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テーマ別誌上セミナー 働き盛りが見落とす歯の健康

監修 倉治 ななえ(くらじ・ななえ)

歯学博士 クラジ歯科医院院長

倉治ななえ(くらじ・ななえ) 歯学博士 クラジ歯科医院院長 1979年日本歯科大学卒業。同大学助手を経て、1983年クラジ歯科医院、1989年テクノポートデンタルクリニックを開設。1990年子育て歯科を開始し、2003年にDr.NANA予防歯科研究所を設立、代表に就任する。日本歯科大学附属病院臨床教授、日本フィンランドむし歯予防研究会副会長、東京都大田区学校保健副会長、日本アンチエイジング歯科学会理事(認定医)・認定医なども務めている。主な著書に『むし歯歯周病の最新知識と予防法』(日東書院)、『魔法の口もと美人スティック』(GAKKEN)、『歯がいい人はボケにくい』(角川SSC新書)などがある

日々の忙しさにかまけて、ついおざなりにしがちな歯のケア。しかし、その油断はやがて虫歯や歯周病を招き、歯を失う原因となるだけでなく、体の健康をも脅かす恐れがあるのだ。年末は会食や酒の席が増える上に、冬の寒さや乾燥なども加わり、歯への負担も大きい。そこで、今月は歯の健康の重要性についてあらためて考えてみる。

密接な関係にある〝歯と体〟

最後に歯科医院を訪れたのはいつだったでしょうか。歯に痛みや不具合があれば受診するけれど、できるだけ行きたくないという人は多いことでしょう。実際、働き盛りの世代で、定期的に歯科検診を受けているのは、少数派というのが現状です。

しかし、今や「予防歯科」の時代。何らかの症状が出るのを未然に防ぎ、丈夫で健康な歯を1本でも多く長く保つことが重要とされています。「痛くなったら歯医者に行けばいい」というのは、もはや間違った常識といえるのです。

というのも、歯の健康は体の健康とも密接に関わっていることが分かってきたためです。例えば、「歯の本数と生存率」を15年間にわたって調査した研究では、男性は60歳を過ぎると、自分の歯が多く残っているほど寿命が長くなる傾向が表れ始め、80歳以上では男女とも残っている歯の本数が多い人のほうが寿命が明らかに長いことが分かりました。また、厚生労働省と日本歯科医師会が、「80歳になっても20本の歯を保つ」をスローガンに「8020(ハチマルニイマル)運動」を推進していますが、実際に80歳の男女を対象とした福岡県の調査では、歯が1本もない人は、20本以上残っている人の約2倍も死亡リスクが高いという結果が出ています。さらには、咀嚼(そしゃく)力(噛む力)の低い人は寝たきりや要介護になるリスクが7・5倍になるというデータもあります。

大人の虫歯と歯周病に要注意

このように歯の健康は、歯だけの問題ではなく、健康寿命とも深く関わっているのです。そんな大切な歯を失う原因の一つに、虫歯と歯周病があります。

虫歯は子どもがなりやすいイメージがありますが、実は、過去に治療した歯が再び悪くなる「二次カリエス」や、歯肉が下がることで露出した歯根が悪くなる「根面(こんめん)う蝕(しょく)」など、加齢とともにできる大人の虫歯も少なくありません。虫歯になる直接の原因は、虫歯菌が出す「酸」。現在、10種類ほどの虫歯菌が発見されていますが、中でも強力な「ミュータンス菌」は、口に入った食べ物や飲み物の糖分を分解してネバネバした物質をつくり、歯の表面に張り付いてプラーク(歯垢)を形成します。このプラークが増殖すると、ミュータンス菌が糖分をエサに酸をつくり続け、やがて歯の表面のエナメル質を溶かしてしまいます。それはやがて虫歯となっていきます。虫歯が進行すると歯髄(しずい)が壊死(えし)し、抜歯する可能性が高くなります。こうなると、大切な歯を失うことになってしまいます。

それでも虫歯の場合はしみたり痛みが出たりするため気付きやすく、自覚症状が治療を受けるきっかけになります。厄介なのは、歯周病。なぜ厄介なのかと言うと、とても気が付きにくいのです。歯は、歯周組織によって支えられています。そこにプラークがたまると、唾液中のカルシウムの働きで歯石化します。そうなると、表面がザラザラするのでさらにプラークがつきやすくなるという悪循環に陥ります。そして歯石はやがて歯と歯肉の間に入り込んで、歯周組織を破壊しながら深く進んでいきます。初期のころは、歯肉が腫れたり赤くなることはあっても、ほとんど痛みがないため気付きません。しかし、そのまま放置していると、炎症が進んで歯を支える歯槽骨が壊され、やがて自然に歯が抜け落ちていきます。この段階になると、歯を残すための治療も困難となります。

歯周病は実に40歳以上の8割がかかっているとされ、女性のほうがかかりやすいといわれています。しかし、男性も油断してはいけません。重症化しやすいのは実は男性なのです。あなたの口の中でも、静かに歯周病が進行しているかもしれません。

生活習慣病を悪化させる!?

歯周病の怖さは、これだけではありません。糖尿病やメタボリックシンドローム、心筋梗塞や脳梗塞、骨粗しょう症など、さまざまな病気と関連していることが次々と証明されてきています。

例えば、歯周病にかかっていると血糖値が下がりにくくなります。そうなると、糖尿病を重症化させると同時に、糖尿病があると菌が繁殖して歯周病を悪化させるという負のスパイラルを引き起こします。糖尿病の人は、健康な人より2倍以上も歯周病になりやすく、悪化させやすいことが分かっており、注意が必要です。

また、動脈硬化は悪玉コレステロールや中性脂肪の取り過ぎが主因とされていましたが、近年では細菌やウイルスの感染も深く関わっているとの見方が主流です。また、歯周病菌の血管壁への感染も引き金になるといわれています。動脈硬化が進行すると、その弊害は心機能にも及びます。実際、歯周病にかかっている人はそうでない人に比べて、狭心症や心筋梗塞を発症するリスクが2~3・6倍も高まるという研究結果が出ています。同様に脳梗塞や脳出血になりやすいことは言うまでもありません。

さらに、近年注目されているのが認知症との関係です。厚生労働省の研究班による調査で、歯がほとんどなく、入れ歯も使っていない人が4年以内に認知症を発症するリスクは、歯が20本以上ある人の1・9倍も高いことが判明したのです。また、歯の本数が少ない人ほど、脳で記憶を司る海馬や前頭葉が萎縮しやすいことも明らかになっています。歯の状態と全身のさまざまな病気がいかに深く関わっているか、イメージできたでしょうか。

セルフケア&定期検診で健康長寿を目指せ

虫歯や歯周病も生活習慣病です。不十分なケアやちょっとした生活行動が引き起こし、重症化させるのです。だからこそ、歯磨きをはじめ日々の生活習慣を見直して、予防を心掛けることが欠かせません。

そうしたセルフケアに加えて、できれば「かかりつけ歯科医」を持ち、体の健康診断同様、歯の定期検診を行うことをおすすめします。1年に2回のペースで受けるのが理想ですが、難しい場合は1年に1回、できるだけ定期的にチェックしてもらいましょう。常に自分の歯の状態を把握しておくことは、歯の健康のみならず、人生をより良く、充実させていくことにつながっていくはずです。

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