兵庫県を拠点とするから分社した神姫バスツアーズ。同社が2016年から販売を開始した高級バスで行くオンリーワンのバス旅「真結(ゆい)」が、好調な座席販売率を維持している。特別仕様のバスに乗り、ゆとりある行程で、こだわりの宿や味覚、さまざまな体験が堪能できる同商品は、どのように誕生し、客の心をつかんだのか――。
行程もバスも全てがワンランク上をいく
高級バスツアーといえば、人気の観光地や温泉地を巡り、高級旅館やホテルに泊まり、高級料理を提供するのが一般的である。一方、神姫バスツアーズが販売するバス旅「真結」は少し趣向が異なる。重視しているのは“本物”と“ゆとり”だ。ゆったりしたバスに乗り、その時や場所でしか体験できない、本物を楽しむ。
そして目玉は何といっても、このツアーだけに使われる特別仕様のバス「ゆいプリマ」だ。1人掛けと2人掛けシートを6列に配置した18人乗りで、広々としたスペースが確保されている。内装には天然木をふんだんに使い、床は全面フローリング、車両後方には木製カウンターが設けられ、ゆったりとくつろげる空間となっている。
内容もバスも全てがワンランク上をいくだけに、ツアー料金も通常の3倍程度する。しかし、2016年10月に開始した第1回募集では、長期の宿泊コースを中心にキャンセル待ちが出るほどの人気を博した。
「当社も通常のバスツアーを多く企画しています。ところが、参加したお客さまにアンケートを取ると、『よかった』より『疲れた』という感想の方が多かったんです。大手に対抗して100円でも安いツアーを提供しても、満足度が低くては次につなげられないと感じました」と「真結」の発案者である神姫バス社長、長尾真さんは振り返る。
バスツアーは安いという常識を覆すバスをつくる
1927年に創業した神姫バスは、兵庫県を拠点にバス事業を展開している。その一環で、旅行 事業を扱ってきた。そうした中で、長尾さんが「真結」を発案するきっかけになったのは、ヨーロッパを視察した際に見た観光バスだ。
「車内にキッチンがあったり、半円形のソファが置いてあったり、とにかくつくりが自由なんです。それに比べて日本のバスはどれもほとんど同じで、何てつまらないんだろうと思いました」
長尾さんは早速、オンリーワンのバスをつくろうと、工業デザイナーの水戸岡鋭治氏を訪ねた。九州新幹線をはじめ鉄道車両を多く手掛け、数々の受賞歴を持つ同氏に、内装デザインを依頼するためだ。当時、バスの内装をデザイナーが手掛けるのは珍しいことだったが、快諾を得た。同社が保有するバスを試行錯誤しながら改造し、定員26人でシート間隔が広く、後方にサロン風フリースペースを設けた特別仕様バス「プレミアム」が完成した。ゆったりした車内に合わせて、行程や宿、食事場所も吟味し、2008年に高級バスツアー「ゆとり」の販売を開始した。
「安さを追求したツアーから一転、高価格なプランだったので、最初は勇気がいりました。でも、ふたを開けてみると予想を超える人気で、リピーターも獲得しました。ただ、徐々にマンネリ化してきて、打開策を考える必要が出てきたんです。そこで『プレミアム』を超える新たなバスをいちからつくり、旅のコンセプトも見直して、それに合うサービスとそのサービスを提供する人材の育成に乗り出しました」
こうして再び水戸岡氏にデザインを依頼し、誕生したのが「ゆいプリマ」だ。「本物の旅を体と心で感じ、その感動をお客さまが共有(結びつき)できるこだわりのツアー」という新たなコンセプトを掲げ、単に高級を求めるのではなく、質素な中にも本物を追求した行程や体験、宿や食事を厳選した。さらに全てのツアーに専門のアテンダントを配置し、おもてなしを強化した。こうしてオンリーワンのバス旅「真結」が完成し、同社から分社した神姫バスツアーズが販売を開始した。
ターゲットを絞り好調な座席販売率をキープ
同商品は当初から、時間的な余裕があり旅慣れた60~70代のシニアを中心に申し込みが殺到した。開始から2年半たった現在でも、座席の販売率が7~8割をキープするなど、好調な売れ行きを示している。
「手間もコストも掛かっているので、さほど利益が出ているわけではありません。しかし、『真結』の名前が認知されるにつれて、『神姫バス』の名前も多くのお客さまに知ってもらえるようになりました。『真結』は“いまだかつてないバス旅”を提供するという目標と同時に、会社のブランディングにも大きく貢献しています」
この春には大阪発着専用の3台目「ゆいプリマ」号が走り始めた。これまで県内を営業エリアとしてきた神姫バスにとっても、大阪に拠点を広げる新たな挑戦となる。近年、シニア層や訪日客を中心とした高級観光バスツアーに追い風が吹いているだけに、同業他社とともに市場を拡大しつつ、独自性を出していく必要がある。舌も目も肥えたメインターゲット層のシニアの満足度を高めるために、ツアーごとに実施しているアンケートやモニターとの意見交換、接客に当たったアテンダントの声などから見えてきた改善点を、すぐ次の出発便に反映させるなどの努力を続けている。
「本物を提供するツアーを掲げているだけに、満足していただいているか、いつも不安です。アンケートの『普通』にチェックが入っていたら、それは『不満』と同義なのです。特にリピーターの方は、ジャッジが厳しくなるので、細かいニーズにもアンテナを張って企画に反映させたり、アテンダントのおもてなし力をさらに高めたり、より満足度を上げる対策を講じていきたい」と長尾さんはさらなる向上を目指す。
会社データ
社名:神姫バス株式会社
所在地:兵庫県姫路市西駅前町1
電話:079-223-1241
HP:https://www.shinkibus.co.jp/
代表者:長尾真 取締役社長
設立:1927年
従業員:1777人
社名:神姫バスツアーズ株式会社
所在地:兵庫県姫路市西駅前町1
電話:079-224-1881
代表者:今井治生 代表取締役
設立:2012年
従業員:91人
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