有効求人倍率が「1」を大きく超えているのに思ったような職がなかなか見つからない。いわゆる雇用のミスマッチが指摘されるようになって久しい。正社員だけでなく、非正規雇用であっても同じことが言える。ブラックバイトに引っかかるのは怖いし、よく分からない職場に派遣されるのは嫌だという声も聞く。意欲はあっても職に就いていない人たちが働き始め、そこで得た賃金を消費に回すようになれば、少子高齢化に伴う経済縮小という悪い流れに一定の歯止めをかける効果があるはずだ。
▼「一億総活躍社会に貢献できる」と意欲的なのは、エニタイムズ社の角田千佳社長。同社はインターネットを通じて個人や法人の間で「掲示板」的に業務を受発注するためのプラットホームを提供。仕事の内容や報酬を明示した求人を見て、認定サポーターが応募する仕組みだ。角田社長は多様な働き方が広がる一方で「高齢者世帯や共働き、単身赴任者が増える中で、ちょっとした手助けへのニーズが増えている」と指摘。実際、荷物運びや車椅子利用者の散歩手伝いなど需要は幅広い。社長自身が視覚障害者の介助をした経験から「資格がなくてもできる仕事はたくさんある」と話す。
▼同一労働同一賃金の実現や配偶者控除の扱いは、言うまでもなく重要な課題だ。ただ労働力を増やそうとするのならば、子育て中の母親や年金受給年齢に達した世代の中に「短時間でも働きたい」という要望が少なからずある点に注目すべきではないか。無償のボランティアではなく、労働の対価として報酬を得ることを通じて、社会の一員だとより強く実感できるだろう。潜在労働力を引き出す仕組みづくりが、今こそ求められている。
(時事通信社取締役・中村恒夫)
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