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まちの解体新書 流氷のまちの挑戦 基幹産業の付加価値向上へ

紋別の毛ガニは旬が2度ある

オホーツク海沿岸を代表する天然の良港

北海道といえば‶おいしい〟の代名詞のごとく、百貨店などでの北海道展は大勢のお客さんでにぎわい、催事の稼ぎ頭と聞く。紋別商工会議所などが都内で開催した「オホーツク西紋別フェア」も例外ではなかった。フェアは西紋と呼ばれる、紋別市、滝上町、興部町、雄武町、西興部村の5市町村のさまざまな農水産品を大消費地のバイヤーや消費者に紹介し、販路を広げる目的で開いたもの。9月上旬、首都圏で新形態の魚屋を展開する「sakana bacca」中目黒店を訪れると、紋別のキャラクター・アザラシの紋太が懸命に西紋をPRしていた。商品は好評で、売り切れるものも。バイヤーの目に留まり継続取引が決定した商品もあるという。

その数日後、東京・羽田を一日一便結ぶ飛行機で紋別に向かった。羽田空港から2時間。航空機を降りると、空気もおいしいのか思わず深呼吸したくなる。

空港からわずか10分で市内中心部に着く。途中に、通年集荷型の「植物工場」がある。ここは紋別高等養護学校の卒業生などの就労を支援するため、市が建設したものだ。紋別には、マイナス20℃の厳寒体験ができる「オホーツク流氷科学センター」や日本で唯一アザラシのみを保護・飼育する施設「オホーツクとっかりセンター」など、見どころがたくさんある。ゴルフ場へのアクセスも良く、すぐにプレーできる。

流氷のまちとして名高い紋別市。オホーツク海沿岸のほぼ中央に位置する。流氷の影響で、1~2月は気温が低く、流氷が接岸すると寒さが一段と厳しくなる。夏は南西~西風時にフェーン現象により高温となる日もあるが、オホーツク海高気圧で冷涼となる日が多い。避暑地としても知られており、東京藝術大学の学長や音楽部教授を招聘(しょうへい)した音楽合宿なども実施されている。

紋別市を地形的に見ると、一帯の土地は内陸へ徐々に高さを増し、西部は南北に連なる北見山地に、南部は東西に起伏する千島山系に囲まれている。農耕地は天塩岳にその源を発する渚滑(しょこつ)川流域より南東シブノツナイ川流域に及ぶ。海岸線が弁天岬から弓状に伸びていて、オホーツク海屈指の港まちである。

歴史的には、オホーツク海沿岸の数少ない天然の良港として、貞享年間(1684~88年)に松前藩がその直領としていた宗谷から斜里へ至るオホーツク海沿岸の寄港地として利用したのが始まりといわれている。明治以後、沿岸漁業の活性化や道路の開削、国鉄名寄線の開通により、人口が急増。地域の行政および産業経済の要所として発展を続けてきた。

昭和29年7月1日、紋別町・渚滑村・上渚滑村の1町2村が合併。漁業・農業・鉱業を基幹産業とする紋別市が誕生した。48年、東洋一の産金量を誇った鴻之舞金山が閉山した。50年には紋別港が重要港湾に指定され、国際貿易港としての整備が進んだ。近年はロシアサハリン州からの活カニ輸入日本一を誇るなど、商港としても定着している。

交通は、札幌市から乗用車で4時間、旭川市から2時間30分。鉄道は平成元年4月に廃線となった。現在、都市間バスが運行されているが、さらなる利便性のため、高規格幹線道路旭川・紋別自動車道の整備促進を図っている。また、オホーツク紋別空港を擁し、道外からの便も比較的良好といえる。

紋別商工会議所 会頭 片岡 一道 氏

自他ともに認める全国有数の水産都市

「紋別の基幹産業は第一次産業です。比較的好調で地域に根付いています。なかでも漁業。漁獲高は安定していて、全国有数の水産都市と自負しています。地域経済をけん引する産業で、一層の高次加工を図り、安定的な成長を目指していきたい」と語る、紋別商工会議所の片岡一道会頭。

冬の風物詩・流氷が運んでくるプランクトン「アイスアルジー」により栄養価が高く脂ののった魚介類が水揚げされる。例えば毛ガニ。紋別の毛ガニには旬が二度あるのをご存じだろうか。味噌の旬は春で、海明け直後の春先のカニみそは水分が少なく、脂質が多く含まれており、濃厚なうまみを楽しめる。脚肉の旬は夏。夏の若ガニは甘味成分のグリシンが1・5倍に増え、甘みやうまみが強く感じられる。

紋別市は、以前は沖合底引きや北洋漁業などの大資本を要する大型漁業が盛んで、それに伴い先進的な加工・流通がなされてきた。その半面、沿岸漁業は繰り返される好不漁に悩まされていた。マルハニチロやニッスイなど大手資本が早くから進出したことが、今日の活況の基礎を築いたといわれる。戦後間もなく、全国初の水産モデル地区に指定され、国から重点的に支援を受けると昭和30年代半ばまでには全国でもまれに見る近代的な水産都市が形成された。

その後の200海里専管水域の設定による漁業規制の強化は、沖合・遠洋漁業の衰退をもたらす。資源の急激な減少もあって、かつてはおよそ40隻あった大型船が、今では4隻にまで減少。多獲魚の水揚げが激減し、大手加工場が撤退するなど、加工業の業態の変化にもなった。

