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コラム石垣 2014年5月1日号 中村恒夫

「最悪の経験は最良の薬でした」―。新たに起業したサービス関連会社が順調に業容を拡大していると話した後、この女性経営者は華やかな笑顔を見せた。そこには、ここ数年間彼女が味わってきた苦労の陰は全く見えなかった。

▼この人は20代で創業。30年の間に社長自ら積極的に営業・企画・実務を行い、顧客の信頼を獲得した結果、企業規模も着実に大きくなった。リーマンショック前後には、業績不振企業の同業子会社を競争の末に買収し、上場も視野に入る段階に達している。ところが買収に際し、コンサルタント会社の男性経営者から融資された資金の一部が出資金=株式に転換され、彼女が育ててきた会社は、事実上この男性によって自由に差配される結果になる。

▼買収活動も手伝っていたこの男性を当初信頼していたが、経営に参画した彼がさまざまな判断ミスをした上、買収した会社社員の不祥事も続出。40億円台半ばまであった売上高は1年後には10億円も落ち込んでしまった。彼女自身も会長職に祭り上げられた挙句、最後は会社と縁を切らざるを得なくなった。

▼幸い、長年培ってきた人脈と信頼があった。新会社を設立し、創業1年半で有力顧客の獲得に次々と成功している。彼女のように復活できるのは極めて珍しい。

▼アベノミクスによって株式市場が活況を呈する中でIPO(株式公開を目指す企業が増えている。しかし上場・公開にはさまざまなハードルや仕掛けが待ち受けている。企業規模拡大のための資金手当てや有利と思える資本政策には十分に留意することが必要である。上場後はさまざまな固定費もかさむ。経営者は何のために株式を公開、上場するのか熟慮する必要があろう。

(時事通信社経理局長・中村恒夫)

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