ・靴のクリーニングやメンテナンスなど新機軸を打ち出すと同時に、力を入れたのが社内のIT化だ。

操作の容易な独自プログラムの開発で業務を効率化

それまで同社では、業務にメールや表計算ソフト(エクセル)など既存のITサービスを活用していたが、使いこなしているとはいえなかった。そこで従業員のITリテラシー(活用する能力)を高めようとしたが、成果は出なかった。

「従業員の大半は中高年ですし、これから使い方をマスターさせるよりも、むしろ触らずに済む方法を考えることにしました」

そこで田原さんは「脱電話、脱メール、脱エクセル」を目指し、電話はスカイプに、メールを廃止してビジネスチャットツール「チャットワーク」に切り替えた。複数人と一度にやりとりができるので、情報がより正確に伝達でき、皆で共有しやすい。しかもインターネット環境が整っていればどちらも無料だ。 さらにエクセルに代わる、簡単なボタン操作で扱えるシステムの開発にも乗り出す。外注する資金もないので、ユーチューブの動画やeラーニングなどで独学の末、「チャットワーク」やグーグルが提供するグループウェアサービス「G Suite」の機能を使って自動的に報告書を作成する「SUZY(スージー)さん」や、シフト表を自動生成する「太志くん」などの独自プログラムを開発した。

機械学習と顧客満足を両立するべく奮闘中

田原さんがAIに着目したのは2015年のことだ。

「AIが犬と猫を見分けることができるようになったというニュースをたまたま見たんです。機械学習といって、1万枚くらいの画像データを学習させると、犬と猫の特徴を自動的に見分けられるようになると。それなら衣服の種類も見分けられるのではないかと仮説を立てました」

同年11月、グーグルが「TensorFlow」という機械学習ソフトを誰でも利用可にしたことを受け、機械学習や画像処理などの勉強を開始した。並行して、機械学習に必要な画像データを集めるため、本店の受付カウンターの上部にカメラを設置。一日に撮影された1万2000枚の画像から、上着なら上着、ズボンならズボンと分かる画像を選んでいった。

「1万2000枚の中で使えるのはせいぜい40~50枚。それを地道に選び出して、機械に学習させるという作業を2年くらい続けましたが、とにかくしんどい。このやり方が正解かも分からないし、前例もないから誰かに聞くこともできません。孤独な闘いでしたが、こんなことをやっているのは世界中でうちだけだろうと思って頑張りました」 使える画像データが2万 5000枚ほど集まった段階で、画像分類モデルのテスト版が完成した。客がカウンターに衣服を広げると、カメラが撮影して種類を識別する。読み取った内容が正しければ、画面の「精算」ボタンを押すと受付完了という流れだ。最初は正しく識別できないケースも多かったが、数をこなすうちに学習し、精度が高まってきた。今では上着、ズボン、ワイシャツ、スカートなどの種類と、それぞれの色や柄も識別できるまでに“賢く”なっている。

これを製品化し、セルフレジとして運用する上で、もう一つ重要になってくるのが「顧客体験」だ。 「AIを活用するのは店の都合であって、お客さまの都合じゃありません。『人が受付するよりAIを使った方が便利だね』という体験ができなければ、次は来店しないでしょう。どうしたらそう感じてもらえるかが目下の課題です」

機械学習と顧客体験の二つが成り立った先に、無人店舗が実現すると田原さんは言う。現段階ではまだ1合目と謙遜するが、遅くとも来年中には、試験的に無人店舗をオープンしたいそうだ。“まちのクリーニング屋さん”による試みは、今後日本の中小企業の多くが直面する問題解決の大きなヒントになるのではないだろうか。

会社データ

社名:株式会社エルアンドエー

所在地:福岡県田川市大字弓削田1773-2

電話:0947-42-6938

HP:https://landainc.jp/

代表者:田原祐子 代表取締役社長

従業員:25人

※月刊石垣2019年4月号に掲載された記事です。

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