不安定だった沿岸漁業は、獲るだけから育てる漁業へと転換。協業化も進んでホタテやサケ・マスを中心に漁業生産の安定化が図られ、この増養殖が全水揚げの6割強となり、漁業経営は次第に安定してきた。

そして加工・流通でも、「HACCP」への対応により競争力の向上を図っている。消費者が強く望む食の安心・安全に応えた衛生と鮮度が高度に管理されている。

西紋エリアをPRするキャラクターの紋太と紋別商工会議所の加賀博之事務局長(左から2番目)、主任の小谷千央さん(同3番目)ら

食料の生産基地でもあり緑の循環森林認証も取得

紋別は、農林業も、漁業と並ぶまちの基幹産業として歩み続けてきた。農業では酪農や畜産、 畑作などが営まれてきた。酪農の中心は乳牛・肉牛で、毎日160t以上も生産される牛乳は市内の工場で新鮮な乳製品に加工され、出荷される。また畑作では、古くからの主幹作物であるビートのほか、スイートコーンやじゃがいもの生産に取り組み、オホーツクの食料生産基地となっている。

林業では、紋別市を中心とする地域の林産業界が一体となって「緑の循環(SGEC)森林認証」を取得。適正な森林管理・整備を推進し、オホーツク産木材のブランド化に取り組んでいる。現在の森林認証面積は約32万3000haに達し、日本で最大の森林認証エリアが形成されている。紋別市内の木材製造業者が生産するSGEC森林認証製品の普及・拡大を図るため、販路拡大に取り組んでいる。首都圏の消費者が紋別製品を使って家を建てる場合、旅費の補助を受けて市内での林業体験ができるほか、2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは認証材の活用提案なども考えている。

紋別商工会議所 片岡会頭お気に入りの場所の一つ「紋別公園」

ビジョンを策定し行動する商工会議所

第一次産業を中心に加工業が発達し、持続的な成長を目指している紋別だが、他の地域同様、少子高齢化による人口減少といった課題に直面している。そこで、紋別商工会議所は平成28年2月、「紋別成長戦略ビジョン」を策定した。片岡会頭は、「地域の特性を生かした産業経済の成長・戦略を示した、強い決意です。総花的なものではなく、幅広い地域の声や商工会議所会員の意見を積み上げてつくりました。紋別のまちに希望と誇りを持ち続けられるようにとの思いが込められています」と、ビジョンの意義を説明する。

ビジョンの柱は、①地域資源を生かした安定的な経済需要の創出、②地域の特性を生かす、③成長を支える基盤の整備と活用、の3つだ。このビジョンに沿って実行し続ける商工会議所。行動する商工会議所の取り組みを一部紹介すると、冒頭で記したような広域連携事業「西紋プロジェクト」や特産品開発事業が挙げられる。

特産品開発事業とは、地元の誇れる資源を活用して、個別の事業者としてではなく、地域全体で紋別ブランドをつくり出そうという取り組みだ。商工会議所に設置したもんべつ特産品開発委員会委員長を務める能戸俊憲さんは「自分たちの仕事の後に集まり、それぞれが自分の得意とする食材や技術を持ち寄って、アイデアを出し合い試行錯誤を繰り返してきた。紋別に来て食べてもらうとともに、お土産として買って帰ることのできるものもつくりたかった」と、活動を振り返る。カニの煮汁を活用した「かにしゅうまい」、ホタテの煮汁を使った「ほたて黄金(こがね)ごはん」、万能調味料「紋たれ」や「アヒージョ」など、自慢の品々が誕生している。

市民が楽しみにしている「まんぷく横丁」

次代のリーダーたちがまちの熱い思いを形に

紋別には、「若者が集える場をつくりたい」とファストフード店の誘致を成功させた片岡会頭のほかにも、まちへの熱い思いを持ち続ける面々がいる。商工会議所青年部の初代会長を務めた森悦男さんもその一人だ。

頼りになる兄貴分の森さんは23年、もんべつ観光港まつり会場での「まんぷく横丁」の初開催にこぎつけた。横丁は期間限定だが、屋台村のイメージで、空洞化の進む空き地を活用してにぎわいを創出。「家族連れなどがゆっくり地元の味を堪能できる場が欲しかったから」とさらっと言ってのける。以来、横丁は現在まで続き、多くの人が毎年この開催期間を待ちわびる。

森さんと共に横丁開催にあたって奔走した山﨑彰則さん(青年部三代目会長)も「参加者と主催者である自分たちが一体となって楽しめるものができたのは、このまちにとって意義があること」と感慨深げに語る。森さん、山﨑さんの両人は特産品開発事業でも中心的な役割を果たしてきた。

紋別には、現リーダーの片岡会頭、そして次代を担う青年部のメンバーたちもいる。まちを思い、こうありたいという明確なビジョンを持ち、実行する。これができる役者がそろっているのだから、紋別の未来は明るい。

これから冬本番。定番の流氷観光に出かけようか。世界唯一の特注によるドリルで流氷をガリガリ砕きながら進む豪快さが魅力の「流氷砕氷船ガリンコ号Ⅱ」に乗るのも良し。ガリンコ号Ⅱが発着する氷海展望塔「オホーツクタワー」も外せない。海中観測窓から流氷下の海中の様子を見ることができる、国内最大規模の流氷と海の生き物の自然体験・観測施設だ。

カニやホタテなどが旬のときに訪れるべきか。食べたいもの、体験したいことがまだまだある。紋別は何度も訪れたいまちだ。

特産品開発事業で中心的な役割を果たしてきた青年部のメンバー。右から森悦男さん、山﨑彰則さん、能戸俊憲さん

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