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テーマ別誌上セミナー まだ間に合う「マイナンバー制度」基礎の基礎

影島 広泰(かげしま・ひろやす)

牛島総合法律事務所 弁護士

影島広泰(かげしま・ひろやす) 牛島総合法律事務所 弁護士 一橋大学法学部卒業、平成15年弁護士登録、牛島総合法律事務所に入所し、企業法務の第一線で活躍中。ITシステム・ソフトウエアの開発・運用、個人情報・プライバシー、ネット上のサービスや紛争に関する案件を多く手がける。「企業・団体のためのマイナンバー制度への実務対応」(清文社)などの著作がある

いよいよ来年1月から「マイナンバー制度」が導入される。しかし、まだ、具体的に何をどう準備すればいいのか分からないという経営者や関係者も多いのではないだろうか。そこで、今号は今からでも間に合う「マイナンバー制度」対策を紹介する。

平成28年1月以降、さまあざまな場面で必要になる *図版は政府広報HPを基に作成

平成28年1月からマイナンバー制度(社会保障・税番号制度)が導入される。住民一人ひとりに数字のみで構成された12桁の固有の番号を付すことで、官公庁の複数の機関に存在する個人の情報を簡単に利用できる仕組みをつくり、行政の効率化と国民の利便性を高めることが目的だ。

マイナンバーは、今年10月の第1月曜日に当たる5日時点で住民票に記載されている住民に対して、その日以降、市区町村から住民票の住所に簡易書留で郵送される(法人には法人番号が通知されるが、ここでは個人番号にのみ言及する)。利用については28年1月以降となり、社会保障、税、災害対策の分野で行政機関などに提出する書類にマイナンバーを記載することになる。具体的には「源泉徴収票」「給与支払報告書」「厚生年金保険被保険者資格取得届」「健康保険被保険者資格取得届」「雇用保険被保険者資格取得届」などの作成に使用。税務署、市区町村、年金事務所、健康保険組合、ハローワークなどに提出する。

企業では従業員と、その扶養親族、個人事業主などからマイナンバーを取得し、管理することが第一の仕事になる。ただマイナンバー法では罰則規定が個人情報保護法よりも厳しいこともあり、企業はその対応に苦慮しているのではないだろうか。

しかし、マイナンバーに詳しい弁護士の影島広泰さんによると、中小規模事業者(従業員100人以下の「中小企業者」や「小規模企業者」)にとってはちまたでうわさされるほど大変な話ではないという。そこでマイナンバーに対する不安や疑問点を日商のセミナーでも講師を務める影島さんに聞いた。

住民票の住所に直接届く

Q マイナンバー制度が導入されると企業の事務手続きが簡略化されるのでしょうか。

A 基本的には行政の事務手続きの効率化に民間が協力する形の制度のため、マイナンバーを収集し管理する企業には大きなメリットはありません。ただ、社会保険手続きなどで添付書類が省略できるといった利点はあります。例えば、第3号被保険者の資格取得届け出をするときにマイナンバーを記入することで住民票と資格取得証明書類が不要になるなどです。

Q 従業員はマイナンバーをどのように受け取るのでしょうか。

A 10月以降に市区町村から住民票の住所に簡易書留で届きます。通知は世帯ごとなので4人家族なら4人分のマイナンバーが「通知カード」(紙製)として届きます。「通知カード」にはマイナンバーと発行日、氏名、住所、生年月日、性別が記されています。転居などで今の住まいと住民票の住所が異なると「通知カード」が届きません。従業員には住所変更の手続きをするように促しておきましょう。もちろん中長期在留者や特別永住者などの外国人にも通知されます。

Q いつまでに収集しなければならないのでしょうか。

A マイナンバー制度が28年1月からスタートするからといってあわてる必要はありません。例えば給与所得の源泉徴収票であれば28年1月の給与支払いから適用されるため、中途退職者が出ない限り、29年1月末までに提出する源泉徴収票にマイナンバーが記入できればいいことになります。

収集の手間はそれほど掛からない

Q 従業員のマイナンバーの収集はどのようにやればいいのでしょうか。番号収集業者などに依頼しなければならないのでしょうか。

A 従業員100人以下の中小規模事業者という前提でいえば、マイナンバーの収集は難しくありません。毎年11月ごろ従業員に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を配布し、翌年1月まで(提出期限は最初に給与の支払いを受ける日の前日)に回収しているはずです。28年分以降の「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」にはマイナンバーの記載欄が設けられるので、その提出を受ければマイナンバーの収集は終わります。

新入社員に関しては入社時に番号の提出を受けます。マイナンバーの収集対象には役員やパート・アルバイトも含まれます。仕事を請け負っている個人事業主や講演・執筆などで個人に謝礼金などの支払いが発生する場合は、支払い調書にマイナンバーを記入するため、利用目的を明示して個人事業主などからも収集する必要があります。

従業員100人以下の会社では収集の手間はそれほど掛からないことを知っておいてください。規模が大きく工場が各地にあり従業員数が多い会社、居酒屋チェーンのように各地でパートやアルバイトを多く雇っている会社などは番号収集を専門業者に委託することを検討すればよいでしょう。

Q マイナンバーは誰が収集することになるのでしょうか。

A 事務取扱担当者を決めて、その担当者が収集を行うようにしましょう。まず事業者はマイナンバーが取扱規程などに基づき適正に取り扱われるよう事務取扱担当者に対して適切な監督を行わなければなりません。また事業者は事務取扱担当者にマイナンバーを適正に取り扱うよう教育を行う必要があります。監督・教育とは定期的にマイナンバーの取り扱いに関する留意事項の教育や、秘密保持に関する項目を就業規則に盛り込むといった方法が考えられます。

