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テーマ別企業事例 地域の食材を生かせ 農業・水産業との連携戦略

事例4 進行する魚離れに歯止めをかけ地魚の消費拡大に貢献

福井中央魚市株式会社(福井県福井市)

福井中央卸売市場でのセリ風景。朝早くから威勢のいい声が響き渡る。本セリの後、午前7時40分から始まる「近海今朝とれ市」では、その朝に揚がった定置網漁の魚がセリにかけられ、その日のうちに消費者の元に届く

福井中央魚市は福井中央卸売市場で、ただ1社の水産物卸売(荷受)業者として、日本全国ばかりか海外からも商品を仕入れ、販売している。進行する魚離れに歯止めをかけるため、「魚食」を守る活動にも力を入れている。今回はその取り組みを取材した。

川上と川下を結びつける

卸売市場には、農林水産大臣の認可を受け、自治体が開設する「中央卸売市場」と、知事が認可し、自治体・民間企業・組合などが開設する「地方卸売市場」とがある。福井中央卸売市場は、前者の「中央卸売市場」の一つで、県の嶺北(福井市周辺の地域)地方、約60万人を商圏として抱えている。そこで福井中央魚市は、ただ1社の水産物卸売業者として、生産者と消費者、川上と川下をつないでいる。

「生産者のことを思えば、できるだけ高く売ってあげたい。消費者の立場から見れば、仲買人や売買参加者、つまり実需者には安く買ってもらいたい。当社のような卸売業者にはそんな二律背反の気持ちがあるんです。そして、生産現場は全国ばかりか世界に広がっていて、その状況は時々刻々と変わっています。生産者から仕入れた商品を消費者に提供している実需者側からは、これまた、何が売れているか、どこに新しい店ができるか、次から次へと情報が入ってきます。そうした情報を24時間体制で把握し、分析するのも大事な役目です」

そう語るのは、会長の井上幸喜さん。同社は、昭和49年に、福井中央卸売市場が現在の地に移ったときから、卸売業を営んでいる。平成11年に、もう1社あった業者が廃業。それ以来、単独で水産物の卸売業を担っている。

「普通は、中央卸売市場には2社以上の卸売業者が入っています。例えば、東京都は7社、大阪府は2社というふうに。だから、大手水産会社は系列の特約企業に卸しますし、浜の生産者も選んで荷を入れます。ところが、うちの場合は、市場で1社なので、全メーカー、全生産者の荷が入ってくるのです。つまり、マルハニチロさんの情報も、ニッスイさん、極洋さんの情報もわが社だけで管理できるわけです。これは非常に大きなメリットだと思います」

普通なら、複数の荷受けに行かなければ、それぞれの情報が取れないが、福井では同社だけで情報収集が済む。これは、ユーザーの立場からすれば、非常に効率的だろう。こうして、横串を刺すことで価格のメリットや、質と量の安定供給も生まれる。

強みは鮮度+付加価値

福井の水産業の強みは、「間違いなく鮮度」と井上さんは力を込める。それは、福井に「漁場が近い」「漁港と消費市場が近い」「生産者の鮮度維持に対する特別な思いと工夫」「定置網漁が全体の50%超」などの特色があるからだ。これらの全てが高鮮度、そして味のよさにつながっている。しかも、福井沖は寒流と暖流がぶつかる潮目で、魚の種類も非常に多い。その鮮度を生かす工夫が、魚市でも取られている。「近海今朝とれ市」という二番セリが、それだ。

「通常のセリは、朝の4時30分から始まります。うちはその後に、その日に揚がった魚を7時40分から二番セリで並べているのです。平成2年からやっていますが、19年からは市場が休みの日も開催し、名前も『近海今朝とれ市』としました。実施期間は3月後半から11月までの毎日です。残念ながら、冬場は海が荒れ、定置網漁もできませんので」

つまり、福井では、朝とれた地場の魚が、昼には店頭に並び、消費者は漁師と同じ鮮度のものを食べられるというわけだ。鮮度がよいのだからチェーン店の回転ずし屋でも「福井のものはおいしい」というのも当然だろう。

消費市場と産地市場、二つの役割を持つ福井中央卸売市場。同社ではこの特色を生かす工夫もしている。これまでは地元でしか消費されなかった商品、あるいは余って廃棄されていた商品、それらを同社で冷凍・統合・調整・保管する企画を立案し、実施しているのだ。

「右から左に商品を流すだけではなく、付加価値を生む工夫を凝らし、生産者と実需者をいかに結びつけるかが大事です。われわれはプロ集団ですから、漁獲される魚のことは知っていて当然です。川下の実需者のニーズをくみ取る力をいかに磨くかが肝でしょう。その点では他社より頑張っていると自負しています」

魚食という文化を守る

これを最もよく表しているのが、水産・加工品展示商談会だろう。通常だと、卸売業の展示会といえば、各メーカーに場所を貸すだけにとどまることが多い。しかし、同社では、展示商品の決定・レイアウト・照明・ポップなどの販促物から接客・案内まで、全て同社の社員自らが行っているのだ。

「メーカー別ではなく、魚種別の展開ができるのもうちならではだと思います。また、地元産品には最も力を入れています。毎年10月の展示会に向けて、社員は5月から準備をしているほど。展示会は、うちの営業における最大の柱といってもよいです」

例年、600人以上の来場者が県の内外から集まってくるという。会社を挙げての一大イベントだ。それと同時に、中・小規模の加工品メーカーや6次産業化に取り組む漁業関係者にとっては、販路の確保と商品価値のアップにつながる場にもなっている。

この展示会は、地元の高校生や調理師学校にも案内している。「食育」の観点とともに、「魚食拡大」の狙いがある。消費者の魚離れは同社にとっても死活問題であることは間違いない。文化としての「魚食」を守り育てていくということも、大きな使命だと考えている。

これだけではなく同社では「今月のおうちごはん」という魚レシピを紹介するサイトに協力している。魚料理は難しい、苦手と思っている人に向けて、福井の地魚を中心に、簡単においしくできるレシピが現在、71の海産物で461のレシピが掲載されており、昨年度の実績で、約30万のアクセスがあったという。

サイトの中には「動画で見るお魚のさばき方」というコーナーがある。そこでは、包丁の使い方、魚の鮮度の見分け方から下処理に始まり、種類別に実に分かりやすくさばき方が動画によって紹介されている。こうして同社では福井の〝魚〟の消費拡大に力を尽くしているのだ。

福井をアピールする「魚食文化」への取り組み、漁業関係者や加工業者と消費者を結びつけるビジネス戦略。同社と福井との連携はこれからも続いていく。

会社データ

社名:福井中央魚市株式会社

住所:福井市大和田1丁目101番地

電話:0776-53-1155

代表者:代表取締役社長 三木 讓

従業員:69人

※月刊石垣2015年5月号に掲載された記事です。

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