現実的には社長が監督し、総務担当者や経理担当者が事務取扱担当者になるのではないでしょうか。また特段のプライバシーを尊重する必要があるケースでは、事情を知る社長自身が直接取り扱うといった配慮も必要になるでしょう。

通知カードと免許証などで本人確認をする

Q マイナンバー収集時には本人確認が必要なのでしょうか。

A 「通知カード」と運転免許証や住民票などを提示してもらい本人確認(番号確認と身元確認)をする必要があります。勤続10年、20年というよく知っている社員であっても収集時の確認が義務付けられています。ただし入社時(雇用契約時)に本人確認が済んでいる場合には身元確認は免除されます。

Q 本人確認時には具体的に何を確認すればいいのでしょうか。

A 2点確認しなければなりません。提示された「通知カード」のマイナンバーが本人のものであるかどうかの番号確認と、提示者が本人であることの身元確認です。運転免許証や住民票、外国人登録証明書などの身元確認書類は見るだけでよく、コピーを保存する必要はありません。なお「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」には扶養家族のマイナンバーを記入する欄がありますが、従業員自身が扶養家族の本人確認を行うため、企業が扶養家族の確認を行う必要はありません。その意味でも、同申告書でマイナンバーの収集をするのがお勧めです。

Q 従業員や個人事業主らにマイナンバーの収集を拒まれた場合はどう対処するのでしょうか。

A 社会保障や税に関係する書類にマイナンバーを記載することは、法令で定められた義務であることを伝えて提供を求めなければなりません。それでも提供を受けられないときは提供を求めた経過などの記録を残して書類提出先の機関の指示に従います。税務関係の書類であれば空欄で提出して税務署の判断を仰ぐことになります。拒まれて個人番号の提供を受けていないのか、提供を受けたのに紛失したのかが判別できるようにしておくことが重要です。

税や社会保障の関係書類に記載   法定調書での主な変更点 ● 主に支払者及び支払を受ける者のマイナンバーまたは法人番号を記載するようになり、記入欄が追加される。 ● 給与所得の源泉徴収票及び給与支払報告書のサイズは、A6からA5に変更される。 ※給与所得の源泉徴収票には税務署提出用と本人交付用があるが、 本人交付用には支払者のマイナンバーまたは法人番号は記載しないことになっている。   *図版は政府広報HPを基に作成

鍵のかかるキャビネットで保管する

Q マイナンバーの情報はどのように管理すればいいのでしょうか。

A 「マイナンバーを取り扱う区域」は壁や仕切りで囲うなどしてのぞき見されにくくしなければなりません。さらに「情報システムを管理する区域」も明確にして、機器の持ち込み制限や入退室管理などの物理的な安全管理措置を講じなければなりません。ただ中小規模事業者では社長、専務、経理担当者が一つの区画にいるケースが多いので、そこを「マイナンバーを取り扱う区域」と定めればよいでしょう。またマイナンバーを紙ベースで管理するのであれば、鍵の掛かるキャビネットに保管することで物理的な安全管理措置となります。ただし、パソコンで管理する場合は盗まれたり、インターネットを経由して外部から侵入されないような対策を講じなければなりません。

Q マイナンバーの秘密性は、どの程度のものと考えればいいのでしょうか。

A 盗み出されないように安全に管理することが大前提となりますが、銀行の預金口座番号やクレジットカード番号程度の秘密性と捉えればいいでしょう。預金口座番号は必要であれば他人に教えることがあります。しかし第三者が預金口座番号をリストにして他人に渡せば問題になります。とはいえ、預金口座番号だけを手に入れても不正に預金を引き出すことができないように、他人がマイナンバーだけを盗み出しても何ができるというものでもありません。

不要になったら速やかに廃棄する

Q マイナンバーはどのくらいの期間、保存しなければならないのでしょうか。

A マイナンバーを利用する事務を行う必要がなくなり、かつ法令などで定められた保存期間を過ぎた場合は復元できない手段で削除や破棄をしなければなりません。

例えば「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は法定保存期間である7年を経過後、できるだけ速やかに廃業します。書類を保存する必要がある場合でも、マイナンバーの記載部分を復元できない程度にマスキングをしたり削除した上で保管を続けることはできます。

Q 具体的には、中小規模事業者では、どのような手順でマイナンバーを収集管理すればいいのでしょうか。

A 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」でマイナンバーを収集したら、鍵の掛かるキャビネットに保管します。できれば今年中、遅くても28年の間には会計ソフトをバージョンアップしてガイドラインに準拠したマイナンバー対応版にしておきます。そして年末調整までに必要な箇所にマイナンバーを入力して、あとは会計事務所などに任せればいいでしょう。それほど労力は掛からないと思います。

心配しているのは工場や支店が何カ所もある1000人規模の会社です。紙ベースでマイナンバーを管理するには無理があります。だからといって内部の人員を活用し、内部の技術的な安全管理や物理的な安全管理の構築にコストを掛けるくらいなら、適切な委託先を選定して任せたほうがよいという判断もあるでしょう。その場合は番号収集から委託したほうが効率的で低コストの可能性があります。会社の規模や形態を考慮して判断してください。

従業員にマイナンバーが送られてくるまで1カ月を切っています。ですが、今から対策を立てても十分間に合いますし、企業規模によっては内部で管理するほうが低コストなこともあります。正解は各企業の事情により異なります。自社に合ったマイナンバーの収集・利用・管理体制を構築してください。

会社として安全管理の措置を講ずる必要がある *図版は政府広報HPを基に作成

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